二話
ここまで来ると、流石に何かあったんじゃないかと思ってしまう。
約1週間の間、ずっと隼人は学校に来ていない。
先生に聞いても知らないと言うし、こちらから連絡をかけてみても繋がらなかった。
そのときは病院にでも行ってるのかと特に気に留めてもなかったが、1週間も音信不通だと流石に心配になってくる。
よくよく考えれば、病気だったとして何も連絡がないのもおかしい。
過去に、隼人が遊具から落ちて大怪我を負ってしまった時に、わざわざ友也の家まで連絡が来たことがある。
それまでに、隼人と友也は親同士も仲がよかった。
友也の母親は友也が高校に上がる前に事故で亡くなってしまい、父親は物心つく前には既にいなかったので、今では一人暮らしとなっている。
一人暮らしになってからも隼人の親からは良くしてもらった。
よくご飯や遊びに連れて行って貰ったり、色々と生活に必要なものをくれたりしていた。
最早、もう一つの家族と言っても過言ではないのかもしれない。
そんな隼人から、隼人の親から1週間も何も連絡がないのも違和感に感じてしまう。
「ちょっと、帰りに隼人の家に寄ってみるよ」
「もしサボりだったら一発殴っていいからね友也」
梓もこんなことを言っているが本気でサボってるなんて思ってるわけじゃない。
これでもちゃんと隼人のことを心配している。
その上で、梓以上に不安を感じているであろう友也を元気づけようとしてくれているのだ。
そして放課後。
友也は学校帰りに隼人の家へと向かった。
いつもの道、高校から隼人の家へとそのまま向かうのも既に数え切れない程経験していることだ。
この道も見慣れた道の一つとなってしまった。
夕暮れの中、そんな道を進んでいく。
学校周りは車の通りも多く、この時間だと帰宅ラッシュなこともあり、いくつもの車の風を切る音が辺りを騒がせていく。
しかし、次第とそれも収まっていく。
隼人の家は町の外れの方、例の墓場とはそれほど離れているわけでもないくらいの場所に位置している。
例の墓場はほぼ人が通らないような場所にあるので、必然的にここも人は少なくなってくる。
もしかしたら人通りが少ないのは例の噂が関係しているのかもしれない。
暫く進んでいると、隼人の家が友也の視界に入ってきた。
その頃には既に耳に入ってくるものは車が風を切る音から川のせせらぎや草や葉が風で揺らされる音へと変わっていた。
友也はこの音が好きだった。
川の音、草の揺れる音、全てのささやかな音色がまるでそよ風のように自らの身体を流れていくような感覚。
それは、稀に感じる孤独感までもを外に運び出してくれるような、そんな感情を与えてくれる音。
朝に来れば、小鳥のさえずりも聞こえるし、さらに心地のよい風を浴びることもできる。
より良く、この感情を感じられる。
この音色は、友也が感じる寂しさを忘れさせてくれる。
そんな音を聞きながら隼人の家の前まで足を運ぶ。
まずはチャイムを鳴らす。
ピンポーン、と、自然の音に混じって電子音が鳴り響く。
何の反応もない。
ノックをしてみる。
コン、コン、と扉を叩く音が響き渡る。
またしても反応がない。
ドアノブを回してみる。
ガチャ、ガチャと金属の音が響く。
開かない。
何の反応もない。
その現状を認識する度に友也は嫌な予感を感じていく。
まさか、家に帰っていない?
