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1Kの間取りに脱衣所はなくて、キッチンに浴室が横付けされている。畳張りの居間とフローリングのキッチンを仕切る引き戸は開いたままだったから、見ようと思えばのんちゃんのありのままの姿を見られたけど、まだ勇気がなくて直視できなかった。反対側を向いてボーっとしていると、彼女が浴室から出て着替えている様子が音で伝わってきた。
「ひーちゃんお風呂お先!」
のんちゃんはドライヤーもかけずに居間に戻ってきた。せっかくのロングヘアが濡れたままで、ちゃんとタオルで拭いたのか怪しむほどに水分の重みが見て取れた。
長袖の上下とも真っ白なパジャマを着ている。その無機質さと彼女の不健康な肌具合から、思わず入院している人かと錯覚してしまう。
「私もお風呂入るね。下着とパジャマはどれを使ったらいい?」
そう言って立ち上がろうとした時だった。
「やっぱり覚えてないんだ」
「……」
のんちゃんの表情が曇る。私は藤原瞳として生まれて育ってきたから、元のひーちゃんの生活は分からない。のんちゃんに愛されるためなら多少の痛みは覚悟しているけど、避けたいものは避けたいし、叩く方も疲れるだろうし……ダメもとで言い訳を考えてみた。
「ごめんねのんちゃん。のんちゃんと一緒にいない間に記憶がごっちゃになっちゃって、覚えてないことがあるの」
「……」
「もちろん私はのんちゃんが大好きで世界で一番大事。それは覚えてるし、一生変わらないよ」
のんちゃんは私を見下ろしたままポカンとしたあと、ウルウルと目に涙を浮かべた。
「そういうことだったんだね。ごめんね、ひーちゃん!……だったら構わないけど、ひーちゃんはひーちゃんでいてね」
「もちろん」
「にゃ!」
パジャマ姿ののんちゃんが、長袖シャツの制服を着たままの私に抱き着く。生地が薄くて肌の弾力が強調された。
お風呂を出てすぐだから、私の頬に触れる彼女の頬は湿っていて、お互いの首筋には濡れた髪の毛が絡まっていた。髪から水滴が垂れて私の服の中に入り、肩から背中にかけてぞわぞわとした感覚が走る。
正面から抱き着いてきた彼女の背面に腕を回すと、ちょうどお尻と太もも裏の境目に行きついたから、試しに抱っこの体勢でのんちゃんを持ち上げてみた。
「み~」
「はいはい」
低身長でやせ細っているから、私でも持ち上げられるだろうと見込んでいたけど、想定していたよりも遥かに軽くて、思わず放り投げそうになるほどだった。
彼女は抵抗せず、抱っこをされるのが当たり前かのように、私の首に両手を、腰に両足を回して自分で体を安定させた。




