-28-
活動といったって、のんちゃんが居ても変わらずダラダラするだけ。おあつらえ向きに今日は英語の授業で宿題が出たから、私と彩瀬はそれに取り掛かる。一つしかない座卓を一年生二人で占領しているけど、のんちゃんからは特に何も言われずで、彼女は壁にもたれ掛かって文庫本を読んでいる。
その文庫本がのんちゃんの長いまつげと細い指を強調するアクセサリーになっていた。黙っていると、本当の美人だと思った。もちろん家での彼女の方が好みだし、あの危うさが私を虜にしている。
そういえば本なんか家にあったかと思ってまじまじと見ると、背表紙に別張りのバーコードのシールが貼ってあった。学校の図書館の本らしい。
「瞳さんどうかした?」
「いや、あの、美人だなと思って」
彩瀬からは「わからなくはない」と言われ、のんちゃんからは「ありがと」と一言返された。
―――
「ちょっとお手洗いと、喉が渇いたんでジュース買ってきます。二人は何かいりますか」
私よりも一足早く宿題を終わらせた彩瀬が立ち上がる。
「私は結構よ、ありがとう深森さん」
「私も大丈夫」
去り際に「彩瀬さんって呼んでください」と言い残し、彩瀬は部屋を出ていった。と同時にのんちゃんは本をバタンと閉じて立ち上がった。
栞は挟まなくていいの
「ひーちゃぁーん!」
「うっ」
ガバッと、のんちゃんは座卓の上を乗り越えて正面から私の胸元に飛び込んできた。文房具が飛び散るのはお構いなく、私を押し倒す。
「さっきは美人って言ってくれてありがとお」
二人きりになると、学校の中だとしても家にいる時と同じのんちゃんになった。両手を絡められた状態で顔をすりすりと私の胸に擦りつける。体中がのんちゃんで満たされる。
照れくささと嬉しさと彩瀬に見られはしないだろうかという心配の入り混じった、どちらかというと、いや完全にポジティブな気持ちよさを感じている最中、のんちゃんは上半身を起こして、馬乗りの格好になった。
「のんちゃん?」
冷たくて鋭い目つきで私を見下ろす。まずいと思ったときにはもう手遅れだった。
のんちゃんは右の拳を振り上げて、全力で私の鳩尾に振り下ろした。
「うぐぅっ」
不意の衝撃で完全に息が止まる。
痛みで目に涙が浮かぶ。
激しい吐き気に見舞われる。
「つっ!ぐっ、がふ、やめっ、っ!っ!……」
その後何度も体を殴打される。力加減なんか知ったものかと、肩に、胸に、腹に、両方の拳が交互に私をえぐっていく。本能的にもがいて脱出しようとしたけど、痛みで動きようがなくなった。
「ぐすっ……うぅ、あぅ、ううううぁっ!」
「はぁ、はぁ」
のんちゃんの手が止まったころには私は泣きじゃくっていた。痛いのもあるけど、のんちゃんを怒らせてしまった自分に対する後悔と内罰で涙が溢れていた。
「ごめん、ごめんねのんちゃん」
「何が?」
「彩瀬を連れてきたから?」
「違うっ!」
おまけにもう一発、今度は頭を横から。これはまずい。視界が白く染まっていく。
「下の名前で呼び合う友達がいるなんて、そんなの嫌だ。私を一人にしないで」
のんちゃんは寂しがり屋さんなんだから。のんちゃんにはやっぱり私が必要なんだ。
「お願い、そばにいて」
のんちゃんの顔が私に近づいてくる。泣きそうになっているその顔は、現実的で、彼女のありのままを写したようで……
「瞳」
そこで私の意識は途切れた。




