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ほんのりとまぶた越しに光と熱が目に入りこむ。目を開けると朝焼けが飛び込んできて思わずもう一度目を閉じた。外から入ってくる何種類かの虫の鳴き声が今日も鼓膜を振動させる。
夏は忙しないなと、覚醒したわずか一瞬の間に脳が感嘆の吐息を洩らした。嗅覚まで参ってしまったのか何かが焦げた匂いが脳に伝わってきた。
焦げた?
「うぇ!?」
慌てて体を起こすと、隣に寝ているはずののんちゃんがいない。キッチンの方を見ると、必ずと言っていいほど毎日私よりも寝起きが遅くて、時には学校までろくに覚醒していない日もあるぐらいの彼女が佇んでいた。
「瞳おはよ!朝ご飯作ったよ!」
久しぶりに見た満開の笑顔と共に差し出されたのは、真っ黒に焦げた平べったい何かだった。
同居したての頃のようなとんでもなく無邪気なのんちゃんが戻ってきたこと。一度もしたことのなかった料理という家事をしていたこと。多分それが大失敗したこと。そして瞳と呼ばれたこと。
情報の処理が追い付かずにフリーズしていると、エプロンを外したのんちゃんが寝て起きたばかりの私に飛び込んできた。
「みゃ!」
「のんちゃん?」
「ご飯食べる?」
「食べるけど、服着なよ」
「いいじゃん、瞳と一緒」
のんちゃんは私と色違いのショーツにキャミソール姿だった。手足はむき出しだし、触れ合う生地も薄いから、まるで裸で抱き合っている感じがした。
「あうう」
「ほっぺすりすりー」
夜中の出来事がフラッシュバックする。
今私に抱き着いて押し倒さんとしている女の子は、ひーちゃんにとって家族であって姉であって、そういうのの対象にはならないはず。
そう言い聞かせたいけど、嫌でも感じる柔らかな感触や今でも慣れ切らない甘い香りに誘惑されてしまう。
「のんちゃん!」
ぐいと肩を掴んで押し戻して彼女と向き合う。
「……」
「……え」
その顔は朝食によく出しているミニトマトと見間違えるほどに真っ赤に染まっていた。
「どうしたののんちゃん?」
のんちゃんは目をつぶってそっぽを向いた。
それ以降、私が「のんちゃん」と呼びかけると全て無視された。その上私が目を合わせようとすると全て逸らされた。
だけど機嫌は良いみたいで、学校へはいつも通り手を繋いで行った。手を繋いでいるのに会話がなく余所余所しさがあって、傍から見るとシュールだろうなと思った。
「瞳おはよう」
学内でのんちゃんと別れ一年生の教室に入ると、彩瀬は既に自分の席についていた。
「おはよ。彩瀬の方が早いの珍しいね」
「それより聞きたいんだけどさ」
昨日のお花見部での出来事について。
なぜ私が白木院希の妹である光梨、つまり「ひーちゃん」に成り切ろうとしているのか。
いつ、どうやって私と希が繋がったのか。
「きっかけは、白木院さんに『妹になって』と言われたこと」
「私が瞳と知り合う前?あと?」
「前だよ」
「じゃあ私から光梨のことを聞いた時には、もう瞳は『ひーちゃん』になってたんだ」
「だから『ひーちゃん』って呼んでって言ったの」
「へえ」
彩瀬は釈然としない様子で首を傾ける。
教室に備え付けてある時計を見ると、始業時刻は数分後に迫っていた。
「一時間目サボらない?もう一学期も終わるし、多少大丈夫でしょ」
「わかった」




