第35話 事実が、真実
「そうかい、あんただけ聞かされていたんだね」
静花は、トイを見て、困った顔をした。
「赤目守りの策略を阻止しようと、西野小の先生たちは、気合いを入れてる。それなのに、ことりが、ミステリー・スイーツ園芸部に騙されて、入部した。陰謀の主犯は赤目守り、ミステリー・スイーツ園芸部が、赤目守りに加担していることを、ことりは知らなくてねえ」
ランとカティは、至極真面目な顔をして、うんうんと首を縦に振って、静花に同調した。
小菊は、ランとカティに近寄って、それからトイを見据えた。
「トイ君、瀬奈さんたちも騙されているの。あの祠に、鬼は封印されていません。成仏しているわ。昔、伊庭左中という最高奉公屋が、金目の鬼を封印したの。けれど、ことり君が三歳になった時、封印が解けた」
小菊は、一度、言葉を区切って、静花に目を遣った。
静花は、無言で頷いた。それで、小菊は、話を続けた。
「封印を解いた者は、七区の大頭ギュウジャッガンと、その妻ワカチカ。輝龍さまは、命をかけて二人を森の祠に封印して、亡くなりました。爝火さまが駆け付けた時には、輝龍さまは息を引き取っていたの。だから、爝火さまは、輝龍さまを裏切っていません」
小菊は、厳しい声音と険しい目つきで、皆に真実を告げた。
「輝龍さまが殺された、この重大な顛末を隠す為に、輝龍さまの妹君の霧花さまは、自分が死んだ事にしようと提案されました。真実を知る者たちは、散々迷いましたが、最後は反対しました。霧花さまは、奉公屋と結婚されて、自身も奉公屋となり幸せに暮らしていたからです。代わりに、私が、輝龍さまに成り済ます事に決まりました」
「輝龍さまが、死んでる?ことり君のお母さんは、死んでたの?」
真っ青な顔をして声を出したのは、龍絵だった。辺り一面、哀愁が漂い静まり返っていた。
「ええ。輝龍さまの死が知れ渡れば、悪い妖怪、心醜い奉公屋を活気づけて、大惨事が起こります。輝龍さまを演じることが、最低な行為だと百も承知でしたが、輝龍さまの死が及ぼす影響は、計り知れなかったのです」
龍絵が、春人の背に頭をこすりつけて、鼻を啜った。
春人は、唇を噛み締めて、必死に涙をこらえた。
トイは、胸に釘を打ち付けられたような思いがした。
輝龍は良い妖怪たちの誇りで、トイの両親も、トイ自身も、輝龍を大変好いていたのだ。
小菊は、ゆっくりと話した。
「輝龍さまが、爝火さまと決裂して、奉公屋・霧子になったと悪い妖怪たちに思い込ませる為に、霧子さまの奉公屋の仕事は、霧花さまが、なされています。輝龍さまは、輝龍さまの力も使える私が演じ、奉公屋・霧子は、霧花さまが演じていらっしゃいます。私と霧花さまは、力を合わせて、今まで輝龍さまを演じてきました」
話し終えると、小菊は、静花に会釈をして狐に戻った。
この事実こそが、ことりを養子にだした理由だった。
永遠に隠し通せたら、どんなにいいかと、静花は思っていた。
ランが、カティに、そっと耳打ちした。
「ことりお兄ちゃん、泣いちゃうよぉ」
泣きべそをかいているのは、ランの方だった。
カティが、黒い前足をランの白い前足に、そっと乗せた。
「お盆の森には、妖怪の霊だって会いに来てくれるんだもの。ことり兄ちゃんのお母ちゃんも、きっと来てくれるよ。だから、僕らは森を守るんだ」
真実を知らされた後、トイは、こってり油をしぼられた。
小菊と静花が、代わる代わるトイに説教をしたのだ。
「肝に銘じなさい、妖怪が、妖怪を殺していいという法はありません。先程トイ君がしでかしたことは、立派な犯罪、殺人です。あの魔女は、閻魔の遣いでした。この一件が知れたら、地獄の怒りを買うでしょう。今回だけは、私たちが対処します。大蛇山に隠居された嵐山さまに頼んでみましょう」
「あんたの両親が、妖怪に殺されたことは知ってたよ。前に、おばばから聞いた話だ。あんたのことは、そりゃあ気の毒に思うさ。だからといって、妖怪に危害を加えてかまわない、そんな浅はかな考えを持っちゃいけないよ。命だ、いつ何時だって重い」
春人と龍絵は、身を寄せ合って、叱られて縮こまるトイを穴のあくほど見ていた。
トイの過去を、龍絵は、春人に聞かされた。
龍絵は、春人以上に、複雑な気持ちになった。
ランとカティも、龍絵に共感して、深刻な顔つきで聞いていた。
篝だけが、暇そうな顔で、呑気に欠伸をしながら、尻をさすっていた。
三人は、静花から、今夜決行する壮大な計画の詳細は聞かされたが、最後に「参加するかどうかは、三人で決めといで」と言われた。
三人は、暗い面持ちで校舎を出た。そして、目を見張った。
「こんな急に雨って止むの?」
龍絵が首を傾げると、トイが推測を述べた。
「多分、魔女ばあさんが作った嵐だったんだ。死んだから、消えたんだよ」
春人は、何も言わなかったが、目を凝らして校門を見た。
「なあ、誰か、いるぞ」
「えっ、どこどこ?」
「いやだあ、幽霊!?」
幽霊ではなかったが、木の葉と奏にとっては、おばけみたいなものだった。
二人は、樊籠小学校の校門前で、星の怪盗に取っ捕まっていたのだ。
ランと静花を降ろした後、二人を見つけた怪盗は、満月を貰って上機嫌だったので、偶にはお節介を焼いてやろうという優しい気持ちになって、木の葉と奏を足止めしていたのだ。
三人が歩いて来るのを視界に入れると、はた迷惑な怪盗は、颯爽と流れ星に乗って、さっさと帰って行った。
それを見送りたくないが、見送って、五人は、途中まで仲良く話しながら帰ったが、龍絵たち三人は、木の葉と奏に、真実を伝える事はしなかった。
魔女ばあさんの話で少し盛り上がったが、五人とも似たような事を思っていた。
とにかく、濃すぎる夜だったと、思わずにはいられなかった。




