クロノス戦慄、ルネミアの本気!?
俺はルネミアの着替えの入った袋を抱きかかえ、砂浜を全力疾走するアルセを追いかけた。
「アルセ! その袋をルネミアに返すんだ。ルネミアは着替えがなくて茂みから出られないじゃないか」
俺の呼びかけに走るのをやめ、振り返ったアルセがやらしい笑を浮かべている。
「裸やと何で出てこられへんねん? 俺を見ろやクロノス! 俺はこの通り裸やぞ」
「いや、お前は裸でも気にしないかもしれないけど。普通は裸では他人の前に出てはいけないものなんだよ。兎に角これ以上ルネミアが怒らないうちに袋をこっちに渡すんだ」
「嫌やな。俺かて服を燃やされて裸なんや。ルネミアだけ服を着るなんて卑怯やろ!」
ダメだこりゃ。
アホなアルセにはきっと何を言っても時間の無駄でしかない。
俺はアルセの説得を諦め【時狭間】を発動し、止まったアルセから袋を奪い返した。
そして、止まったアルセを見てふと思う。
別にアルセが全裸でいる事は俺には関係のない事なのだが、流石に丸出しの状態では街には入れてもらえないんじゃないのか?
そう思った俺は近くの茂みから適度な大きさの葉っぱを一枚拝借し、アルセの股間にぺたっと張り付けてやった。
多少……いやかなり変態チックなビジュアルだが、大事な部分を隠していないよりはよっぽどいいよな。
しかしアルセは顔がイケメンな分、今のこいつは恐ろしく残念な見た目だな。
普通にしていればモテそうなのに……まぁこいつがアホな性格である以上モテ期は当分来そうにないな。
だけど一つ心配事がある。
それもやはりアルセの事なのだが。
こんな世間知らずのアホを連れて400年前の過去に戻って、本当に大丈夫なんだろうか?
問題を起こされそうで若干怖いのだが。
俺にガルフを差し向けた前回の俺はどうしていたんだろうな?
アルセの事について何も助言していなかった事から考えても、問題ないということなのだろうか?
俺は一抹の不安を抱えながらゆっくりとルネミアの方に歩き出し、【時狭間】を解除した。
後方からは抱えていた袋がなくなった事に気づいたアルセの騒がしい声が聞こえるが、俺は無視してルネミアが身を隠す茂みへと入って行く。
袋を放り投げてルネミアに渡せばいいのだが、またアルセに奪われたら面倒なので、直接手渡すことにした。
「ルネミア、居るか? 着替えを持ってきてやったぞ」
視界を覆い隠してしまいそうな葉を手で払いながら茂みの奥へと進んでいくと、「キャアアアアアア」と悲鳴を上げてその場にしゃがみ込むルネミアと目が合ってしまった。
ルネミアは耳まで真っ赤に染めて潤んだ瞳で俺を睨みつけている。
俺は咄嗟にルネミアに背中を向けて、後ろ手に袋を差し出した。
アルセの事ばかり考えていて、すっかりルネミアが丸裸だと言う事を忘れていた。
そんな俺の後頭部にはヒリヒリと痛いくらいの視線を感じる。
それと同時に俺の方に近付いてくるルネミアの足音が真後ろで止まると、ガッと雑に袋を奪い取るルネミア。
その態度からもわかるように、ルネミアは相当お冠のご様子だ。
だが、そんなルネミアの吐息が俺の耳朶を微かに揺らした。
「見たんだから、今度こそ責任取りなさいよね。じゃないと………殺すから」
戦慄……まさにその言葉が相応しいだろう。
俺の耳元で地を這うような声で囁かれ、一瞬にして背筋が凍てつき、肌が粟立つ。
居た堪れなくなった俺は逃げるようにその場を後にした。
慌てて茂みから飛び出してきた俺を見て、先程までぐったりしていたガルフが不思議そうに声をかけてきた。
「ん? 血相変えて一体どうしたんじゃクロノス」
「な、何でもない。気にしないでくれ」
額から流れるその汗を袖口で拭っていると、着替え終えたルネミアも茂みの奥から姿を現した。
