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清楚で可憐で純心無垢な慈愛に満ちたヒロイン?はは、ご冗談をw

「ぼ、僕の名前は下笑 雷太(げえむ らいた)ですッ!部活はしてません!しゅッ、趣味はかわいい女の子の絵を描いたり、頭のゆるくてかわいい女の子がへらへらしながら闘うゲームを作ったり、ですゥッ!うハァハァッ!」


 半裸姿にこの雷太の発言である。ドラゴンはこめかみに手を添えて頭痛を(こら)え、疑念だったものを確信に変え、美命に尋ねた。


「斬り捨てますか?」

「ええェッ!?今僕の事人畜無害って言ってたヨネ?ネェーッ!?」

「女性専用車両が必要とされる理由が身に染みて理解できた発言だった。嫌悪感とはいえ、この私を少なからず震わせた事を誇りに思うがいい。なので今すぐ殺させてくれ、私のためだけでなく、この世界の平穏のために」


 雷太が次の瞬きを終えた瞬間、剣を鞘から引き抜く挙動すら目視する間もなく、雷太の鼻先に巨大な両刃剣が突きつけられていた。ドラゴンは剣を抜き放ったまま完全に静止した状態で美命が命令を下すのを待っている。振り返り白銀の髪の少女、美命の方を見遣れば、両腕を組み呆れた様子で(まぶた)を伏せ、口を尖らせて首を縦に振っている。さっさと()っちゃいなさい、の合図(ジェスチャー)である事は明白だった。


「ぼ、僕が何をしたって言うんだアッ!?確かにパンツ一丁で女の子の布団に潜り込んで惰眠(だみん)(むさぼ)ったり、いいにおいだァ~ってクンカクンカしたり、このフロアの重要機密である生命維持装置や魔道書をまるで間取りを知っているかのごとく迷いなく観察したりしてただけじゃないか!ごめんなさいィィーーッ!」


 弁明している最中に己の犯していた罪が相当重い事に気づかされた雷太は膝を90度曲げ、前屈した状態で自由落下して土下座の体勢をとり、両腕を上半身ごとバタバタと上下に振って泣きじゃくりながら剣を向けるドラゴンに謝罪した。


「何なのもう。騒がしくて眠れないんだけれど?」


 雷太の号泣謝罪劇の騒音に眠りを妨げられた黒髪の少女、微笑は右手で瞼を軽くこすりながら上半身を起こした。う~ん、と背伸びをして眠りが浅いせいか、非難めいた視線をこちらに向けている。


「微笑、まだ充分休息が取れていない所すまないが、この不審者がこの敷地に転移によって無断で進入してきた。この男をどう処罰すべきか、お前からも意見が聞きたい」

「うん・・・って、ちょっと?!何でその人裸なのよ!とりあえず服くらい着てもらってからにしてよ!」


 微笑は掛け布団を手繰(たぐ)り寄せて自分の身体を守るように羽織ると、赤面しながら叫んだ。


「そう言うだろうと思って倉庫から服を持ってきたわ。本当は私のお古だから嫌なのだけれど」


 微笑が叫び終わっていた頃には白銀の髪の少女、美命が片腕に青い布地を携えて戻ってきていた。


「え、い、いいの?」


 美命から聖衣であろう青地の服を差し出され、雷太は不安を口にしながらも受け取る。軽くてふわりとした真綿のような触り心地で思わず触れてはならない物に触れている背徳感が競りあがってくる。


「服がそれしかないから仕方なく貸してあげるけど、無駄に妙な手つきで触りまくったり無意味に匂いをかいでいたらその瞬間殺すから。わかった?」

「は、はひィッ?!絶対触ったり匂いをかいだりしません、お借りしますっ」


 雷太は目の前の少女が高位の魔法使いである事を知っている。その(ひい)でた精神力に目をつけられ、以前ウイルスバグというこの世界のウイルスを洗脳支配し続ける存在に身体をのっとられてしまった過去を持つ。服を着ても(おど)され、服を着なければ余計窮地に陥る事になる。雷太はとりあえず美命が勧める服を着るのが賢明だと判断した。


「う、きつ、くない・・・?」


 受け取った時はとても小さく感じられた服だったが伸縮性に富んでいて、体格の良い方ではない雷太よりも美命の方がさらにひとまわり小さいのだが、難なく着こなす事ができた。


