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ガーネット

  トルネ坑道に入って既に10日が経った。


 俺達は崩れかけの石橋の上を歩き、底が見えない奈落へと続く暗闇にボロボロと橋の一部が崩れ落ちていくのを確認する。


 額からは薄らと緊張による汗が滲み出る。


「こりゃー落ちたら絶対に助からんやつやな。せやけどなんか冒険て感じでテンション上がるな」

「テンション上がるのはお前の自由だがあまりはしゃぐなよ。さっきから石橋の一部が崩れてんだから」

「クロノスの言う通りじゃ。今この橋が崩れたら儂らは地底の遥か底に真っ逆さまなんじゃからな」


「それくらい俺だってわかってるわ。ただクロノスもジジイも少し臆病過ぎるねん。いくらなんでもこんなでかい石橋が崩れるわけないやろうがっ! ほら見ろ、こうやって飛び跳ねたって全然へっちゃらなんやから!」

「おい、よせっ!」


 アルセは老朽化が進む橋の中央でピョンピョンと飛び跳ねては橋の丈夫さを俺達に教えようとしているのだが、アルセがドンッドンッと飛び跳ねる度に橋の一部が崩れ落ちていくのだ。


「ええ加減にせんか馬鹿者っ!! 調子に乗ってそんな事をしていて本当に橋が崩れたらどうする気なんじゃ!」

「せやからこんな大きな橋が崩れたりせんて言っとるやろ! 臆病やなぁ」


 と、言う会話の直後。

 ゴォォォォォと聞きなれない地鳴りのような音が響き渡る。


 俺は嫌な予感がしながらも後方を振り返ると、ドミノ崩しのように橋が崩壊し始めた。


「「「!?」」」

「う、嘘だろ!? お前が飛び跳ねるから崩れてるじゃないかよ!!」

「ななな、何を言うとるねん! お、俺の所為やないわっ!! あんくらいで崩れるこのボロ橋が悪いねんっ!」

「おまえなぁっ!」

「い、今は言い争っている場合ではないじゃろうっ!! 崩れ去る前に駆け抜けるんじゃ!」


 俺達は額から汗を飛ばしながら無我夢中で崩れゆく石橋を走り抜ける。


「飛ぶんじゃあああああ!」


 橋の終わりに差し掛かると、俺達はガルフの声で一斉に前のめりになりながら前方に飛び込んだ。


「「「ハァハァハァ」」」


 命拾いした俺達が振り返り後方を確認すると、先程まで渡っていた石橋が綺麗さっぱり無くなっている。


 その光景に青筋を立てる俺達。


「ホントお前さんだけはロクな事をせんのっ! 戦闘でもクソの役にも立たん上に面倒事ばかり巻を越しよってっ! 少しは反省せんかっ! お陰で死ぬところじゃったんじゃぞ!」

「なんやとこのクソジジイ! 俺はお前の命の恩人やぞ!」

「お前さんが儂の命の恩人じゃと、フッ、笑わせるでないわっ! 一体いつこの儂が役立たずのお前さんに助けられたと言うのじゃ!」


「忘れたとは言わせへんぞ! 散々カッコつけた後にぎっくり腰でみっともなく動けずに居るジジイをおぶってやったのは他の誰でもない、この俺なんやからなっ!」

「っ………………」


 アルセの言う事も間違いではない。

 つまりどっちもどっちだな。


 それにマジでヤバかったら【時狭間】を使って余裕で切り抜けられたんだがな。


 しっかし、本当にこんなアホな二人と一緒で精霊島とか言う場所まで俺はたどり着けるのか?

 少し不安になってきたな。


 言い合いを続けるアホな二人を無視して俺は歩き始めた。


 すると歩き始めてすぐに、遥か前方に坑道(ここ)へ入った時と同じような石扉が見える。


「おい、いつまでくだらん事で揉めてんだ! それよりもどうやら出口にたどり着いたらしいぞ!」

「ほ、ホンマかっ!」

「おお! ようやく出口か。早うこんなジメジメした洞窟から出たいわ!」


 言い争いをやめたと思ったら、今度は顔を見合わせ火花を散らすアホ二人が、我先にと競争するように出口まで駆け出した。


「俺が一番に出るんやから邪魔すんなやクソジジイ!」

「誰がクソジジイじゃ、このクソガキがぁ! っあ! あそこに不味そうなネズミがおるぞ!」

「っえ! どこやどこや?」

「ほほほほ、アホが見る~。ほーほほほほ」

「この野郎っ、騙しやがったな! 汚すぎんぞジジイ!」

「騙される方が悪いんじゃ!」

「………………」


 どっちが先に出ようが別にいいだろ。

 と、呆れて言葉も出ない俺はゆっくりと二人の後に続きトルネ坑道の外に出る。


 久しぶりにお日様の下に出た俺は天を仰ぎながら新鮮な空気を体いっぱいに吸い込み周囲を見渡すと、鬱蒼と茂った木々が視界を覆い尽くしている。


 どうやらトルネ坑道の出口は森の中へと続いていたらしい。


 この森がガルフの言っていた竜の巣なのだろうか?


 俺は外に出てもアルセと言い争いを続けるガルフに直接聞いてみる。


「ここがじいさんの言っていた竜の巣なのか?」

「いや、竜の巣はこの森を更に抜けた山岳地帯にあると聞く」

「まだ歩くんかいな!」

「別にお前さんは付いてこんでもええんじゃぞ。疲れたんならずっとそこに居ればよい。静かになって清々するわ。二人で行くとするかのクロノスよ」

「行かへんなんて言っとらんやろっ! さっさと俺の後について来いや」


 俺はハァーと小さく嘆息し、何故か張り切って歩き出すアルセの後に続き森を暫く歩き進めると、俺の前方を行くアルセの足元に光る何かが勢いよく突き刺さった。


「うわああああああっ!」


 驚いたアルセは悲鳴を上げながら腰を抜かし、ガタガタと体を震わせている。


「大丈夫かアルセっ!」

「な、何事じゃ!?」


 俺はアルセの元まで小走りで駆け寄ると、アルセの足元にズバッと矢が突き刺さっている。


 地面に突き刺さる矢を確認したガルフは反射的に腰の短剣を抜き取り、周囲を睥睨しながら臨戦態勢に入る。


 俺は腰を抜かすアルセの横で膝を突き、矢が飛んできた方角に視線向ける。


 視線の先には木の上で片膝を突き矢を構える少女の姿がある。


 ガーネットの髪に膝上丈の民族的なワンピースに身を包んだ少女。

 少女の手や脚には陽の光を反射する鱗が所々に生えている。


 少女は腰に提げた(うつぼ)から矢を抜き取りこちらに構えると、威嚇するように腹から声を出した。


「これより先は我ら竜の一族の縄張りだ! 大人しく引き返すのであれば命までは奪いはしない。直ちに去れっ! さまなくばこの矢がお前達を貫くぞ!」

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