第百十二話「平穏なる冒険者たち」
SSSのドラゴンは小さな太陽となる。季節は突然、ありえないほど暑い夏となった。まるで南方の国のようにだ。
じきに燃え尽きて消え去るのだが、その間冒険者たちはしばし真夏の国を味わえる。
ベルナールたち野郎どもは上着を脱いで森に入り、女子たちにはまた昔のようなビキニアーマーが復活した。
世界レベルの驚異を排除したとして、王都はサン・サヴァンのギルドに多額の予算を配分した。アンディックが事前に用意していたのだ。それが今回の報酬となる。
冒険者たちには、いきなりの特別慰労報酬が舞い込んだ。ベルナールの生活は一息も二息もついた。街も昔のように活気づいた。遺族には十分の見舞金が払われた。
しかし死人は戻ってこない。
森に散った魔物も多かった。冒険者たちは最後の稼ぎとばかりに、残敵狩りに精をだす。
騎士団、聖なる騎士たちには、休暇という名の仕事が与えられた。
冒険者として一時的な資格が与えられ、そしてそれぞれが森へと散った。アルマたちはのびのびと戦い稼ぎ、そして冒険者とは何かを体験する。これもアンディックの訓練であった。
「村にもっと金を送ろうか?」
その言葉を聞いたステイニーは、デフロットに無言で抱きついた。
「色々あったけど故郷の村だもんなあ……」
そして胸に顔を埋める、女の髪をやさしく撫でた。
「うん……」
死線をくぐったからか、今までより強くなったからか、様々な出会いを経たからか、二人は良い思い出などない故郷を、共に思い出していたのだ。
「そろそろ帰還の頃合いかあ……」
いつもの酒場で、バスティはため息をつくように言う。
「遅くなると御義父様に怒られるわよ」
そしてアレクはたしなめるように言う。
「大丈夫。俺は甘やかされているから」
「何よ、それ?」
「いや――」
仲間のイヴェットとリュリュは、そんな二人をニヤニヤしながら眺めるのだ。
「――そうだな。休学も、もう終りだ」
これからの四人には、王都での新しい暮らしが待っていた。
◆
「私一人にやらせてくれっ!」
アルマの問いに、ベルナールはレディスを見た。肩をすくめる。セシールは小さく頷いた。
相手はスプリガンだが、小人をまだ手に入れていない巨人の単体で、B級下位といったところだ。問題はない。
「やってみろ」
「よしっ!」
あらかじめ報酬は頭割りと決められていた。
「アルマ、防御に気をつけなさい」
「分かってる!」
レディスに返しながら、アルマは猛然とスプリガンに挑む。
暑さも手伝って、女子達のビキニアーマーは極小化の一途をたどっている。最初は違和感もあったが、今では皆が慣れ始めていた。
防御を魔法障壁だけ頼ることとなるが、それだけ身が軽くなりスピードでも己を守らなければならない。
長い腕を振りますスプリガンの攻撃を、アルマは器用に避けながら隙を見て飛び込み下半身に攻撃を仕掛ける。
「ふむ、やるじゃないか」
「以前は力任せに戦い、勝つのが騎士だと思っていましたから」
それもまた、騎士の戦いとしては正解だ。レディスはアルマの全てを把握している。
「あの姿はどう見ても冒険者だしなあ」
小さな体を大きく使い、のびのびと思いつくままに戦う。今のアルマは王都の正装を、騎士の誇りと共に脱ぎ捨てたのだ。
体勢を低くして肉薄するアルマに、スプリガンはかさにかかって上から攻撃を振り下ろす。
小柄な体をおとりに使った作戦だ。アルマが動くために体の一部がぼんやりと光る。
「またね、意外よ。私たちって、こうなんだ」
セシールも自身の体についてなど分かってはいない。昔のように肌をさらしての戦いを知らない、若い世代だ。
「そうだ。魔力とは、結局は体からの放出だからな。俺たちはいつも可視化された攻撃だけを見ている」
時にさけ、そして時に障壁を展開し、アルマは反撃の隙を伺う。そしてため込んだ魔力を上に向けて発射した。下から突き上げられ、スプリガンはのけぞる。
アルマは剣を水平に構えて一気に跳躍し、縦に切り裂かれたスプリガンはもんどりうって倒れた。腹からゴロリと魔核が転げ落ちる。
それを拾い上げ、汗だくになった。アルマは剣を納めて、戻って来る。
「いいだろう――」
「はあ、はあ、はあ……」
「――やるじゃないか、しかし相変わらず制御が雑だな」
「……それは不得意だ」
レディスがタオルを渡し、アルマは不機嫌そうに体の汗をぬぐう。
「最初はこの格好に、意味があるのかと思っていたが、意味はあるな」
「魔力の放出がよく感じられるだろ? 制御のコツがつかみやすいと言われているがな」
「コツなど分からん」
「慣れてくれば。分かりますわ」
レディスはアルマの教育係である。だから自ら極小をまとい、そして実演して見せていた。まさに体を張った個人授業だ。
「アルマは腕からの放出が多いな。レディスとセシールは体幹を上手く使っている。その違いさ」
「む~……」
弟子の二人は魔境大解放の影響で、しばらく休校となっていた学校に毎日通ってる。ベルナールは、今はこの女子三人と急増のパーティーを組み、毎日森に来ていた。
「さて今日はもうこれくらいでいいだろう。帰ろうか」
女子たちは近場に置いてあった布を腰に巻き、そして半袖の上着を羽織った。これでとりあえず、街中を歩けるような姿となる。ベルナールもまた上着に手を伸ばす。
周囲を警戒しつつ、四人は森の道を歩いた。未だ残敵となった魔物の数は多い。
「いつまでこの街にいるんだ?」
「一部の騎士には帰還命令が出ました。森の状況を見て完全に安全が確認されてから、私たちも去りますわ」
「まだ何か起こると思っているのかな?」
「可能性は低いです。さすがにないでしょうが……」
「まあな」
「それじゃあ」
森の間道の途中、ベルナールが娘たちに向かって軽く右手を上げる。
途中から分かれている、小道の先にある泉が男子禁制の水浴び場、女の園になっていた。女性冒険者たちは帰りがけいつも、そこで汗を流す。
「よかったらベルもどうだ? 私の背中を流してくれ」
「冗談はよせよ。俺はお前の下僕じゃない。そんなことをしたら街を追放されちまう」
もちろんこれは、アルマの冗談だ。
冒険者の不祥事には、街からの追放や資格の永久剥奪、そして王都へ召喚されての査問など各種ある。ベルナールは、ふとその対象者を思い出した。
「今夜は、お前さんたちの親玉に話があるんだ」
女の園への不法侵入ならば追放。ベルナールの戦力外通告には、救済措置がある。




