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下校時刻を知らせるチャイムが鳴ると同時に学校を後にする。
お花見部が作られたのは私が一年生の時で、まだ創部半年にも満たない。瞳さんや彩瀬さんが入部するまでは、部員は私一人だった。二月に妹を亡くして失意の中にいた私を気遣って、心を休めて落ち着ける居場所をと当時の担任の教師が奔走して立ち上げてくれた。恰幅の良い優しい中年女性だった。
抜け殻のように過ごすうちに私は二年生になり、創部の立役者である教師は別の学校へ離任していった。
新入生に向けての部活紹介の行事に呼ばれなかったり、お花見部の名前が学校のパンフレットに載っていないのは、転勤直前の彼女が裏で手を引いてくれたからだろう。もう少ししたら、何らかの方法で感謝の気持ちを伝えたい。
「彩瀬さん。それじゃ、また明日」
「お疲れ様でしたー。瞳、また明日教室で!」
「ん」
彩瀬さんとは家の方向が学校を挟んで真逆だから、学校を出るとすぐに私と瞳さんは二人きりになれる。彼女と別れた時点で、のんちゃんとひーちゃんの関係に戻る。
彩瀬さんが私たちに背中を向けた、その瞬間だった。
「のんちゃん!うりゃ!」
「んあ!ひとーみちゃん?」
隣のひとーみちゃんが、私の左腕をぎゅっと抱きしめて、まるでカップルのように腕を組んできた。私の中で瞳さんからひーちゃんに切り替えている最中だったから変な呼び方をしてしまった。
「のんちゃんに会えなくて寂しかった」
「ちょっと!彩瀬さんに聞こえるかもしれないじゃん」
そんなことお構いなく、更に力を入れて密着してくる。私より少し背の高いひとーみちゃんの頭が私の頭に寄りかかってくる。世間一般的には背の低い女性が背の高い男性にする仕草だけど、背の順で言うと逆になっているし、そもそも女同士だった。
「私はのんちゃんさえ居ればいいよ」
「それは私もだけど、抱き着くのは二人きりの時だけにしてよ」
そう言いながら、まだ世間体を気にする自分が居ることに驚いた。
「ところで、のんちゃん」
「なに?」
「ひとみちゃんって誰?」
「それは……」
目の前のあなたと言おうと改めて彼女と目を合わせた。
「っっ」
その深く沈みこんだ目は語っていた。「私は光梨だ」と。次に瞳さんの名前を出しても、すっとぼけを通されるだろう。
「瞳は私の……大切な人だよ」
暗に瞳さん自身に感謝と好意を伝えたつもりだった。だけど、藤原瞳とひーちゃんを完全に分離させたい彼女に私の下心は通じない。むしろ火に油を注いでしまったようで、組んだ私の二の腕に爪を立てた。そのままぐりぐりと動かし、私に痛みを与えようとしている。だけど、瞳さんには悪いけどあの母に育てられた私たちにとっては歯牙にもかからない。
「許さない」
「もう瞳の名前は出さないから。だから許して、ひーちゃん」
「……いいよ、許してあげる」
「ありがと!ひーちゃん大好き!今夜はひーちゃんの好きなものを食べよう」
「でも作るのは私じゃん」
本物の姉妹のように微笑み合う。だけどお互いに、目の前にいる女の子のありのままの姿を見てはいなかった。
私が光梨を殺してしまったことを秘密にしているように、瞳さんにも色々抱えている物があるのだろう。共に生活しているけど、ありのままの瞳さんと向き合ったのは、最初に「許さない」と言われたあの時だけだったかもしれない。




