闘技場
筋骨隆々とした体を見せつけるように俺達を見下ろし一睨してくるガルマ。
「確かに俺達はよそ者だが、ルネミアの話を聞くところ、かなり人手が足りていないようだが?」
「なんだこの貧弱そうな小鬼は? 仮に人手が足りていなければなんだと言う? 貴様らのような軟弱者の力でも借りろと申すか? ガハハハ―― クソの役にも立たんわっ! 身の程を弁えよっ」
ガルマが俺達をバカにしたように高笑い、珍しく真剣な表情のアルセが口を開いた。
「おい、お前!」
「ん? なんだこのアホそうな奴は?」
やはりアルセも男だな。
ここまで馬鹿にされては流石のアルセも何か思うところがあったのだろう……と思ったのだが、どうやら違ったようだ。
「チャック全開やぞ」
「!? っあ!」
顎を引き股間を見下ろしたガルマはサッと背を向け、チャックを引き上げる。
少し頬を赤らめながら再びこちらに向き直し、わざとらしく咳払いなんかしている。
しかし、ガルマの社会の窓が全開だった事はこの場に居る者全員気づいていたとは思うが、よくもまぁこの状況でコイツはそれを指摘できるな。
まぁ、どうせ何も考えていない空っぽの頭だから言えるのだろうが……。
けどアルセのお陰で少し空気が変わった事も事実だ。
ある意味よくやったと褒めてやりたいくらいだ。
「ガルマと言ったな。俺達が役に立たないと思うからお前は俺達の協力を断るのか? だとしたら、俺達がちゃんと役に立つと言う事を証明する事が出来たら考えを改めてもらえるだろうか?」
「貴様らが役に立つ証明だ? ……そこまで言うのなら良かろう。では貴様らのうち代表者一名がこの俺と一騎打ちをし、俺に一撃でも入れられたら考えを改めてやろう。どうだ? それとも怖気づいたか?」
「いや、それは助かる。で、決闘はどこでするんだ?」
「おい、貴様クロノスと言ったな! 考え直せっ! ガルマは見てわかるようにこの里一番の戦士なんだぞ! 決闘なんてしてみろ、下手をしたら命はないぞ!」
慌てた声音で俺とガルマの決闘をやめるように口を挟んでくるルネミアだが、こちらとしても精霊島行きがかかっているので「はいそうですか」とやめる訳にもいかないんだ。
それにガルマは既に不敵に口元を歪ませ、やる気満々の様子だしな。
「黙れ小娘っ! これは俺とこの小僧との純粋な決闘なのだ。女の貴様がしゃしゃり出て来るところではないわっ! 貴様も逃げずに準備が出来次第闘技場に来るがいい!!」
「ああ」
ガルマは決闘の場所を伝えると、愉快そうに洞穴から出て行ってしまった。
ガルマが居なくなってすぐ、ルネミアの声が洞穴の住居内に響き渡った。
「クロノス、貴様はバカかっ! 自殺願望でもあるのか?! 相手はこの里一番の戦士なんだぞ?! お前本当に殺されるぞ!!」
ルネミアに、というか女の子に心配されるのは正直嬉しい。
だが今はそんな事を言っている場合じゃない。
ルネミアの言う通り、この里で一番の竜族の戦士と決闘をするのだ。
相手の実力が未知数である以上、本当にただでは済まない可能性もある。
でもだからと言って尻尾巻いてここを立ち去る訳にも行かないんだ。
一分一秒でも早く精霊島へ向かい、俺はリリィーに会いたい。
その為に通らなければいけない試練だと思ってガルマとの決闘に勝つしかない!
「ルネミア、お前の心配は有り難いが、俺も男だ! 一度受けた決闘をなかった事にする事は出来ない。まぁ、殺されないように出来るだけ足掻いてみるさ」
「クロノス……」
俺がルネミアに優しく微笑みかけると、ルネミアは悲しそうに俯いてしまった。
「んじゃー早いところ闘技場とかいう場所に行こうや」
「そうじゃな。案内してもらえるかのルネミアよ」
緊張感の欠片もなく、あっけらかんと口にする二人はもう少し俺を心配してくれてもいいと思うのだが……。
この二人にそんな事を期待するだけ無駄だと思い、俺はルネミアの案内で闘技場へと移動した。
◆
洞穴の中に造られた闘技場は広く、観客席などが設けられている。
どこで聞いて集まってきたのかはわからないが、闘技場は大勢の観客で埋め尽くされていた。
その闘技場の中央には威風堂々とガルマが槍を地面に突きつけ佇んでいる。
その堂々たる姿に客席からは里一番の戦士、ガルマを称える声が飛び交っている。
「儂らは向こうの客席から見ておるからの」
「おい、ジジイ。そんな事よりアイツが売ってるあれはなんや?」
「ああ、あの売り子が売っとるのはポポコーンじゃな」
「旨いんか? 俺は一文無しや。ジジイが買え!」
「威張りながら言う事か! それにそれがものを頼む態度か、ったく!」
……。
俺が今から生死をかけた決闘をしようって言うのに、何がポポコーンだよ。ふざけんじゃねぇーぞ!
ちょっとは俺を心配しろよ! ってかしてくれよ!
「クロノス………ヤバいと思ったらすぐに降参するんだぞ。ガルマはああ見えても竜族の戦士だ。負けを認めた者を甚振るような真似はしないだろう」
ルネミア……なんていい子なんだ。
森で初めて会った時は凶暴な少女だと思ったが、あのイカレポンチ二人とはくらべもんにならんくらいいい子じゃないか!
透き通る眼差しで心配そうに俺を見つめるルネミアに、不覚にも俺は少しキュンとしてしまった。
いかん!
俺は慌てて首を振り、すぐに愛しのリリィーを思い浮かべる。
すまんリリィー。
少しでも他の女にときめいてしまった愚かな俺を許してくれ。
「どうしたんだ、クロノス?」
「何でもない、じゃあ行ってくる」
「ああ、健闘を祈る」
(それにしてもクロノスは丸腰でガルマと戦うのか?)
俺は大勢の観客達の視線を一身に受け、少し緊張しながらガルマの待つ中央へと歩き出した。
◆
一方客席でガルフに買ってもらったポポコーンをむしゃむしゃと頬張るアルセと、草臥れた老人ガルフは客席からガルマと向き合うクロノスを見下ろしていた。
「あははは。クロノスの奴ありゃー相当緊張しとるな」
「っあああああああああああああ!!! しまった!?」
「なんやねんジジイ。いきなり大声出すなよな、耳がキーンてするやろうがっ!」
「そんな事を言っとる場合ではない! ……クロノスに短剣渡すの……忘れちゃった……」
「なにやってんねんジジイ! じゃあクロノスは丸腰であのゴツイのと遣り合うちゅうんか?!」
目を合わしゴクリと唾を飲み込むアルセとガルフ。
「「………………」」
「ま、まぁとにかく戦うのが俺やなくてよかったわ」
「っあ、それ同感。それより一人で食うとらんと儂にもポポコーンを寄越すのじゃ」
「ふざけんなやっ!? これは俺のやろうがっ! 人のもんを取るって何を考えとんねん!」
「はぁ? 儂が金出したんじゃろうがっ! さっさと寄越せっ!」
◆
闘技場の中央で向かい合う俺とガルマ。
その時、俺は重大なことに気が付いた。
武器がない!!
どうしよう……。