よく見てみれば、外側から見える部屋はどこも明かりがついていない。
もう日は沈んできている。
この時間なら、何処かしら明かりがついててもいい時間帯だ。
なのに、家の中からは人の気配すら感じない。
1週間も学校に来なくて、音信不通で、この状況。
これでもまだ『たまたま外出してるだけ』なんて思える程の心を友也は持ち合わせていない。
だが、まだ確定しているわけではない。
まだ⋯⋯まだ、何の情報もないのだ。
事故だとか怪我をしたとかなら、何かしら連絡があるはずだ。
例えサボりだとか、心に傷を負っただとか、学校に行きたくない理由があったのだとしても、友也の電話を無視するはずがない。
そんな状況で友也が隼人に対して学校に来いだとか、刺激をするような言葉をかけないことは、誰よりも長く付き合いのある隼人自身がわかっていることのはずだ。
そんな状況だからこそ、何処にいるのかも分からなくて、音信不通で、誰もが同じ状態である現状が不可解で⋯⋯でも、だからこそまだ希望は残されている。
何も分からないのならば、彼に何かがあったとしても、無事である可能性は残されているのだ。
「⋯⋯明日、墓場に行ってみよう」
家にいないのならば、残された手掛かりは例の墓場だけだ。
だが、今から行くのは得策ではない。
もうすぐ夜になる。
例の噂が何か関係しているのならば、今から行けば自分も巻き込まれてしまう可能性がある。
隼人がいなくなったことと噂が無関係なのであれば、尚更リスクがある。
まだ、その段階ではない。
その日は、静かな夜道を歩いて帰った。
―――
次の日
友也は朝から墓場までやってきた。
今日は土曜日、学校は休みの日だ。
だから、調べる時間はたっぷりとある。
友也は正直、ここに隼人がいるとは思っていない。
だって、ここは確かに町外れで、人がほぼ立ち寄らない場所ではあるが、だからといって全く人が通らない場所ではないからだ。
墓場の前は森へと続く道路、反対に真っ直ぐ隼人の家、その間にも多少は家がある。
誰一人としてこの道を通らないわけではないし、心霊スポットとして広まってるのだから隼人以外に誰かが肝試しに行ってる可能性だってある。
事件に巻き込まれてるなら、この1週間で誰かが気づいてもいいはずなのだ。
そう、信じたいだけなのかもしれない。
墓場の噂は何一つとして関係ない。
事件にも巻き込まれていない。
関係ないからここにはいない。
きっと、どこかで元気にしている。
どうして1週間も姿を消して、連絡も取れないのかはわからないけれど。
でも、どこかで無事でいる。
「⋯⋯ここで考え事してても仕方ないか」
墓場の入り口で考えてばかりでも仕方ない。
友也は墓場に足を踏み入れた。
けして広いとは言えない、でも狭いというレベルでもない。
そんな場所に綺麗に墓石が並べられている。
墓場の裏は森に続いていることもあり、少し坂になってる部分があったり、所々に落ち葉が落ちていたり。
流石は心霊スポットとして有名になる場所だ。
人気がないのもあって朝だというのにそういう雰囲気がある。
心霊だとか怪異だとかそういうのに詳しいわけではない友也だが、肝試しとしてちょうど良さそうな場所ではあると感覚的に思った。
「それにしても、何もないところだ」
それが、墓場を歩き回って友也が感じたことだ。
確かに雰囲気はあるが、それ以上のものは何もない。
そこにあるのはひたすらに墓石と死者へ向けられたお供え物ばかりだった。
隼人の姿はもちろん、手掛かりになりそうなものすらなかった。
何処を見ても墓石と、そこに供えられた花ばかりだった。
「ん? 花?」
友也はその光景に違和感を覚えた。
目の前に見えるのはごく普通の墓石とお供え物。
そう、ごく普通のものしかない。
何も知らない人が見れば何の変哲もない、何処にでもある墓場に見えるだろう。
だが、友也はこれが普通じゃないことを理解している。
だ っ て 、 こ こ に あ る べ き 筈 の も の が な い の だ か ら
「⋯⋯ぬいぐるみ、は?」
そう、隼人が行方不明になる前日。
彼は学校へとあるものを持ってきていた。
それは、彼がこの墓場へ肝試しに行った証拠として持ち帰ってきたもの。
一つだけ目立って置かれていたというボロボロの熊のぬいぐるみは、今思い返せば確かにこの墓場と同じように雰囲気を感じさせるものだった。
そんなものを持ち帰った隼人に、早く返すようにと友也は言った。
あんなものがこの場に一つだけお供え物として置かれているのであれば、すぐに気づけたはずだ。
だが、改めて探してみてもあのぬいぐるみは何処にもない。
つまり、隼人が持ち帰ったぬいぐるみはまだ返されてないということだ。
隼人はあれでいて友也との約束を破ることはしない人物だ。
友也が返してと言って了承したのならば、必ずぬいぐるみを返しに行っている筈だ。
それなのにないということは、あの日の放課後から返しに行くまでの間に事件に巻き込まれた可能性が高いということだ。
少なくとも、隼人が行方不明になったことにあのぬいぐるみは関係している。
ここまで来てもまだたまたまだとか考えるほど友也も馬鹿ではない。
「⋯⋯隼人の家に行ったら何かわかるかな」
友也はもう一度隼人の家に行くことを考えた。
昨日はチャイムを鳴らしても誰も出ず、人の気配すらしなかった彼の家。
今日帰ってきているならそれでいい。
帰ってこないままなら、中を調べる。
そうしれば何かがわかるかもしれない。
幸い、鍵が閉まっていても友也なら家の中に入ることが出来る。
友也は隼人の親から家の合鍵を貰っているのだから。
困ったときはいつでも遊びに来ていいと言われているのだから。
だから彼の無事を確かめるために一刻も早く―――
「君、そこで何をしてるんだい?」
―――動き出そうとした瞬間、友也の背後から声が聞こえた。




