燃えたパンツの行方
痛そうにお尻を摩るルネミアと目が合うと、少しムッとした表情を俺に向ける。
「なんやお前ケツが痛いんか? ひょっとして痔か?」
「ち、違うわっ! これは昨夜ばあさまに尻叩きをされたから傷んでいるだけだ! 痔な訳あるかっ!」
「そういえば昨夜はハレンチ娘がどうとか言っておったの。お前さん欲求不満なんじゃないか?」
「そんな訳あるかっ! 元はと言えばどこかのヘタレの根性無しが私を誘っておきながら、土壇場で怖気付いたのが悪いんだ!!」
キッと鋭く睨みつけてくるルネミア。
そもそも俺は一切誘ってなんかいないのだが、女のプライドを傷つけてしまったようでルネミアは若干、いやかなりご立腹と言った感じだ。
「なんや、お前えっちな事がしたかったんか? それならそうと素直に言えばええやろ。精霊島に向かうまでもう少し待ってもらえるか?」
「はぁ? おい、離せっ! 触るなこの変態っ!」
「何を照れてんねん。お前も童貞を卒業したいんやろ? なら任せえ! 俺は男でお前は女や。いい機会やからお前で俺も童貞を卒業するわ」
アルセは嫌がるルネミアの腕を引っ張り、スレイの洞穴住居に連れ込もうとしている。
そんなアルセに険しい表情を浮かべるルネミアが大きく息を吸い込み、アルセに向かって勢いよく吐き出した。
「あっじぃぃいいいいいいいいいいいいいいいっ!?」
「げっぷ」
ルネミアの吐き出した息が豪快に音を立て燃え盛ると、突然の火に包まれたアルセは高く飛び跳ね勢いよく尻餅をついた。
竜族だから炎を吐くことは何となくわかっていたが、まさかここまで強力とは驚きだ。
「なにすんねんこのボケっ!」
「それはこっちの台詞だこの変態っ! 気安く私に触れるなっ」
またくだらん二人の言い争いが始まった所に、スレイとガルマの二人がやって来た。
「そろそろ立つようじゃの」
「何れまたここに帰って来い、クロノス! その時こそ真の俺と貴様とでどちらが強者か再び決闘をするぞ」
真の俺って……ガルマは余程負けず嫌いなのか、まぁどうでもいいけど。
「ああ、そうだな。それより未だに一匹も竜の姿が見えないようだが、ちゃんと竜を手配してくれているんだよな?」
「安心しろ。約束通り責任を持ってお前達を精霊島まで私が送り届けてやる」
「私がって、ルネミアが竜の手綱でも取ってくれるのか?」
「まぁ、見ていろ」
一言そう言うと、ルネミアの身体が燐光の輝きに包まれ、衣服を引き裂き巨大な赤竜へと姿を変えた。
「「「!?」」」
「マジかよ!?」
「すげー!!」
「これは見事な赤竜じゃな!」
俺は驚きスレイとガルマに顔を向けると、優しく頷くスレイと誇らしげに唇をつり上げるガルマ。
ガルマが今しがた言った真の姿と言うのはこういう事か。
でもそれなら初めから人間に対してこの姿で襲いかかれば楽勝だったんじゃないのか?
俺が色々と疑問に感じていることを察したのか、スレイが静かに口を開いた。
「人間相手にこの姿を晒してしまえば、我らの鱗を狙った多くの人間が更なる大軍勢で襲い来るやもしれん。従って我らは真の姿を余程の事がない限り晒しはしないのじゃよ」
「なるほど」
ガルマがこの里最強の戦士と言うのも、この真の姿に戻った時の事なのかもしれないな。
「あと、これを持って行ってくれるかの?」
「なんだこれ?」
スレイから布袋を受け取ったのだが、土産でも用意してくれたのだろうか?
「向こうに着いたらわかるじゃろ」
「そうか、よくわからないけど持ってくよ。それじゃあ精霊島に向けて出発するとするか!」
「うむ、そうするとしようかの」
俺とガルフが赤竜と化したルネミアの背に乗っかったのだが、アルセがまだ乗っていない。
一体何をしているのだろうとアルセに視線を向けると、アルセは引き千切れたルネミアの下着を必死にかき集めては顔に押し当て匂いを嗅いでいる。
「何やってんだよあのアホは」
そのアルセの変態的な行動を眼にした赤竜となったルネミアは、大きく息を吐き出し、先程以上の灼熱のブレスをアルセに向かって吐き出した。
全身を炎に包まれたアルセの手にしていたルネミアのパンツの切れ端は勿論、アルセの衣服までもすべて灰と化してしまった。
「あああああああああああああああああああああああっ!? 俺のパンツがああああああああああっ!!」
いや、そんなパンツの切れ端よりもスッポンポンになった自分自身を心配しろよ! 丸見えだぞ!
アルセの掌の消し炭が風に流され消え去ると、涙目で拳を握り締めるアルセが無言でルネミアの背に乗り込んでくる。
アルセはルネミアの背に全裸で胡座を掻き、腕を組んでは顔を歪めるている。
「と、兎に角出発してくれルネミア」
「グギャァアアアアアアアアアアアア!」
高らかに声を上げたルネミアが巨大な翼を羽ばたかせて、空高く舞い上がると、俺はスレイとガルマに大きく手を振り別れを告げた。
「二人共ありがとうー!!」
飛び立つ俺達を見上げる二人の姿が徐々に小さくなり、その姿が見えなくなってしまった頃、全裸のアルセがルネミアの背でうつ伏せになって何故か背中を撫で回している。
一体こいつは何をしているんだ?
「アルセ、それは一体何をしているんだ?」
「見てわからんのか」
「わかんねぇーから聞いてんだよ」
「ええかクロノス、今ルネミアは俺と同じでスッポンポンなんや」
「それが何だよ?」
「俺は今ルネミアの背中にちんちん押し付けてやっとんねん。はははは」
こいつは正真正銘のゲス野郎だ! こんなのが今世で俺の唯一の友達なんて悲劇だ! と、思ったのも束の間。
「グォォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
今の会話が聞こえていたのか、ルネミアが怒りの雄叫びを上げて上空で俺達を振り落とす勢いでクルクル回転しながら暴れ始めやがった!
「お、落ち着けルネミア!? 今のは冗談だ、アルセのジョークなんだよ!」
「このボケがっ! お前の所為で儂らまで巻沿いを食らってしまうじゃろうがっ!」
「ははははは、振り落とせるもんなら振り落として見やがれや!」
「アホかっ! これ以上怒らせてどうするんじゃ、ばかたれえええええっ!!」
それから丸一日。
振り落とされれば転落死と言う地獄のドラゴン飛行を味わった俺達。
その後、精霊島の砂浜に降り立った俺とガルフは酷い竜酔いでぐったりしていた。
一方アルセはというと。
「あははは、めちゃくちゃおもろかったな、クロノス!」
どうなってんだよこのアホは。
更に茂みの奥から眩い光が発せられ、竜化を解いたと思われるルネミアが何か叫んでいる。
「おい、クロノス! ばあさまから預かった荷物をこちらに投げるんだ」
ああ、そういう事か。
この袋の中身はルネミアの着替えか。
俺がふらつきながら袋を茂みに投げ込もうとすると、何かを悟ったアルセが俺から袋を強奪し、砂浜を駆けていってしまった。
「っえ?」
「ちょっとなにしてるんだ! 早く着替えを寄越せ!」
まずい。
これは非常にまずい。
ただでさえ怒っているルネミアの怒りに油を注いでしまう。
仕方ない、アルセを捕まえるか。
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