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のんちゃんに「ひーちゃん髪伸びたね」と言われたのは二日前の朝のこと。断る理由なんかないから、この家の辺りに美容院はあったか思い出そうとしていると、すでにハサミを持ったのんちゃんが背後に迫っていた。彼女の無邪気な鼻歌と少しさび付いたハサミが擦れる音がミスマッチしていたのを覚えている。
あんまり自分の顔は好きじゃないし、のんちゃんは満足そうにしていたから、切り映えは気にしていなかった。だけど彩瀬が言ったように、毛先が不揃いすぎてさすがにちょっと変だと思った。
「彩瀬が切ってくれるの?」
「揃えるぐらいならできると思う」
そう言った彩瀬は、ハサミを手にしてチョキチョキと動かしていた。心なしか期待交じりで目が笑っているように見える。そう言った割に手に持っているのは、丸みを帯びたパステルピンクの、どう見ても文房具の方のハサミだった。キッチンバサミよりはまだマシだろうか。
そんなことより、せっかくのんちゃんに切ってもらった髪を切ることに抵抗を感じる。ちょっと変でもひーちゃんらしいのなら、それでいいけれど。
生前の白木院光梨はどんなのだったのだろう。それを知る人物はのんちゃんと、そうだ、私のすぐそばにいるじゃないか。
彩瀬は今まさにプルプルと狙いを定め、開いた刃をスライドさせている所だった。
「ストップ!まだいいって言ってない」
「じょじょ冗談だって」
慌てて手を引く。そのまま一歩下がって、両手で口元を隠していた。
「ごめん、ごめんね」
声は弱く、まるでもう勝手に切ってしまった後のようにしゅんと落ち込んでいる。どれだけ切りたかったんだ。それとも私に止められたのがそんなにショックだったのか。
「あーっと、いいんだけど、ちょっと聞いていい?」
「なに?」
「彩瀬の友達だった、あの光梨さん?はどんな髪型だったの」
「なんでそんなこと聞くの?」
「なんでも!」
ごもっともな疑問を、気持ちで覆いかぶせた。彩瀬の罪悪感につけこむ形になっているなと気づいた。
「ちょうど今の瞳ぐらいだった。もちろん、もうちょっと整っていて。後は瞳の方が少し髪が太いかな」
ちなみに、のんちゃんの髪は私よりも細い。のんちゃんの髪を知っているのは私だけだと、意味のない張り合いをする。口に出なくてよかった。
慎重に丁寧に私の髪が裁断されていく。彩瀬の私に対する緊張だけでなく、私の髪をまるで宝石のように大事に扱おうという念さえも伝わってくる。落ちていく髪が首筋にあたってこそばゆい。
「ねえ彩瀬」
「後で!」
無言が気まずくて声をかけたわけじゃない。彩瀬に意識を向けられると、何か得体のしれない渦が心中で巻いて、それで落ち着かなかったからだ。
何故だかふわふわとした羽毛に包まれている気がした。きっとぱらぱらと舞い落ちる数センチにも満たない毛が無意識にそれに見立てられたのだろう。




