一話
ここでは随分久しぶりの投稿になります
過去の作品は黒歴史として処理しておいてください
―――町外れの墓場の噂、知ってる?
―――夜にそこに行くとね、不思議なことが起こるんだって!
―――誰もいないのに人の気配がしたり
―――誰もいないのに人の声が聞こえてきたり
―――お供え物が勝手に動き出したり
―――肝試しに行った人達が揃ってそういう現象に出会ってるんだって!
「って、この町に住んでる人間だったら誰でも知ってる話じゃねぇかよ」
「うっさいわね隼人、あんたには話してない!」
噂を話していた女子、茅原梓に一条隼人はついついツッコんでしまった。
琴蔵町ではこの噂は隼人の言う通り誰でも知っている話であり、彼らの通っている琴蔵高校でも度々話題に上がっている。
町の外れには墓場がある。
そして、そこはこの町で有名な心霊スポットとなっていた。
先ほど話にあったように、夜に肝試しに行けば何かしらの怪奇現象に出会う。
起こることも梓が言った通り、お供え物が一人でに動き出したり、誰もいないのに人の声が聞こえてきたり、その内容は様々だ。
あくまでただの噂だが、肝試しに言った人間からはそういう証言が次々と出ているらしい。
ちなみに、ニュースで偶に報道される人が行方不明になる事件の一部には、行方不明になる前にその人物が例の墓場に肝試しに行く話をしてたなんて話もあり、『墓場で悪さをした人間が悪霊に連れ去られた』なんてことも噂されている。
「そもそも、そんなもん噂だ噂。本当なわけないだろ」
「えー? だって肝試しに行って行方不明になった人だっているんだよ?」
「だーかーら、それもたまたまだろっての」
梓と隼人、肝試しに行ったことのない二人からすればこの話を信じるか否かは本人達がどう考えるかに委ねられる。
信じるかどうかの判断材料も、実際に行ったという人の証言だけ。
経験者の話だから、と判断する人間は多いが、世の中の怪奇現象の中には偶然の積み重なりだったり、科学的に証明出来るものも存在する。
科学的な証明が出来ずとも、心理的要因による見間違いや幻覚であるパターンも存在する。
こういう怪談話は科学的・心理的に証明ができたり、そもそもが創作の話であるのにその話が大きく広まったことによりまるで本当にあった話かのように語られている場合もあったりと何かと説明がついたりする。
そういうのもあり有名な心霊スポットとなっている場所であっても信じてない人間も少なくない。
こういう話の真偽を確かめるには実際に行ってみるのが一番早いのだが、特に学生は純粋に危ないからという理由で大人達に止められてしまう。
子供が深夜に外に出歩く、この行為が危険なことであることは心霊云々以前に大体の人は理解していることだろう。
特未だ未解決の行方不明事件や殺人事件が発生してるこの町ではその警戒心は特に強くなっている。
そんな中深夜に出歩くのは尚更危険な行為だろう。
実際、学校でも深夜は子供だけで出歩かないようにと日頃から注意喚起されている。
そんな中でも肝試しに行く勇者⋯⋯若しくは愚者と呼ぶべきか。
そんな人間も一定数存在するし、だからこそこの噂話が風化することなくこうして楽しそうに語る人も現れ続けるわけだが。
「でも、確か僕の知ってる限りでも3人、肝試しに行って行方不明になった人がいるんだし、信憑性はあるよね」
「友也まで⋯⋯。偶然のことを都合よく考えすぎなんだよ、お前ら。幽霊なんて非科学的なもん、いるわけねぇんだよな」
意外にも梓側についた隼人の親友、永瀬友也の言葉に隼人は呆れるようにため息をついた。
「うっわ、隼人が頭良さそうなこと言ってる。全教科ギリ赤点取るくらいにバカのくせに」
「んだと!? つーかお前はそんなオカルト話ばっかりしてるくせになんで点数取れるんだよ!!」
「あんたとは頭の出来が違うのよ。あ、もしかして幽霊が非科学的ーなんて言ってるのも実は怖いからだったりして?」
「はあ!?」
「まぁまぁ⋯⋯」
今にも喧嘩が始まりそうな二人を友也は宥める。
この風景も最早日常の一部と化していた。
梓が隼人をからかい、隼人はそれに反撃する、衝突しそうなところを友也が宥める。
ここまでが一連の流れとして形成されてしまっているが、実際のところ友也が宥めなくとも本気の喧嘩になったことはない。
隼人がどれだけからかわれようとも、手を出すことまでしない。
