時狭間
色を無くしすべてが停止した世界で、俺は歯を食いしばりながら立ち上がった。
【時狭間】それは前世の俺が14の頃に神から与えられた異能の一つだ。
【時狭間】を使用した世界では俺以外のすべての時が止まる。
この【時狭間】にはルールが存在する。
まず、時間を止められるのは最大5分まで。
連続使用は肉体へ負荷がかかり過ぎるため危険だ。
更に止まった時の中で生き物を傷つけてはいけないということ。
なぜ停止した世界で生き物を傷つけてはいけないのかは俺にもわからないが、この力を神から授かった時、自然と俺自身がそう判断した。
それは言わば神からの啓示のようなものなのだろう。
俺は止まった世界で辺りを見渡した。
目の前には俺に殺意の衝動を向けるクソみたいな看守。
その周囲にもう三名の看守。
そして背後にはガルフを背に担いだアルセの姿がある。
「さて、どうしたもんか」
このクソ野郎に斬りつけられた背中がジンジンと痛むのだが、お陰で俺は俺を取り戻す事が出来た。
つまり、この背中の傷は前世の記憶を取り戻す為の代償だったのだろうと、一応受け入れてやる。
だが、先ほどガルフが言っていた事が事実だったとしたら、俺は今から400年以上前の時代に遡るための行動を取らなければいけないということだ。
その為にはまずこの足枷を何とかしなければ。
俺は止まった看守から剣を奪い、両足に付けられた枷を斬る。
時間が停止しているのだから、脈を測れずともこれが爆発する事はない。
しかし、【時狭間】を解除してしまえば途端にこのクソ鉄球は爆発してしまうだろう。
一体これがどの程度の威力なのかは俺にもわからないが、ここでこんなモノが爆発してしまったら確実にここは崩れてしまうだろうな。
と、考えるとつい頬が緩んでしまう。
俺は口笛を吹きながらアルセの元に近づき、アルセの足枷も斬る。
そして四個の鉄球をそれぞれ看守の足元に一個ずつ丁寧に置いていく。
足枷という名の爆弾をセットした俺は、マヌケ面の四人のクソ看守に礼儀正しく別れの挨拶をする。
「これまで長い間、大変クソお世話になりました。非常につまらないモノではございますが、別れの粗品です。お収めください。……よし、別れの挨拶も済んだし、行くか。っあ、コレお返ししときますね」
俺は借りていた剣を看守の男に返すと、再びアルセの元に行き、ガルフを背負ったアルセを背負い、ゆっくりと歩き出す。
「しっかし、くっそ重いなコイツ等! とは言え魔族の肉体になったからなのか、或はここでの労働で鍛えられていたのかはわからんが、前世よりなんだか力がついたような気もしなくわないな。とは言え……時間があまりない」
なんて一人呟きながら猛スピードで移動を開始する。
二人を担いだまま全速力で外に飛び出した俺は、【時狭間】を解除する事なくそのまま暫く走る。理由は簡単だ。
鉱山の近くで【時狭間】を解除してしまえば、すぐに別の看守に見つかってしまいめんどくさいからだ。
なので看守の目が届かない場所まで移動する。
非常に賢い。
鉱山から離れた森まで移動すると、【時狭間】のタイムリミットの5分がやって来た。
すると世界は再び色付き動き出す。
それと同時に鉱山の方角から爆発音と共に黒い煙が上がっている。
「クロノスススススススス!」
「なんだよ?」
「っえ……ええええええ!? どないなってんねんコレ!? つーかここどこやねん! 看守達はどこに行ったんや?」
「まさか、クロノス。お前さん記憶が戻ったのか?」
何が起こったのか全く理解できないアルセとは違い、ガルフはすぐに状況を理解したようだ。
「ああ、まあな。それよりも詳しい事を説明してくれるかじいさん。俺はこれから何をすれば過去に帰れるんだ?」
◆
クロノスの【時狭間】が解かれた直後の鉱山内――
