決闘
「まず、逃げずにここまでやってきた事は褒めてやろう。だがっ! 勇気と無謀を履き違える貴様はただの愚か者でしかない! この竜族一の戦士ガルマが貴様のその愚かな勘違いと共に、息の根を止めてくれるわっ!!」
物凄い気迫で地面に槍を叩きつけるガルマ。
槍が叩きつけられた地面からは重量感のある硬質な音が響き砂埃が舞い上がる。
客席からは割れんばかりの歓声が湧き上がると、大勢の同胞達の声援を背に、満足そうに唇の端をつりあげるガルマ。
コイツがどれほどの使い手なのかはわからないが、丸腰で勝てるほど弱くはないだろう。
いっそ【時狭間】で時間を止めてガルフの短剣を取りに行くか?
だが短剣なんかで勝てるのか?
前世でも竜族と戦った事はあるが……あの時は勇者としての武具を持っていたし、短剣とでは武器が違いすぎる。
どうしたものか?
「ん? まさかとは思うが、貴様丸腰で俺と戦うつもりではなかろうな?」
不味い、武器を持っていないことがバレてしまった。
だが、ここで武器を忘れたから取りに行ってもいいかなんて言えるはずもない。
そんな事を言ってしまったら大勢の観客のいい笑い者になってしまう。
そんなの絶対に嫌だ!
「お、俺の武器はこの俺の拳なんだよ」
拳を握り締めガルマに右腕をかっこよく突き出すと、目を細めたガルマが微かに頷いた。
「なるほど。見た目とは違い貴様モンクか。それではこちらも素手でやる必要はなく、この槍を思う存分振えるというものだな」
っえ!?
カッコつけて変な事言わなきゃ素手でやってくれていたのかよ!
くっそおおおおおおおおおお!
それならそうと先に言ってくれよっ!
『ガルマの奴はよくあんな槍を軽々と振り回せるよな』
『それにしてもあの鬼の少年、一体何分持つんだろうな?』
『何分だって? 数秒の間違いなんじゃないのか?』
『あはは、違いねぇーや』
『ガルマの旦那っ! あんまりにもすぐに殺しちまったらせっかくのショーがつまらねぇーから、俺達を楽しませてくれよな!』
『『『『――ハハハハハハッ』』』』
客席から飛び交う野次に耳を傾ければ傾けるほどアウェイだな。
まぁ、よそ者の俺とこの里一番の戦士ガルマとじゃしゃーないか。
とにかく、まずは油断しないようにガルマの実力を測るんだ。
「覚悟はいいか小僧っ!」
声を張り上げると同時に両手で槍を頭上に掲げては、風車のように高速で槍をぶん回し始めるガルマ。
ビュンビュンと風を切り裂く鋭い音が俺の鼓膜を揺らし、ガルマを中心に円形状に風圧が生まれる。
その先端が触れれば切れるだけでなく、柄で殴られても普通の人間ではひとたまりもない火力のありそうなものである事がわかる。
長くて重い武器は竜族の様に力ある者が振るえば運動エネルギーが増大し、恐ろしい武器となるが、いかんせん単調になりやすい。
熟練の者でも必ず隙が生まれる。
俺にはその一瞬でいい。
俺はガルマから決して目を逸らさない。
些細なガルマの動作も見逃さないように注意深く見続ける。
今のところガルマにこれといった驚異は感じられない。
通常剣と槍では剣の方が3倍程の実力が必要になり、前世では随分と苦労した時もあったのだが。
更に機嫌を良くしたガルマは得意げな顔で流れるように槍を回し、槍の重さを感じさせぬ足捌きをみせ、その柄をしならせる。
まるで軽い棒切れを振るうかの様な剛力を誇示したかと思えば仁王立ちし、お先にどうぞとばかりに挑発してくる。
『さすがだぜ!』
『見ろよあのガキ、声すら出ずに呆けているぞ』
『あまりのガルマの速さに言葉すら失ってるじゃねえか!」
観衆が自分の事の様に得意げにガルマを褒め称えている。
ん? 速………い? ……そこまで速くはないような……。
どういう事だ? コイツは俺を油断させるためにわざとやってるのか?
わざとなのか? わざとなんだよな?!
間違いない! 絶対にわざとだ!!
俺を惑わせるための戦法なのはバレバレだ!!!
そうやって俺を混乱させるのがお前の狙いなんだろう!
だとすれば俺は奴の狙いにまんまと引っかかってしまったと言う事か!?
クソッ、俺としたことが!
