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「昨日の行き先は瞳が決めたし、今日はお花見部に連れてきてくれた」

「それは、どうも」


 そう言いながら彩瀬は部屋の窓を開けた。同時に吹き込んできた風は、少し湿っていてだけど温かかった。い草の香りが宙に浮いて鼻をくすぐった。

 褒められるのなんていつ振りだろう。高校受験に受かった時は母から「もっと上の高校に行ってほしかった」と言われた。本音と誠実と愛情について考えさせられた。考えて考えて、疲れた。人生に疲れた。


 備え付けてあったポットでお湯を沸かして湯呑と緑茶のティーパックを二つずつ用意する。パックの入っていた紙箱の側面を見ると、8桁の数字が書いてあった。残り半月で、二人で一日一杯以上は飲まないと全部なくならない。詳しい計算はしんどいからやめた。多分三人いたら期限内にすべてのパックが賞味される。


「いただきます」

「うん」


 お菓子のひとつもなくてごめんねと心の中で謝った。

 他人に何かを振る舞うのは初めてだった。お茶を一口飲んでから吐いた息には、ほんの僅かに達成感が混じっていた。


「で、活動って何するの?」

「特にないよ。下校時刻までのんびりするだけ」

「えぇ……」


 困っている彩瀬を横目に、今日も私は昼寝をすることにした。スクールバッグを枕にして、服の皴とか気にせずに寝転がる。他人がいるから寝られるかなと思う間もなく、私の意識は私の管理下から離れて行った。



―――



「ん」


 頭部から振動を感じて意識が戻ってくる。そういえばアラームをセットするのを忘れた。

 固いバッグに乗せたはずの頭の感触が変わっている。布地が柔らかくてわずかに弾力がある。


 目を開けると、彩瀬が私を見下ろしていた。目が合ってすぐに彩瀬は目を逸らせた。


「えっと、これはっ」


 彩瀬はしまったという表情になる。窓から差し込む夕日に照らされた顔は綺麗な茜色に染まっている。


「カバンを枕にしてたら、固くて、首を痛めそうだったから、それで、私も暇になったし、だから、痛めそうで」


 私に膝枕をした理由を丁寧かつ素早く説明してくれた。素早い割に伝わってくる情報量は少なくて、なんだかおもしろくて、目が覚めてからしばらくの間わざと起き上がらないで彼女の顔を覗き返してやった。


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