お調子者
俺はミスリル人形の足止めをガルフとアルセの二人に任せ、遥か前方で崩れ去った建物の残骸から移動する火鼠の元まで一直線で駆け抜ける。
戦闘モードに入った俺は兎に角俊敏だ。
更にこの魔族の身体は人間の時よりも遥かに身体能力が向上している。
瓦礫を飛び越え勢い良く壁を蹴り、その反動を利用し進行方向を変える。
その勢いのまま加速して前方を行く火鼠を抜き去り停止する。
そして、吹き抜ける風と共に、突然目の前に俺が現れたことに驚き身を固める三匹の火鼠。
「お前達に恨みはないが………悪く思うなよ」
俺は両手に力を込め、数センチほど爪を鋭く尖らせる。
人間だった前世ではありえない芸当だが、魔族と化した今のこの肉体は弱肉強食の世界を生き抜くのに優れている。
俺は真っ赤な眼光で鋭く睨みを利かせ、地を蹴り大きく一歩踏み出す。
瞬間で火鼠との間合いを詰め、まず一匹目の、右側の火鼠に向け凶器のような爪を素早く振るう。
本能的に後方へ回避行動を取る火鼠だが、俺の振り払った爪の衝撃波により、スパッと裂けた火鼠の首筋からは大量の鮮血が噴き上がる。
俺はゆっくりと倒れる火鼠に気を留める事なく、間髪いれずに流れるように真ん中の火鼠の両腕を手刀で切り落とす。
痛みで叫びを上げる火鼠。
その口内へ鋭く尖った右手を槍のように突き刺し、息の根を止める。
口内から素早く右手を引き抜くと、力なく倒れる火鼠の脇をすり抜け、俺に恐れをなして背を向けた火鼠の背後へと素早く移動する。
俺は火鼠の背中から心臓目掛け、再び右手を槍のように突き刺す。
俺の右手で貫かれた火鼠は、口をパクパクさせながら身体を痙攣させている。
そんな火鼠の心臓を掴み取り、一気に引き抜く。
そして手にした新鮮な火鼠の心臓を鋭い爪で傷付けてしまわぬように爪を収め、俺は微笑んだ。
「よし、必要なものは手に入れた。後はあのミスリル人形をぶっ壊すだけだ」
俺は再び来た道を全速力で引き返す。
前方には短剣を手にミスリル人形の肉弾攻撃を躱しながら、耐え凌ぐガルフの姿がある。
その近くには物陰に隠れながら声援……というかガルフに野次を飛ばすアルセの姿も見える。
「なにやってんねんジジイ! 避けてばっかりおらんでちゃんと攻撃しろやっ! お前の手に持ってるそれは何なんやねん! 敵を殺傷する為の武器なんちゃうんかよ!」
「このクソガキがっ! 好き勝手言いおって! お前さん儂の剣がこのミスリル人形に砕かれるところを見たじゃろうが! 考えなしに短剣を振るえば貴重な最後の武器まで失う事になるんじゃぞ! 文句ばっか言っとらんで少しはお前さんも手伝ったらどうなんじゃっ!」
「ッチ、根性あらへんなっ! 他人に頼っとらんで自分の力でなんとかしてみろっちゅうねん!」
「お前さんにだけは言われとうないわっ! コソコソ物陰なんぞに隠れおって! この卑怯者がっ!」
「アホかっ、俺は卑怯なんやなくて賢いんや。賢い俺は楽して勝つねん」
「ただの腰抜けの間違いじゃろうがっ!」
一体アイツ等はこの一大事に何をくだらん言い争いをしてるんだ。
『ピピピッ。魔力質量再充電完了」
「不味いぞ!」
「冗談ちゃうわ! またあのとんでもおっかなビームを撃つ気やないやろうな! もう終わりやああああ!」
再びミスリル人形が大口を開けて口内を光らせる。
俺はその瞬間を待ってましたと言うように、つい自然と口角が上がっちまう!
「音のない世界!」
俺はミスリル人形がバカみたいに大口を開けたその時を見逃さない。
俺以外の時がゆっくりと流れる時間の中、ガルフの元まで走り込み、ガルフが手に持つ短剣を透かさず奪い取る。
そのまま大口を開けたミスリル人形の両肩に飛び乗り、ニタッーと微笑を張り付け見下ろした。
その口に先ほど手に入れた火鼠の心臓を押し込む。
更に口内に押し込んだ心臓に短剣を突き刺し血が吹き出るようにすると、ミスリル人形の唇に短剣を走らせ火花を起こす。
その後素早くミスリル人形から離れ、タイムリミットを待たずに【音のない世界】を解除する。
するとミスリル人形の口内で破裂した心臓から吹き出す血に、先ほど発生させた火花が引火し、盛大に燃え上がるミスリル人形。
突然自らの身が燃えたというのに一切動じないミスリル人形には、痛覚は備わっていないらしい。
しかし、それこそがこのミスリル人形の最大の弱点だと言える。
『魔光線……発射』
放たれた閃光を前転の要領で難なく躱した俺達。
ミスリル人形は自らの光線によって燃え盛る炎の温度を更に上昇させる。
「こ、これは!?」
「な、なんやぁっ!? 突然鉄のお化けが燃え上がったと思ったら、全身が真っ赤に染まっていっとるわ!」
「……クロノスお前さんの仕業じゃな? それにそれは儂の短剣、一体いつの間に。それにしても一体何をしたんじゃ?」
「火鼠の血さ」
「「火鼠の血!?」」
「火鼠の血はよく燃えるからな」
「アイツは鉄のお化けなんやぞ! 燃やしたくらいじゃビクともしとらんやんけっ!」
「さて、それはどうかな? 金属ってのはある程度の高温で熱せられれば柔くなりその強度は確実に落ちる。早い話ミスリル人形は金属の塊なんだよ」
「そうか! だからお前さんは火鼠の血を取りに行っていたんじゃな!」
「どういう事かさっぱりわからんわ」
「今その意味を教えてやるよ、アルセ!」
熱せられて体を赤く染め上げるミスリル人形の胸の中心に、黒ずんだ塊が薄らと見え始めている。
俺はガルフの短剣を頭上高く放り投げ、回転しながら落ちてきた短剣をミスリル人形の胸の中心目掛け蹴り放つ。
――グサッ
一直線上に放たれた刀身が燃え上がるミスリル人形の胸部に突き刺さると、ゼンマイが切れたからくり人形のようにギシギシと鈍い音を上げながら動きが鈍くなる。
だが、まだ完璧に魔石が破壊されたわけではない。
俺は完全にトドメを刺すべくミスリル人形の元に駆け出し、ミスリル人形に突き刺さる短剣の柄頭に拳を振り抜いた。
――ビキッ
押し込められた剣先がミスリル人形の体内に埋め込まれた魔石を砕くと、ガラクタのように音を立てて崩れ落ちるミスリル人形。
どうやら完全に沈黙した。
「やりおったわっ!」
「おお! 流石は俺の親友や! やっぱりやる時はやるやんけ!」
何が俺の親友だっ! 相変わらず調子のいい奴だなっ!
クソ童貞勇者って叫んでたのちゃんと聞こえていたんだからな!
いつか絶対コイツより早くリリィーを抱いて童貞を卒業してやるんだからなっ。
とにかく、トルネ坑道の悪魔とやらに打ち勝った俺達は休む間もなく竜の巣に向かって歩みを進める。
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