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「私は瞳のこと嫌いにならないよ。だから瞳は自分を嫌いにならないで」
真剣な眼差しが痛い。もうちょっと早く彩瀬と出会っていたらよかったのにと思った。だけどもう遅くて。
私は私のことが嫌いだ。何をやっても、何かズレているような気がして。
ただそれだけのことで、漠然と、理由もなく藤原瞳という人生に価値がないように感じて。
五時間目の終わりを告げるチャイムが鳴ったのは、それぞれの小学校時代の様子を語り合っていた頃だった。彩瀬は案外と大人しい目だったようで、一年ごとに変わる数少ない友人の名前も忘れてしまったらしい。
六時間目は出席した。体育の先生に後から何か言われるかと思ったけど、そんなことはなくて、何事もなく放課後になる。勢いよく教室から飛び出して部活動に向かう生徒もいれば、私たちのように一息ついてそのまま留まっている生徒もいた。
「瞳、今日は『のんちゃん』はいるかな」
「学校には来てたよ」
「わかった。行こっか」
前の金曜日はのんちゃんは部活には来なくて、学校の外で「ひーちゃん」を探していた。そんな時に私と出会って、私がひーちゃんになった。
彩瀬はお花見部に白木院光梨の姉、希がいることを知っていて、のんちゃんの方は彩瀬の存在も知らない。ましてや光梨の友達だったことも。彩瀬は彩瀬で、私とのんちゃんの関係は知らない。ちょっとややこしい。
校舎一階の端にある小さな和室にはまだ誰もいなかった。とりあえずバッグを部屋の隅に置いて、腰を下ろす。
「いないね」
「もうすぐ、来るんじゃないかな」
根拠はないけど、のんちゃんが来ない理由も思い当たらなかった。
そしてほんの数分後、和室の引き戸が開いた。
自然な様で部屋に入るのんちゃんと目が合う。そして目線は彩瀬の方へ。
学校では私はのんちゃんの前でひーちゃんとして振る舞えば良いか否かを聞いていなかった。のんちゃんの方からも特に言われていなかった。
家にいるときみたいに私を見た瞬間になりふり構わず抱き着かれるかと思ったけど、そんなことはなくて、普通の二年生として、他人として私たちと接するようだ。
「入部希望の方ですか」
のんちゃんが透き通った声で彩瀬に語りかける。私と初めて会った時と同じ綺麗な声。これが外向けのものだったんだと気づいて少し笑いそうになった。
「初めまして。深森彩瀬といいます。まだ部活が決まってなくて、クラスメイトの瞳さんに連れてきてもらいました。見学だけでもさせてくれませんか」
彩瀬の声がわずかだけど確かに震えている。のんちゃんはそれをただの、初対面の人に対して緊張しているからだと捉えているだろうか。
「見学だけだなんて。せっかくだし、もう入部しちゃったらどう?」
「いいんですか」
「いいも何もないよ。瞳さんもそのつもりだったんだよね」
のんちゃんから初めて「藤原さん」ではなく「瞳」と下の名前で呼ばれて固まってしまう。変な間が開いたことで、二人の内のどちらかから「ん?」と声が聞こえた。のんちゃんにとってはただの一年生の後輩になる心の準備をしてようやく口を開く。
「はい。これからは彩瀬も加えて三人で活動していきましょう、白木院さん」
「決まりね」
貼り付けられたのんちゃんの笑みはとても魅力的で、どんな人でも絆されるほど美しかった。現実味がないほどに。




