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「ひー……、おは……。ひーちゃん、おはよ」
「ん、んん」
緊張と慣れない布団で眠りが浅かったようだ。いつもはサッと起きられるのに、のんちゃんに起こされても意識が半覚醒のまま、視界がぐらぐらと揺れている。
どんよりと頭を上げると、私の布団は剥がされていて、のんちゃんが私に馬乗りになって覆いかぶさっていた。上下ともに下着姿で。
「ひゃっ!」
朝一番のサプライズで飛び起きる。思わずのんちゃんを突き飛ばして、壁にぶつかるまで後退りをした。
「ひーちゃん、寒い」
「じじじ、自分で着ればいいじゃん!」
「いつもみたいにひーちゃんが着せてよ」
「えぇ……」
のんちゃんは至ってフラットで、私に押されて尻もちをついたのにまったく気にしていない。ゆっくりと立ち上がって、両手を広げて腕を斜め下に伸ばして固まっていた。
これが日常だったのだろうか。ひーちゃんがいないとダメになるタイプみたいだ。実際に彼女はギリギリの生活をしていたわけだけど。
「甘えんぼさんめ」
「えへへ」
急いでクローゼットから適当なスカートにブラウス、シャツを取り出して着せる。
「まだちょっと寒い」
そう言って自分でカーディガンを取り出して身に着けた。自分で着れるじゃん。
そうこうしていると、自分がとても空腹だと気づいた。昨日の夜は小さな菓子パン3つだったから。カーテンを開けると白くて強い朝陽が差し込んできた。まだ朝は早いらしい。
「のんちゃん、お腹減った」
「買いにいこっか」
既にのんちゃんは玄関へ移動していて、まだパジャマ姿の私を待っている。
「着替えるから待ってて!」
彼女を待たせることと、勝手に服を拝借することを天秤にかけて、早く行動する方を選んだ。しわくちゃになって放置された制服を着てもよかったかもしれない。
両面に鍵穴のある錠を内側から開けて外へ出る。まだ合鍵は貰えなくて、部屋に出る際はのんちゃんと一緒でなくちゃいけない。
初夏の朝陽は時刻の割に暖かく感じて、体に当たると太陽光で充電されている気がした。でも実際はエネルギーは補充されなくて、空腹が強調される。
植物は一生この日差ししか食べられないことを想像する。飽き飽きして生きてて楽しくないだろうなと、朝からネガティブなことを考えてしまった。
「ところでさ、のんちゃん」
「なに?」
隣を歩くのんちゃんの足取りも重い。眠気まなこを擦りながら私よりも小またでゆっくりと進み、それに私が合わせている。二人分のサンダルが地面に擦れて軽い音を奏でる。
「お金とかって誰から貰ってるの……じゃなくて、貰ってたっけ」
「あー里親?だったっけ……っふがふが」
すぐに出た大きな欠伸で、この話題は終了した。それは少しわざとらしく感じた。
24時間、いつ誰が侵入してもいい場所って中々ない気がする。来るもの拒まずの精神がモットーの便利なお店で、パンとかおにぎりとかを買ってアパートへ戻る。
瞳にとっては異常で、光梨にとっては普通の日常が始まった。




