-23-
藤原瞳…高校1年生。「ひーちゃん」として希と暮らすことになった。
白木院希…のんちゃん。高校2年生。妹依存症(?)の気質がある。
深森彩瀬…瞳の友達で、中学時代は光梨の友達。恋愛対象は女の子。
白木院光梨…ひーちゃん。希の妹。先日事故で亡くなった。
お久しぶりです。
新章です。これからもよろしくお願い致します。
「瞳おはよう……ん?瞳ってば」
呼ばれて一瞬、いや数秒は自分のことだと分からなかった。声の主である彩瀬は不思議そうな顔で下からのぞき込んでいる。
私がひーちゃんになり、のんちゃんと暮らし始めてから初の登校日の朝のこと。
今日ものんちゃんの家で起きて、朝食を摂り、そして初めて二人で通学路を辿った。のんちゃんも「高校でもひーちゃんと一緒だ」と嬉しそうに笑っていた。校内での別れ際、のんちゃんは両手で私の手を包み、甲に爪を立てて、またねと一言だけ告げた。
わずかについた爪の跡が、私はひーちゃんだと証明しているように感じた。
月曜日なんて1週間という息苦しいトンネルの入り口だと思っていたけど、まるで巣から飛び立った小鳥のような今の私にとっては、どこまでも明るくて颯爽なものに感じた。今日は、明日は、明後日は、どこまで行けるのだろう。どこを目指せばいいのだろう。
眩しくて目が細くなる。大きく息を吸い込むと、自分らしくもない笑みが自然と浮かび上がった。
「彩瀬おはよ」
「なに気分良さそうじゃん」
「えへへ」
彩瀬はますます目を丸めて私を見下ろす。彼女は背が高いから私の視線は上を向く。
「髪、切ったの?」
「切ってもらった」
「誰に?」
「のん、コホン、お姉ちゃんに」
一昨日まで伸びっぱなしになっていた私の髪は、首に届かないぐらいになっている。キッチンバサミでザクザクっと横に切って、おしまい。
のんちゃんというワードは彩瀬には出さない方がいい。私とのんちゃんの関係は、白木院光梨の友達だった彩瀬に知られたくない。
彩瀬の前だと、死者に成り代わっているという後ろめたさを嫌でも思い知らされる。
「なんか、似合ってるような?うーん」
なぜか疑問符つきで感想を述べられる。白木院光梨のことを思い出したのではないかとヒヤリとした。
その疑問が解消されたのは、早くもその日の昼休みだった。
「ねえ瞳、五時間目の体育サボらない?」
藤原瞳は授業はサボらない。ひーちゃんは違うかもしれない。
「いいよ。どっか行く?」
なるべく気丈に、瞳らしさを消すよう努める。そういえば部活動はサボったことがあった。瞳らしさの説得力が薄まる。
「いや、髪の毛切ってあげる」
「どうして?」
「どうしてって……」
クラスメイトが体操着とシューズを手に教室から更衣室へと移動するのを横目に、彩瀬は私の背中を押して、女子トイレへ誘導する。すれ違いざまにちらりと怪奇な目を向けられたけど、声をかけてくる人はいなかった。
入学からもうすぐ2か月。彩瀬はその奇抜な髪型から集団と距離を置かれている。彩瀬自身も積極的に友人を作ろうとしないらしい。銀のツーブロックは圧倒されたし、私との付き合いもまだ浅いけど、彩瀬は素敵な人だと思う。
洗面台の前にエスコートされ、鏡の前で固定される。私の肩越しに彩瀬の顔がひょっこりと覗いている様子が鏡に反射して映っている。彩瀬がふっと息を吐く。
「ちょっと変!だと思う。瞳の髪」
意を決したように発した言葉は、尻すぼみにかすんでいった。
「どこが」
と、久しぶりに見た自分の顔は、いや頭は、当の本人から見ても少し妙だった。というのも、切り揃えられているはずの髪先がガタガタに歪んでいた。例えるなら、お弁当箱に入っている緑のギザギザを更にジグザグに切り取ったかのよう。
先ほど向けられていた視線は私に向けられているものだったのかもしれない。
※2021.1.29 登場人物の名前を変更しました。
変更前:白木院光 → 変更後:白木院光梨




