第百二話「それぞれの運命」
ギスランとフィデールのパーティーを押さえたので、ギルドは作戦を変更する。積極策だ。
今まで不参加であった冒険者たち全員が、このダンジョンクライシス攻防戦に加わり、戦況を一気にひっくり返せるとの見込みである。
旧ギスランのパーティーは紆余曲折あり、そのほとんどをジェリックが掌握した。
脱退した者もいたが、それはギスランを慕ってではない。自分たちでパーティーを組み、自身の信念の為に戦いたいとの理由からだった。そして多くの者たちもまた、この戦いの終結をもってそれぞれの道を進もうと考えていた。
かつてフィデールが率いていた冒険者たちは、この戦いに限りブランシャール卿の預かりとなりギルドに従うこととなる。稼ぎまくる他の冒険者を横目で見て、皆が戦いに飢えていた。
交代の応援が加わり、当初から戦い続けていた冒険者たちは、しばしの休息を得ていた。
戦場を一回りしたベルナールとセシリアは、レ・ミュロー対策本部に戻る。決戦は近い。
「どうでしたか?」
エルワンが二人を出迎える。片手に書類を持ち会議室へと移動した。
「特に目新しい動きはないな。敵も次の一手を出しあぐねているようだ」
「次ですか……」
ベルナールは未だ幽鬼たちに次の一手があると読んでいた。
「そもそも次なんてあるのかしら?」
「さあなあ、ないかもしれん。あるかも知れん」
しかし、セシリアも含めた全体が楽観論に傾きつつあった。ずっと戦力不足に苦しんでいたが、初めて戦いに余裕が生まれたからだ。
「ならば敵が動く前に、こちらから仕掛けましょう。これ、作戦計画書です」
「あ~ら、エルワンの考えた作戦なんて大丈夫なのかしら?」
「ひどいなあ、感想を聞かせて下さい。修正しますから。アンディックさんの所にはロッティが持って行きました」
王宮騎士団すらも傘下に収める大作戦である。その計画を、いちギルドマスターが立案するなど混乱時の異例でもあった。
その内容にベルナールたちはざっと目を通す。
「ふ~ん……、良いんじゃないかしら?」
「ああ、特に注文はないな」
「そうですか? いやあ、嬉しいですねえ。お二人からそう言っていただけるなんて……」
「エルワン、お前はもう立派なギルドマスターだよ」
「今までは違っていた、ってのはショックでもありますけどね」
おどけたエルワンとベルナール、セシリアの三人は顔を見合わせて笑い合う。
ベルナールの発言は、今までは北ギルドのマスターであった。しかし今は街全体のギルドマスターの顔になった、との意味である。
「王宮騎士団が了承してくれたら、全員に周知します。それと神器使用も申請しますよ」
計画の責任者が申請し、近衛兵団の了解が使用の手続きとなっていた。
◆
「この戦いも終りが見えたって気がしねえか?」
「最後まで気を抜いてはいけない、だろ?」
エレネストの店では、いつものように若者たちがたむろしていた。
ギスラン、フィデールの件については正確な噂話が流布され冒険者たちは皆、事情を知っている。
「ふふん、騎士の考えだな。冒険者は金勘定と逃げ時が大事なんだよ」
「騎士だなんて……」
デフロットに相手を挑発するつもりはなかったが、それでもバスティは少し考える顔になる。バスティが貴族だと皆が知ってしまった。
「もちろん気を抜くつもりはないぞ。俺たちのパーティーで最後に必ずA級を喰ってやるぜ」
「ああ、こっちだって同じさ」
「私たちの配置はどこになるのかしら?」
ステイニーが話題を変える。最後の稼ぎに係わる問題であった。大きくはダンジョン突入組と、開口周辺での支援組みに分かれるはずだ。
「どこだって構わないぜ! どうなろうが、最後はダンジョンに突っ込むからな!」
「なら魔力を温存してね。開口を前にしてへばっちゃうなんて御免よ!」
「分かってるよ……」
気を吐いたデフロットだがステイニーの正論には素直に同意した。
「さて、私たちもそろそろ意思統一をしておきましょうか」
この際だからと、アレクもこの話題に乗っかる。
「やっぱりダンジョンよね~。中がどうなっているか興味あるわよ」
「ゴースト出現と、新ダンジョンには何か関係あるかと思われます。その秘密は中に入らなければ分かりませんわ」
イヴェット、リュリュ共に発言のあとバスティを見る。アレクも同様であった。
「俺は……」
出来ればあの人の背中を見て戦いたいと思った。この街での戦いも、もう終りが近い。しかしバスティは、単に自分は好き勝手に生きているだけだと思っていた。アルマに説教された件もしかりだ。
「俺はアレクの判断に従うよ」
「あらあら、素直なのね」
「個人の判断で、どうかなるとも思えないしね。状況に合せたリーダーの指揮に従う。それがパーティーだよ」
運命に流された先に何があるのかもまた、興味深い。この戦いが終われば素直に、王都に帰還しようと思った。
◆
「ベルさんとお母さんはもう帰ったって」
上に報告を済ませたセシールは一階に戻る。対策本部では、今日もまたいつもの美しい御婦人が軽食とお茶を振る舞っていた。
「そうですか……」
「帰るのはやい~」
「仕方ないわね。御馳走になって私たちも帰りましょうか」
アレットとロシェルは落胆するが、本当に仕方ないのだ。師匠と弟子たちはすれ違いが続いている。成長した弟子には、そろそろ師匠の褒め言葉が必用であった。
「ウチに行ったのかな?」
最近セシリアは営業を縮小して店を開けている。
「ベルならギーザーに行ったわ。たぶんね」
「えっ?」
御婦人がカップを置いてお茶を注いでくれる。
「あそこのマスターと話す内容を考えているのね。足取りで分かるのよ」
「はあ……」
「あなたのお店に行く時は、もうちょっと軽やかに歩いているの」
歩き方で行き先が分かるなど、驚異の魔力である。
「あの、ベルさんとは……」
「ただの昔馴染みよ。御免なさいね。よけいだったわ……」
「いえ……」
◆
「ギスランはどうしてるのかな?」
「中央ギルドの地下牢で反省中だよ。連行されてるのを見た職員がいる」
「そうか」
ギーザーのいつもの席で、ベルナールはいつものようにビールジョッキをあおった。
「どうなるのかな? 処刑されるとか……」
「いや、王都に連行されて監視付の生活だそうだ」
「よくそんなことまで分かるな? お代わりをくれ」
「王都から、遠距離の魔力伝達が届いたんだ。受けた人間が書き起こして、それを見た偉いさんもいる。噂にもなるさ。はいよ」
ベルナールはビールジョッキを受け取る。酒場のマスターは情報通なのだ。
「生かしておけば、いずれゴーストが接触してくるかもしれない。泳がせて監視した方が有益だと進言した者がいる。それが受け入れられたんだな」
「なるほどね」
これはアンディックの策だと思った。昔馴染みの冒険者が縛り首では、やはり寝覚めが悪いのだ。ベルナールはほっとする。