それは、そこまでする勇気がないとかそういう話ではなく、純粋に梓の言葉が心からのものではないことを理解しているからだ。
そして、梓のほうもからかいはするものの、本当に隼人が傷つく言葉は口にしない。
この関係は、素直になれずにこんな反応ばかりになってしまう隼人と、それを理解して絡みやすいように仕掛けてる梓との一種の信頼関係となっているのだ。
基本的にある程度こうやって言い合いをして、最終的に梓が口論で勝って終わる、という結果がほとんどだ。
互いに気が済むまで言い合ったら、数時間すれば何事もなかったかのように元通りになるのだから、これもある意味怪奇現象の一つなのかもしれない。
ただ、隼人は負けず嫌いなところもあるので―――
「わーったよ! そこまで言うなら俺が肝試しに行って証明してやる!」
「あっ⋯⋯」
そう吐き捨てて教室を出ていってしまった。
「ま、明日には普通に登校してくるでしょ」
「まぁ、そうだよね⋯⋯」
こうなることも初めてのことではない。
放課後なので恐らくこのまま家に帰ってるところだろうが、大体こういう話も家に帰ったら忘れてゲームでもしてるのが一条隼人という人間だ。
「僕たちもそろそろ帰ろうか」
「そうね」
今日も一日、いつも通りの日常が終わった。
―――
次の日
「おはよ!」
「おう、おはよう!」
「おはよう、二人とも」
案の定、隼人は何事もなく登校してきた。
大体こんな感じなので元より心配もしてなかったが。
「それで、肝試しは行ってきたの?」
「おう、もちろん行ってきたぜ! ほら、証拠もある!」
「⋯⋯え?」
隼人はそう言うと鞄の中からボロボロになった熊のぬいぐるみを取り出して二人に見せつけた。
対してその様子に梓と友也の二人は唖然とした表情を浮かべていた。
「あんた、それ、どっから持ってきたの?」
「あ? そりゃ例の墓場からだよ。一つだけ目立って置かれてたからちょうどいいと思ってな」
「いや、それ普通に泥棒じゃん⋯⋯。怒られる前に返しに行ったほうがいいよ」
「もう、今回は私の負けでいいから、早く返しに行ってきなさい!」
「わかった、わかったって!」
とはいえ、まだ登校してきたばかり。
これから授業も始まるので、返しに行くのは放課後になってくるだろう。
高校から墓場までの距離は結構あるので、昼休みの間に行くのも厳しいだろう。
伊達に長い付き合いはしてない為、こういう時にちゃんと返しに行く人間であることは理解してるのでその部分に関しては梓も友也も心配はしてない。
但し、友也の場合は『返す前に持ち出したことがバレてトラブルにならないか』、梓の場合は『心霊スポットに置いてあるものを勝手に持ち出して持ち主の恨みを買ってないか』、それぞれ方向性は違うが、総じて厄介事にならないか心配になっていた。
そんなそれぞれの心配を抱えながら一日を過ごしていったが、案外何もなく放課後までいった。
下校前、友也は改めて隼人にぬいぐるみを返すのを忘れないように伝えてから自分の家へと帰った。
今日も一日、いつも通りの日常が終わった。
―――
次の日
隼人は学校に来なかった。
梓と友也の二人は心配そうに話していた。
「隼人、今日学校に来なかったね⋯⋯もしかして昨日何かあったんじゃ⋯⋯?」
「もしかして、悪霊に連れ去られたとか?」
「そ、そんなことはないと思うけど⋯⋯」
とはいえ、絶対に違うとも言えない。
友也自身、幽霊を信じているというわけではない。
実際に幽霊に会ったことがあるわけでもなければ、肝試しに行ったわけでもない。
幽霊やら悪霊やらなんて話は噂でしか聞かない。
しかし、友也が把握してる限り、例の墓場に肝試しに行ってから行方不明になった人物が少なくとも3人はいる。
それを考慮した上で見てみれば唯の偶然とするか、ほんとにその3人を連れ去った霊がいるのか、可能性がないとは言い切れない。
とはいえ、ここに隼人も関わっていると考えるにはまだ早い。
まだ、今日一日学校を休んでいただけだ。
きっと、風邪でも引いたのだろう。
どんな人間でも風邪を引くことくらいある。
きっと明日には元気に顔を出してくれることだろう。
きっと―――
次の日も隼人は学校に来なかった。
その次の日も、隼人は学校に来なかった。
隼人が学校に来なくなってから1週間が経過した。