「逃げれると思うなよ、クロノス」
再び囁かれた声の方にチラッと顔を向けると、ルネミアが威圧感たっぷりな視線を向けくる。
ゴクリと固唾を呑む俺を横目に、ルネミアがアルセの元まで歩み寄っては殴る蹴るの暴行を加えている。
一頻りアルセを殴り終えてスッキリした表情のルネミアとまたまた視線が合うと、俺は恐ろしくなって一歩身を引いてしまう。
「いつまでもこんな所に居ても仕方あるまい。街の方に行ってみるとするかの」
「そ、そうだな。ガルフの言う通りだ。とにかく街に行ってみよう」
俺達はガルフの提案で浜辺から程近い街の入口に向かって歩き始めたのだが、やはりルネミアの視線が気になる。
俺は後方を歩くルネミアに恐る恐る首を回すと、ルネミアは目を細め俺を睨みつけていやがる。
そんな恐ろしいルネミアのすぐ近くには、顔を倍ほど腫らしたアルセの姿もある。
一体どんだけ殴られたらあんなにも顔面が腫れ上がってしまうのだろう。
ルネミアは手加減という言葉を知らないのかよ。
何れにせよルネミアと深く関わるのはいろんな意味で危険だ。
「ほれ、クロノスよ。どうやらあそこが街の入口、関所のようじゃ」
色々と一人考え込んでいたら、すぐに街の入口にたどり着いたみたいなのだが、関所があるって事は通行書か何か必要なんじゃないのか?
それにずっと気になっていたんだが、精霊島は人間の支配を受けてはいないのか? 色々とわからない事だらけなので、ガルフに聞いてみる事にするか。
「関所を通る為の許可書みたいな物は持っているのか? それと精霊島の住民は人間に支配とかされていないのか? 本当に大丈夫なんだろうな」
「精霊島は文字通り精霊たちの都じゃよ。魔族ではない精霊たちが人間に虐げれれる事はない。言わば精霊島とは中立国のようなものなんじゃよ」
「じゃあ誰でも中に入れるのか?」
「知らん」
「はぁ?」
「儂も精霊島に来たのは今回が初めてじゃからな」
「じゃあ街の中に入れてもらえなかったらどうするんだよ!」
「そこはほれ、お前さん自身が何か手を打っておるのではないか? 兎に角、儂はここまでお前さんを案内するように頼まれただけじゃからな」
ちょっと無責任過ぎやしないか? とは言えここまで来たんだから、行くしかないんだけどな。
俺達が関所の前にたどり着くと、ピーっと笛を吹いた小さな火の玉の精霊が通行書の提示を求めてきている。
「通行書がないと街へ入ることは許可できないぞ」
ほら言わんこっちゃないと肩を落とすと、ぷかぷか浮いた火の玉の精霊がじっと俺の顔を見つめ、俺の胸元に視線を落とし何か言っている。
「おい、お前。その首に下げている物を見せてみろ」
「っえ? これのことか?」
俺は最初にガルフから受け取って以来、ずっと首から下げていたシンレクレアと言うペンダントを取り出し精霊に見せた。
すると火の玉の精霊はまじまじと俺のペンダントを見つめ、突然ハッとし、俺に向かってこう言った。
「こいつはシンレクレアだな。ウンディーネ様がお待ちだ。街の中央にある水の神殿に行くといい。そこでウンディーネ様がお前を待っている」
俺とガルフは首を傾げ、アルセとルネミアは入っていいって言ってんだからさっさと入ろうと急かし、俺達は精霊島の街へと足を踏み入れた。
ガルフが先ほど話していた、俺が何らかの手を打っているのではないかと言うのは、こう言うことだったのか。
しかし、ウンディーネ様ってのは誰だ?
変な奴じゃなければいいんだが……。
考えていても仕方がないので、俺達は火の玉の精霊から教えられた水の神殿とやらに向かうことにした。
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