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魔王と謎の魔族

 教会で祝福を受けてから二年の月日が流れた。


 俺は現在、世界中から集められた勇者と共に魔王城目前までやって来ている。


「というか魔王城のすぐ側まで来たって言うのに、この辺に居る魔物も魔族も大した事ねぇーじゃねぇーかよ。それとも何か? 俺様があまりにも強すぎたのがいけねぇーのか?」


 燃え上がるような赤い三叉槍を両肩に乗せ、俺様モード全開のこいつはベルノア。


 俺より一つ年が上で、長く伸びた真っ赤な髪を背で一纏めにしている。


「あんまり油断はせん事じゃな、仮にもここはもう魔王城の敷地内も同然なのじゃ。油断して足元をすくわれては目も当てられんわ」

「じーさんの言う通りよ。あたし達は魔王をぶっ飛ばして正真正銘の英雄になるんだから!」


 そう言ったのは大賢者ゴーゲンと女勇者レアミア。


 ゴーゲンは既に100歳近いじいさんで、大賢者に相応しく長く伸びた白髪に真っ白なヒゲを蓄えている。


 一方レアミアは、蒼海のような真っ青な魔弓を手に、淡い水色の髪を靡かせる品のあるお嬢さまと言った見た目なのだが、意外と口が悪い。


 そして、先程から黙って魔王城を睨みつけている金髪に黄金の瞳のコイツはマギだ。

 この二年間でマギも随分と変わった。


 だが、相変わらず俺はマギに嫌われているみたいだ。


 マギはこの二年間でリリィーへの想いを断ち切ったのか、様々な地で数多の女と浮名を流す色男へと変貌を遂げていた。


 俺はと言うと、この黒髪黒目の様にとにかく地味な勇者だと言える。

 きっと、いや間違いなく勇者の中で童貞は俺だけだろう。


 だけど俺は決してそれを恥じてなどいない。


 なぜなら俺には将来を誓い合ったリリィーが、今も遠く離れた故郷で俺の帰りを待ってくれているのだから。


 さわさわと俺は懐から紐で縛った大量の手紙を取り出し、その匂いをクンクンと嗅ぐ。


 頬を赤らめては手にした恋文に目を通し、思わず頬が緩む。


 この二年間、リリィーと互いの思いを確かめるように何度も交わした恋文は、いつも俺に勇気をくれる。


 そしてこの手紙を読む度に、俺のリリィーへの思いが一層募っていく。


 【――ねぇ、クロノス。いつかの約束を覚えてる? 

 私はクロノスがお花の指輪をくれた時の約束を一度だって忘れたことなんてないわ。

 早くその言葉の通りになる様に毎日神様にお祈りしているの。

 どうか無事に帰ってきて下さい。愛を込めて リリィー】


 必ず書かれてあるこの文字を見る度に、俺の心は締め付けられるように苦しくなる。


 そして思わず涙腺が緩んでしまうんだ。


 それと同時に早く会いたいと言う焦りにも似た感情が押し寄せてきては、身が引き締まる思いだ。


 俺はジュルルルと鼻を啜り、待っていてくれよリリィー、もう直に帰るからなと思いを馳せる。


 そしたら俺も念願の童貞卒業だ!

