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第36話 悪役側の決戦準備

 

 翌朝、小守寮では、寮生たちが、早めの朝食をとっていた。

 食べ終えた子から順に、帰省するのだ。


「忘れ物がないか、各自もう一度確認する事!」


 寮母さんから言われて、木の葉と奏と、ことりを除く全員が、自室へ引き返した。

 各部屋に続く階段の下で、瀬奈と知世は、今日も籠いっぱいのクッキーを抱えて、寮生たちを待っていた。

 寮生も慣れたもので、今朝も嬉しそうに摘んだ。


「ありがとう、瀬奈ちゃん」


「結花ちゃん、ありがとう」


「ごちそうさま」


「おいしかった」


 口々に御礼を言って、部屋へ戻った。

 そして、部屋に入ってドアを閉めた途端、意識を失って倒れたのだ。

 知世と瀬奈が、全寮生に睡眠草すいみんそう入りクッキーを配り終えた後、籠に残ったのは藍色のレシーバーだった。


 瀬奈が、にんまり笑った。


「フフッ、毎日、続けた甲斐かいがあったね」


 知世も、目が笑っていた。


「そうでなくては困るわ。毎日あげて、疑いを持たせないよう、仕向けたんだから」


「残りは、寮母だけ」


 瀬奈が食堂へ戻るのを、知世が止めた。


「仕込みは終わってる。あの女は、毎朝、必ず抹茶入りコーヒーを飲むでしょ?強力な睡眠草を粉にして、缶の中で混ぜ合わせてる」


「さっすがあ!」


 瀬奈が、パンっと両手を叩いて喜んだ。


「じゃあ、ゆいちゃんを手伝う?」


 知世は、首を横に振って、表情を変えずに淡々と詳説した。


「瀬奈、聞かなかった?生贄にささげる子たちの回収は、結花と奏に任せる。もっとも、奏は知らないけど、結花が騙すの。『倒れた子たちを看護するから、手を貸して欲しい。こんなにたくさん、医務室では狭いから、男女共同ルームに運ぶ』ってね。ルームには、私たちが、あちらこちらに用意した八重咲きの献身花けんしんばなが開いて、香りが充満してる」


 瀬奈は、目を輝かせて、ふんふんと頷きながら聞いたが、第三者が聞けば仰天する話だった。まるで、悪役側だ。本物の悪女に近付きつつある。

 正義的要素は、一切ない。


「子供たちが目覚めた時、その香りを吸い込んで、私たちの意のままに、動いてくれる。献身的な行動を取ってくれる。自ら進んで生贄になる。金目の鬼が復活すれば、鬼は当然、亡き娘の為に、子供の血を欲しがるから、生贄は必須。こういう筋書きでしょ?」


知世が、説明し終えると、瀬奈は、感嘆の声を上げた。


「なるほどぉ。ごめん、ゆいちゃんの話、あんまり聞いてなかった。でも、今わかったから。ゆいちゃんと奏くんの能力を合わせたら、最強コンビだよね」


「鬼に差し出す生贄は、最小限に押えたいわ。帰省する子供が、全員消えることになれば、親たちが不審がるから」


 心配する知世の肩を、瀬奈が、ポンっと叩いた。


「平気よ。一年前から、ゆいちゃんが、裏から手を回してる。子供を平気で殺せる、プロの奉公屋を雇ってね。だから、帰省の話は、問題ないよ。親たちには、新校舎を建てるにあたって、旧校舎の大掃除と寮の大掃除をすることになった、今年の夏休みは帰省出来なくなった、その旨を伝えてあるよ。一つ不明な点があるとしたら、西野小の先生たちが、なぜプロの奉公屋の情報操作を止めていないのか、そこだけ解明してない」


 知世は、この話を今初めて聞いたので、少し驚いたが、満足して微笑んだ。


「何人死んでも大丈夫って分かって、安心したわ。その不明な点を闇に葬るのが、私たちの仕事だから。それこそ問題ないわ。それじゃあ、私たちは、最終チェックに管理室へ行きましょう」


 もしも、この場に、ことり達が居合せたら、二人を嫌悪したに違いない。

 それは、春人達も同じである。

 この恐ろしく残忍な計画を知れば、誰だってそう思う。


 瀬奈と知世は、籠から自作の四角いトランスレシーバーを取り出した。

 そして、右横に取り付けた青いボタンを押した。

 レシーバーの上には、アンテナのかわりに、瀬奈が育てた白い毒花どくばなを埋め込んである。

 花が回転すると、搭載されたテレビ画面に、共同ルーム周辺の様子が映し出された。


 学校中に咲く草花が、監視カメラの役目を果たす。

 毒花は、引き千切らない限り、毒を撒き散らすことはない。

 万が一知られた時、目潰しに使うのだ。

 これを思い付いたのは知世で、主だって製作したのは結花だが、毒花の品種改良に成功したのは瀬奈である。


「ゆいちゃんは、まだルームの中ね。スピーカー機能に切り替える?」


 瀬奈が聞くと、知世が首を振った。


「まだ奏と一緒みたい、止めた方がいいわ」


 管理室は、食堂から一番遠い男子寮の南端にある。

 そこに着くまで、二人は監視カメラで異常がないか、確認しながら歩いた。

 細心の注意を払った計画ではあるが、万が一にでも来客があっては事だ。


 普段は寮母に任せきりだが、日直の先生が急に気が向いて、寮に子供たちの帰省状況を確かめに来たらアウトだ。

 瀬奈と知世が、管理室の扉を開けると、ことりと木の葉が、不動明王のような顔つきで立っていた。


「おまえら、騙したな」


 木の葉が言うと、ことりも、怒り狂う目つきで瀬奈に言った。


「小菊さんから知らせが、届いたよ。君たちの本当の狙いは、祠を壊して、金目の鬼を復活させる事。鬼の力を借りて、森を潰す、西野小をも潰す事。主犯は赤目守り、あの子の手伝いをする事だったんだね。人の命を犠牲にして」


「邪魔する気なら、部屋に戻って!」


知世は反論せず、吐き捨てるように言ったが、瀬奈は言い返した。


「ことちゃんも言ってたじゃん、西野小の先生たちは、悪い奉公屋だって。奉公屋の子供は、奉公屋にしかなれない。こんな育成学校があるから、尚いけない。あたしは、将来、漫画家になりたい。奉公屋の仕事なんて御免よ!このまま卒業したら、奉公屋リストに登録されちゃう。だから、七不思議の一つ天鬼没塔を利用しようと言い出したのは、ゆいちゃんよ。西野小は今晩、満月の夜に消えるの。七不思議通りに事が運ぶよう計画した。鬼は復活して、娘の亡骸に子供の血を注ぐ、あたしたちは、命という代価を払って、鬼に西野小を潰して貰うの。悪事の漏洩を防ぐ為に、先生たちと子供たちも鬼に食べて貰う」






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