-68-(最終話)
瞳を自分の家から送り出したとき、もう瞳とは会えない気がした。
病院のベッドで意識がない彼女を見たときは、心配よりも安堵の感情が勝ったほどだった。
女子高生の心中事件。
二人の内、一人は死亡。もう一人は意識不明の状態で発見された。
発見者は隣町の高校の教師。
死亡した女学生の前年度の担任で、定期的に彼女のことを気にかけて面会に訪れていたらしい。
事件から数か月、もう一人の女学生はまだ眠り続けている。
病院のドアをノックする。今日も返事はない。
季節が変わり、布団が少し厚手になった。
「瞳」
痩せこけた頬を撫でたその時だった。
――――
名前を呼ばれた。
目を開けると、女の子が私のほっぺを撫でながら泣いていた。
髪の毛の色が辺鄙なその子に見覚えはあるけど、名前が思い出せない。
思い出そうとすると、激しい頭痛がした。
「だ、れ?」
「×××だよ」
うまく聞き取れない。脳が空気の震えを処理しない。
「××、××!」
「の、ぞみ?」
私の声は上手く発せられただろうか。
女の子は更に泣いてしまった。
悪い事を言ってしまったようだ。
なぜか女の子は歯を食いしばって、顔をぎゅっとしかめてから、ぎくしゃくと口角を上げた。
「のぞみだよ、のんちゃんだよ。私がっ……のんちゃん」
やっと聞き取れた。
のんちゃん。
安心する響きだった。
「ありがとう」
疲れたからもう一度眠ることにした。
次に起きたら、のんちゃんとお話しよう。今までのこと、これからのこと。
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