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下校時刻を知らせるチャイムが鳴る。5月の陽は長くて、日暮れにはまだ早い時間だった。適度な夕日の眩しさが心地いい。
夕日に向かって彩瀬と2人で歩く。彩瀬は私が寝ている隙にこっそり膝枕をしたことを凄く気にしているみたいで、ちらちらと私の顔(頭?)を見ながら、何かを言おうとしていることが伝わってくる。
彩瀬の膝枕の感触はもう忘れてしまった。
「瞳、引いちゃったよね」
「膝枕のこと?」
こくりと頷く彩瀬の顔は気の毒なほど罪悪感に満ちていた。
「私の首を気遣ってくれたんでしょ」
「それはそうだけど。普通友達に膝枕はしないでしょ」
「そうかなあ」
確かに今日まで膝枕とかされたことなかった。
友達……最後に友達と呼べる人がいたのは小学校まで遡る。その子の名前は憶えているけど、中学が別になって、それっきり。
「膝枕って言ったら、恋人がやるもんじゃん」
恋人の「こ」のボリュームが大きくて、しりすぼみに声が消えていった。
「気にしてないよ」
それ以降、私たちの間に会話は生まれなかった。せっかく友達になったんだから、もっと色んな話をするのかと思った。具体的に何かと自分で考えてみたら、残念ながら一つも思い浮かばなかった。正確には、絶対に会話が成り立つと確信できる話題が出てこなかった。私は失敗を恐れてばかりだ。
「それじゃ、私の家はこっちだから」
電車通学の私と違って、彩瀬の家は高校から徒歩圏内にあるらしい。駅へ続く道の途中でお別れとなった。
「ん。また明日」
言ってから、明日が土曜日で学校がないことを思い出した。彩瀬はぎこちない笑みを浮かべ軽く手振って去っていく。やっぱり人付き合いは向いてないなと思った。なぜか私は人とズレてしまう。
心の反省会を終えてふと気がつくと、見覚えがあるようなないような、多分通ったことのない裏道に出ていた。何となく駅に近いことは分かるけど、最短ルートがわからない。
辺りを見回していると、同じ高校の制服を着た見覚えのある人物と目が合った。
腰まで伸びた長い黒髪と痩せ過ぎと言ってもいいぐらい細い体躯。5月の終わりだというのに長袖ブレザーに厚手のニーソックス。僅かに露出する肌は儚いほど真っ白で、まるで彼女だけ冬の季節に存在しているようだった。
「のん……白木院さん」
「藤原さん、こんにちは。いや、もうこんばんはの時間かな」