「それで、微笑ちゃんはこの子、雷太君だっけ?彼をどう扱ったらいいかしら。私は微笑ちゃんの意見に従うわ」


 美命は微笑に絶対の信頼を置いている。それは姉妹である以上に、過去においてウイルスバグに支配されていた美命は微笑に命を救われて以来、表情にこそ出していないが微笑のためになら全てを投げ打つ覚悟をしているからに他ならない。と、いうのは雷太の設定した通りの話だったなら、であるが。


「突然転移してきたの?もう少し詳しく話を聞かせてよ。判断材料が少なすぎるわ」


 こうしてようやく弁明の機会を得た雷太は、自分が潔白であり何もわからないまま、目が覚めたらここのベッドで寝ていた事、そして自分が作ったゲーム世界とこの世界が酷似している事を説明した。


「この世界を造った?確かにここは仮想世界(バーチャルリアリティ)だけれど、それを作り出したのはお父さんや世界中の人体科学、科学哲学、人体工学、様々な分野の権威の人たちよ。あなた一人がそれを作り出したというのは、さすがに信じ難い話ではあるけれど」


 微笑は絵空事のような話だったが、一応親身になって聞いてくれていた。小さく整った(おとがい)に細く白い指先を添えて、今の話を吟味するように考え込んでいる。雷太はといえば己の窮地もそこそこに、微笑が俯いて前髪がさらさらと枝垂(しだ)れるのをゆっくりとかきあげている仕草に見入っていた。そこへ今まで沈黙を守っていた美命が雷太に手の平を向けて提案した。


「証明してもらえばいいんじゃないかしら?造り出したのならこの世界の仕組みとかを把握しているはずでしょう?」

「な、何を答えたら信じてもらえるかな?」


 一同が雷太に視線を向ける。雷太は生唾をごくりと飲み込み、冷や汗を流しながら返事を待った。最初に提案したのはドラゴンだった。


「では、私と一騎打ちをして勝利してみせる、というのはどうだ?」

「無理だよッ!」


 さっきの立ち振る舞い、剣捌きを一目見て、どう知恵を絞っても初手峰打ちで勝敗が決まるのは明白だった。


「この世界を生み出したというのなら私の弱点も知っていよう。何なら攻撃はしないでおいてやる。それとも創造主というのはやはり出任(でまか)せか?」


 弱点は、知っている。雷太は全てのキャラクターに弱点を設定していた。だがその弱点魔法が唱えられない。それどころか戦い方さえ知らない。結局の所ドラゴンの弱点を言葉で羅列して説明するしかなかった。


「本人の目の前で弱点を言うのは気が引けるんだけど、いくぞ。ドラゴン、種族ランクは最上位のG。物理攻撃の威力を半減させ、毒、麻痺、封印、混乱は10%の確率でしか効かない。攻撃魔法は通常威力で効くけれど神聖魔法は威力が半減する」


 ドラゴンはじっと(もく)して雷太の説明を聞いている。微笑と美命は目を見開いて雷太を見ていた。


「その通りだ。ただの出任せではないようだな。だがもう一声欲しい所だ。この世界を作り出したというのならまだ他にも蔵書(ライブラリ)に載っていない弱点を語れるはずだが?」

「語れる、けど・・・怒らない?」

「ああ、誓って怒ったりしない」


 あくまでドラゴンは雷太の発言を客観的に受け止める事に同意した。


「え~、まずレベルアップが遅い。低ランクのコウモリは次レベルまで1.03倍の経験値を取得すればレベルアップするけれど、ドラゴンは1.3倍の経験値が必要なのでレベルアップ時に習得する魔法や特殊スキルをなかなか覚えにくい。あと胸が小さい。これは僕がそれまでに他のキャラクターを巨乳ぞろいに描きすぎていたから自重する意味でドラゴンだけ小さくなりました」

 

 雷太が言い終わって瞬きし終わった次の瞬間、ドラゴンは美命に進言していた。


「やはりコイツは殺しておきましょう。正しいとかそんなのではなく、ヤツは悪です」

「怒らないって言ってたよね?!ヨネェッ!」


 こうして雷太の事情聴取が一段落して身の保身程度に信用してもらえるまで、それからさらに2時間を(つい)やしたのだった。


 




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