 子供だっていっぱい作ってやるんだからな! ふふ。


 どんよりとした暗雲を見つめながらそんな事を考えていると、


「相変わらず気色の悪い童貞妄想かっ? 抱けもしない女にいつまでも想いを馳せているお前の気が知れないな」

「なんだと! 俺はお前と違って一途なんだよ! お前みたいに誰でもいいって訳じゃねぇーんだっ!」

「んだとコノヤロウー! 人の気も知らないで好き勝手言ってくれてんじゃねよっ! ぶっ飛ばすぞ、名も無き勇者の分際でっ!」

「おいおい、こんなところで仲間割れしている場合じゃないだろう? それよりもとっとと魔王をぶっ殺してサクッと英雄凱旋と行こうぜ!」

「ベルノアの言う通りよ。根暗勇者も童貞勇者もさっさと行くわよ!」

「その言い方はやめろ!」

「根暗じゃねぇーよ!」

「青いの~。青春じゃの~。儂は永遠のDTじゃから、お前さんらが羨ましいわ。わはははは」



 なんてまるで緊張感の欠片もない会話をしながら、俺達は五人で力を合わせ魔王城を突き進んだ。


 そして遂に、俺達は魔王の居る最後の扉の前までやって来た。


「準備はいいな?」

「もちろんだぜ」

「サクッと終わらせるわよ」

「儂もう歳じゃから、お前さんらに任せるわ」

「この先に居る魔王を倒せば、やっとリリィーの元に帰れるんだ」


 マギが勢い良く扉を蹴破り、俺達は一斉に魔王の間へ駆け込んだ。


「よくぞここまでたどり着いのじゃ、愚かなる人間よ! しかし貴様らの悪運もここまでじゃ」

「「「「「………………」」」」」


 俺達の前には頭部に二本の角を生やした幼女が、腕を組み仁王立ちしている。


「お、おい。まさか魔王ってこのちんちくりんのガキじゃねぇーだろうな?」

「あたし達はこんな子供を倒すために二年間も旅をしてきたって言うの? 嘘でしょ!?」

「儂そこで座って見とるから、あとよろしく」

「とにかく見た目が子供であろうが、コイツが魔王である事には変わりない!」

「マギ、相変わらずお前は残酷だな」

「うるさいっ! とにかくフォーメーション俺Tueeeだっ!」

「まぁ、確かに魔王には変わりないしな」

「悪く思わないでよ、おちびさん」


 俺達が戦闘体制に入った事を確認した魔王が慌てて口を開く。


「ちょ、ちょっと待つのじゃ! お前達が来るの早すぎた所為で、まあちゃんはまだ魔王覚醒出来ておらんのじゃ! あと五年、いや一年待ってはもらえんか? お前達も今のまあちゃんを倒してもクソの自慢にもならんじゃろう?」


「「「「「………」」」」」

「っえ? まあちゃん? ……で、どうする? なんかちょっとかわいそうなんだけど」

「クロノス、あんた馬鹿なの! 今ならサクッと倒せるっておちびちゃん自ら教えてくれてんのよ!」

「まぁ、魔族といえどガキを殺すのは確かに気が引けるが、これも勇者の勤めだ!」


「なら、ベルノアとレアミアに今回は譲るよ」

「「っえ!?」」

「だってほら、じいさんはやりたくないって言ってるし、俺もなんだか気が引けるから」

「「………………」」


 黙り込んでしまったベルノアとレアミアを横目に、鬼畜過ぎる根暗勇者こと聖剣のマギが魔王に強烈な一撃を放ちやがった。


「くたばれ魔王! 聖剣の輝きカラドボルグウウウウウウウウ!!」


 マギの振るった剣先が神々しい輝きを放った瞬間、世界は突然色を失い、時が止まってしまった。


「ん? これは、時狭間?」


 【時狭間】とは勇者としての俺の異能の一つ。


 それは俺以外のすべての時の流れを停止する技なのだが、俺は今【時狭間】を使用していない。


 なにが何だか分からず呆然と立ち尽くしていると、魔王が座って居たと思われる椅子の裏から人間に非常に近い見た目をした魔族が姿を現した。


「クロノスだな?」

「誰だお前!? それになぜ俺の名を知っている? 俺に魔族の知り合いはおらんぞ!」

「すまない。今はまだ俺の素性は明かせないんだ。ただお前に頼みがある」

「はぁ? 頼み? 魔族が勇者に頼み事ってふざけてんのか?」

「兎に角聞いてくれ。今から俺がお前に大事な事を伝える」

「ん? 大事なこと?」


「そうだ。お前達勇者一行はこのあと魔王を倒し王都に凱旋するのだが、そこでお前に不運が訪れる」

「不運? なんで世界を救った俺が不運に遭うんだよ?」

「………詳しいことは話せない。だが信じて欲しい。今この小さき魔王を殺してしまったら、お前はもう二度とリリィーに会えなくなるんだ」

「ちょっと待て!? 何でお前がリリィーの事を知ってやがるんだよ!」

「すまん、詳しいことは話せないんだ。しかし信じて欲しい。お前がもう一度リリィーと再会するためにも」


「うーん………。で、俺はどうすりゃーいいんだよ?」

「やっぱり、簡単に信じてくれるんだな」

「やっぱり? よくわからんが、どうするか説明しろよ」

「俺はこのまま小さな魔王を連れてこの場から立ち去る」

「はぁ? そりゃー逃げるって事じゃないかよ!」

「そうだ。だが約束する。俺は必ずこの魔王を優しき魔王に育ててみせると」

「優しき魔王? そんな事してなんの意味があるんだよ?」


「俺の目的は人間と魔族の共存だ。今は俺の言っていることが理解できなくても、必ずお前は今日のこの日をいつか思い出すはずだ。そしてそれこそがお前が名も無き勇者に選ばれた理由なのだろう」

「どの古文書にも記されていなかった俺の紋章の事をお前は知っているのか?」

「すまない、そろそろ時間だ。俺はもう行く。あとはお前自身が答えを見つけるんだ。俺もまたその途中なのだから」

「おい、待てよ!」


 俺と同じ【時狭間】を使った魔族が魔王を担いでこの場から姿を消すと、再び時間は動き出した。


 マギの放ったカラドボルグが魔王の間を半壊させ、破壊音と衝撃波がこの場に吹き荒れる。


「魔王はどうなったのよ?」

「消し飛んだ」

「「!?」」

「マギ………お前えげつない野郎だな」


 マギ達は魔王が消し飛んだと思っているようだが、真実は俺しか知らない。


 だが一人、じっと離れた所から鷹のような鋭い目で俺を見るじいさんの、不気味な姿がそこにはあった。


 この日、遂に世界から魔王は姿を消し、俺達勇者の勤めも終わりを迎えようとしていた。



 そして、魔王を倒したと思い込んでいる仲間と共に、俺は王都へと凱旋に向かった。

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