「――廃棄処分だあああああ!」
看守の振り下ろした剣先が地面に突き刺さると、看守達はクロノス達が居なくなった事に気づき。
同時に自分達の足元からピピピッと奇妙な音がなっていることにも気づき始める。
「「「「っえ!?」」」」
「嘘だろ?」
「冗談だろ?」
「あのクソガキ共一体何しやがったんだ?」
「てか……これ不味くないか?」
時すでに遅しとはこの事だ。
看守達がそれに気づいた時にはもう手遅れであり。
足枷は大爆発を起し、吹き飛んだ看守達の身体の上に崩れた天井が降り注ぐ。
◆
鬱蒼と木々が覆い茂る切り株に腰を下ろしたぎっくり腰のガルフ。
ガルフは胸元からごそごそっと何かを取り出し、俺へと差し出してきた。
「なんだこれ?」
ガルフが手渡してくれたそれは、赤い魔石が中央に嵌め込まれたペンダントだ。
「それはお前さんから預かっていたシンレクレアと言う物らしい」
「シンレクレア? ってなんだよ?」
「知らん」
「知らんてっ! そんな無責任なっ!」
「仕方ないじゃろう。儂はそれを預かってお前さんに渡すように言われただけなんじゃから」
「おい、さっきから一体なんの話してんねん! 少しは俺にもわかるように説明してくれへんか! それに何で俺はこんな所に居るねん! もう何がどうなってんのかわからんわ!」
アルセの奴が説明をしろと騒ぎ始めたので、仕方なく簡単に俺の前世の事などを説明することにした。
目を細め半信半疑で黙って俺の話を聞いていたアルセが「信じられへんな」と口にするが、すぐに言葉を続けた。
「まぁ、足枷が外れて自由になったし、別になんだってええわ」
「っえ! いいのかよ? 俺は人間だった前世で沢山魔族を殺めたんだぞ?」
「ああ、でもそれは前世の話なんやろ? 今のお前は俺の友達で、魔族のクロノスなんやから! それにその話が仮にホンマやったら、お前が俺達魔族を助けてくれるって事なんやろ? なら何も気にする事ないやんか」
「アルセ………」
「良き友人を持ったなクロノスよ」
「ああ」
「では本題に入ろう」
「本題?」
「儂が最後にお前さんから預かった言伝はこうだ。『精霊島に行き歴史を学べ、そこですべての誤った過去を知れ。歴史を改ざんする為には多くを学び不都合な事実を変えるんだ。今すぐリリィーに会いに行きたい気持ちもわかるが、急がば回れだ!』以上が儂がお前さんから託された全てじゃ」
「急がば回れか……」
俺は俺からの言葉を噛み締め、決意を胸にする。
そして何れ再び俺の前に立ちはだかるであろうマギの事も考えながら、精霊島を一人目指すためにアルセに別れを告げる。
するとアルセが物凄い剣幕で詰め寄ってきた。
「ふざけんなやっ! 俺もまだ魔族が虐げられていない時代に連れてけや! そこで腹いっぱい肉を食って、女も見つけて童貞を卒業するんやからなっ! 一人だけ400年前に行って童貞を卒業なんてさせへんからな! 俺達親友やろ?」
「お前……そんなに童貞卒業したいのか?」
「何言ってんねんっ! 当たり前やろ! 俺は前世のお前みたいに童貞のまま死ぬなんてそんな惨めな死に方したくないねん!」
「………………」
こいつ今サラっととんでもなく失礼な事を口にしなかったか。
でも、うふふ。前世の俺の伝言を信じるなら、俺は無事童貞を卒業できるって事じゃないか。
それはつまりリリィーと、ふふ。
一生童貞かもしれん哀れなアルセより、一歩も二歩も俺の方がリードしてるんだ。何とでも言うがいいさ! うふふ。
こうして俺はアルセと共に歴史を改変する第一歩として、精霊島に向かうことになったんだ。
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明日以降はしばらくは2話投稿となります。




