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 体が元気になる感覚がする。

 渇いた体がみるみるうちに潤っていくのがはっきりとわかる。


「んん、ごふっ」


 目が覚めると共に、気管に入りそうになった液体を吐き出す。


「よかった。生きてた」


 希が経口補水液のペットボトルを持って、安堵の表情を浮かべていた。

 部屋から出られないようにしたのに、どうして部屋になかったものがあるのだろう。


 何があったのか分からず固まっていると、私の「なぜ」の意図が伝わったのか、希はあるものを私に差し出した。


「合鍵。これで外に出た」

「そっ……か」


 大きく息を吐き、再び仰向けになると、見慣れた天井が滲んで見えた。

 目に涙が溜まっているらしい。貴重な体の中の水分が外に出てしまう。


 私がしたことは、まったくの空回りで、二人で死ぬつもりだったのに、そう思っていたのは私だけで。


 恥ずかしくて、情けなくて、心がさらさらと崩れ落ちていく。


「ぐすっうぅ」

「内緒にしててごめんね」


 希がどこか余裕のある素振りを見せていたのは、二人で死ぬなんてことはありえないと、自分だけ分かっていたからだった。


「もっと早く言ってほしかった」

「だってさ」


 ふわりと希が私に覆いかぶさってきた。希は小柄でやせ細っているから、ひん死の私に乗っかってきても負担を感じなかった。

 私の肌が希の衣服に擦れる。希だけ薄手の洋服を着ているのが、更に恥ずかしくなった。私が気を失っている間に飲食物を買いに出たからだろう。


「瞳があんなにも私のことを好いてくれてるのが嬉しくって」

「一緒に死のうとしたこと、怒ってる?」


 希は口で答える代わりに、私の首にキスをして、そのまま息を吸った。最後に歯を立てて離れていった。


「……痛い」

「嬉しかったよ」

「ごめん」


 行動と言葉が不一致だったから謝ることしか出来なかった。


 希と目が合う。笑っていると思ったら、彼女の表情筋は収縮しておらず、寒気がするほどの虚無だった。


「ねえ瞳、まだ死にたいって思ってる?」


 彼女は表情を変えずに起き上がり、床に転がっていた合鍵をつまんで持ち上げた。そして上半身だけ起こした私の目の前に差し出した。


 視界がくすんだ銀色に染まる。



 私はもう一人では生きられない。

 希という居場所があるから生きてこられた。

 希と会う前は私の人生に意味なんてなかった。意味を見出せなかった。


 眼前にある、この部屋を出るための鍵。

 もう一度人生を続けるかどうか選択できる鍵。


「決めていいの?」


 ピントの合わない希の首が縦に振られた。


「私は……」


 希を閉じ込めて、肌を重ねて、ひとつになったことを思い出す。

 体が震え、鳥肌が立ち、光が弾けて空が落ちてくる。

 確かに私は幸福に包まれていた。


「希と一緒がいい」

「どっち?」



 外の世界で、希ともう一度ひとつになれる保証がない。

 壊れた私。怖い。外に出るのが怖い。

 誰にも希を取られたくない。

 希がいないと私は死んでしまう。

 だから、これが最後の私のノゾミ……



 希から鍵を奪い取り、窓のある方へ駆け出す。


 カーテンを開けると陽の光が顔と体に当たって熱を帯びた。


 窓を開けると、生暖かい風が吹き込み、肌を撫でる。外の世界からの刺激が不快だ。


 握りしめた右手を振りかぶる。


 私の投げたものは、防犯用の格子をすり抜けて、消えていった。



 振り向くと、生まれたままの姿になった希が、私のすぐ傍まで来ていた。

 その顔は笑っていた。

 つられて私も笑顔になる。


「希、愛してる。ずっと一緒にイようね」


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