「来ぬのか……安心しろ! 苦しまずにひと思いに貴様の息の根止めてくれるわっ!」
腰を落とし地面を蹴りつけ鋭く突進してくるガルマ。
だが……やはり桁違いに速いと言う訳ではない。
いやでも待てよ、直前で超加速しとてつもない突きを放ってくるつもりかもしれん。
ガルマと俺の距離はまだ15メートル程ある。
ガルマが手にする槍の長さは3メートル程だ。
ゆっくりと迫り来るガルマとの距離が縮まり10メートル……5メートル。
まだ加速しないだと!? いつ超加速するつもりだ?
油断せずに【音の無い世界】を発動させるべきか?
ガルマが俺の目前にたどり着き、雄叫びを上げながら槍を突き抜く。
「くらえええええ! 我が必殺の一突きっ! 竜の咆哮っ!!」
ガルマが放った一突きにより大気は振動し地は裂け、砂煙が巻き上がり俺とガルマを包み隠す。
俺を通り抜けた衝撃波が後方の石壁を砕き、破壊音が場内に響き渡った。
その直後、煙に包まれた俺達の元に落雷のような歓喜が轟く。
『うおおおおおおおおおおおおおおおっ!』
が、煙が徐々に消え、再び俺達の姿が観客の視界に映り込むと、歓声はピタッと止んでしまった。
――シーン………
静まり返る闘技場。
目の前で槍を手にするガルマが目を見開いたまま止まっている。
「っはぁ!?」
「………へ?」
ガルマが間の抜けた声を出すと、俺もつられて情けない声が出てしまう。
何故なら、俺はいつ超加速するかもわからないガルマの槍に意識を集中させ、身構えていたのだが、顔面に槍先があと数センチで届く所で槍を掴み取ってしまったんだ。
ガルマは俺に槍を掴み取られたことに驚きを通り越して固まってしまっているようだが、それは俺も同じだ。
え? どういうことだ?
全然超加速しなかったぞ?
それともまだガルマは本気を出していないだけか?
でも今必殺って叫んでいなかったか、コイツ?
ガルマと目が合い、見つめたまま静止すること3秒。
……ひょっとしてここからまだ何か仕掛けてくるつもりなのか?
だとしたらその前に一撃だけでも入れれるうちに入れとかないと!
俺は腰を落としガルマの無防備な土手っ腹に軽く拳を当てる。
「っぐぅ――うわあああああああああああああっ!!」
悶絶に表情を歪めたガルマが鼻水を噴射しながら【く】の字に背を曲げて後方の壁に激突する。
――ドオオオオン
呆気なく壁に巨体を食い込ませるガルマを見て、俺は思わず目を丸め驚愕してしまう。
「ええ……」
………どういうことだ? ガルマはこの里一番の戦士なんじゃないのか?
それともこれも観客を楽しませる為の演出、つまり猿芝居なのか?
だけど、ガルマの奴は確かに今俺の拳で吹き飛んだよな?
自ら後ろに跳び跳ねた風には見えなかったけど……どうなんだ?
それにさっきの槍の一撃は確かに普通に考えたら脅威的な一撃ではあるが、この里一番の戦士にしてはあまりにもお粗末じゃないか?
竜族一の戦士なんて言うから、どれだけ強いのかと若干弱腰になっていた俺がバカみたいじゃないか!
でもまぁあの様子じゃガルマはもう戦闘不能だろうし、俺の勝ちでいいんだよな?
俺が勝利宣言の為に、固まってしまった観客達に若干申し訳なさそうに拳を天高く突き上げると、静まり返った闘技場が地響きのような響めきに包まれる。
『『『『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』』』』
俺は歓喜に湧き上がる観覧席を見回し、客席に居るガルフとアルセに顔を向けた。
二人は俺の試合など端っから見ていなかったのか、ポポコーン争奪戦を繰り広げている。
な、なにやってんだよアイツら………。
アホは放って置いて心配していたルネミアの元に視線を向けると、ルネミアは金魚のように口をパクパクとさせて固まってしまっている。
ルネミアのそのリアクションも無理はない。
なんたって里で一番の実力者がこんなにもあっさり伸されてしまったんだからな。
というか俺自身とてもびっくりしているんだが……。
確かに俺は前世で魔王城にたどり着く程の勇者だったのだが、勇者の魂と魔族の血が合わさってしまった今、俺の力は自分では検討もつかない程上がってたりするんじゃないのか……?
何れにせよ、これで俺達が役立たずじゃないって事が証明された訳だ。
あとは攻めてくる人間達を追い払い精霊島に向かうだけだな。




