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花弔風月  作者: 満月小僧
私のカノジョへの秘密
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私のカノジョへの秘密 一

 一月六日の火曜日、私とカノジョはキャリアバックを片手に駅を訪れていた。週明けの月曜日から授業が再開であり、そろそろ帰らねば成らない。


 ガラガラガラと目的地である三番線ホームまで歩き、適当な乗車口で私達は足を止めた。時刻表を見ると次に電車が来るのは五分後である。


「……冬休みも終わりね。飛鳥はお正月どうだった?」


「初詣行った後は寝正月。偶に風香とデートするか、沢口と遊ぶかぐらいだったよ。毎年の通りだね。そっちは?」


「寝正月じゃなくて本を読んでいた以外は大体同じよ」


 実の所、カノジョには友人と呼べる人物が数える程しか居ない。


 私やカノジョの家族に対してはこうして様々な表情を見せ色々な事を話してくれるが、基本的に望月風香という女性は他人に対してとても冷たい反応を見せてしまう。


 空気を読んだ上で自らが正しいと思う行動のみをするのがカノジョであり、その背筋が凍るかと思える理性的な物言いから、カノジョは氷の女王と呼ばれていたのだ。


 実際に仲良くなって見れば、カノジョはとても面白く楽しい人間なのだが。


「家に帰ったらまず何をしようかしらね?」


「冷蔵庫空っぽだし、とりあえずスーパー行こうよ」


「そうね。ついでにノートも買っておきましょう。そろそろテスト期間だわ」


 カノジョと家に帰ったらする事を決めていたら電車が来たので、私達はこの鉄の車体に乗り込んだ。



 途中の駅で特急電車に乗り換えて少し、昼頃の時間帯、私達は東京のダンジョンこと新宿駅を歩いていた。


 路線を乗り換えるのに十分も歩くなど詐欺であり別の駅名とした方が良い、という取り留めの無い事をカノジョと話していた私は油断していたとしか言い様が無いだろう。


「あれ? 立花?」


 左前方から声をかけられた。誰の声かは分からない程度で聞き覚えのある声だ。


 ん? と私とカノジョが声の主を探して見るとそこに居たのは、同じデザインの茶色いPコートを着た男女の二人組みである。


 男の名前は千原、女の名前は松野であったはずだ。


〝はず〟というのも私と彼らが最後に会ったのは二年前、私が高校生であった時であり、彼らは私の同窓生なのだ。


「やっぱり立花だ。久しぶりだな。二年ぶりぐらいか?」


 私の喉が干上がっていた。


 ここで彼らに会うとは予想外だ。


 何故気を抜いてしまったのか、二分前までの自分を怒鳴りたい。


 断っておくが、別に千原と松野の事が嫌いな訳ではない。過去に私と因縁がある訳でも無い。


 彼らは学年で有名のお似合いカップルであり、とても好ましい人格を持つ二人であった。


 もし私がこの場で一人なら思い出話の一つや二つ咲かすだろう。


 だが、今私が、〝望月風香を連れた私が〟、私の〝高校時代の同級生〟と出会ってしまったという事実は最悪なのだ。


「知り合い?」


 カノジョの質問に、私は脳を搾り出し、この場を切り抜ける言葉を探すが、ついぞ見つからなかった。


 だから私は全力で口を回した。


「あ、うん。知り合い。千原と松野という昔の知り合いなんだ。千原と松野も久しぶりだな。昔と変わらず仲が良さそうで何よりだ」


「そうだね。昔も今も変わらずラブラブしてるよー」


「なー」


 松野の言葉に私はできるだけ早く返事をした。


 彼らとカノジョを会話させてはならない。


「そうか。それは何よりだ。でも、すまんな。ちょっと電車に遅れそうだから、俺達もう行くよ」


 横でカノジョが少しだけ怪訝な顔をしているが無視する。言い訳は後で考えれば良い。


「そうなのか。悪いな。引き止めて」


「いや、気にしなくて良い。また今度話そうじゃないか」


「ああ」


 彼らは嫌な顔一つせず言ったので、私は内心胸を撫で下ろしていた。


 だが、それは間違いだった。


 私は最後の最後まで気を抜くべきでは無かったのだ。


「それじゃあ、立花、彼女さんによろしく。今度A組の同窓会やるから来てな」


 千原がそう言葉を残してしまったからだ。


 彼にとっては単なる餞別の言葉であっただろう。


 彼らの視点で見るならば、今の台詞を言うのに丁度良いタイミングだったし、他意は無い筈だ。


 だが、最悪である。


 乗り換えのホームへと再び歩き出そうとした私達の足、正確にはカノジョの足がピタリと止まった。


「……A組の同窓会?」


 望月風香は疑問を放っておかない女性である。


 その困惑した声を聞いて私は失敗した事を悟った。


「あの、A組の同窓会とはどういう意味でしょうか?」


 カノジョは私より一歩前に出て、千原へと質問をした。


 質問に千原と松野は首を傾げた。


 当たり前である。彼らには何を聞かれているか分からない。


 私はこの場を取り繕う言葉を探したがそんなもの見つかるはずが無い。


 なぜならもう会話が始まってしまったからだ。


 一度始まってしまった対話は区切る事は出来ない。


 坂を転がる石が砕けるまで止まらない様に、始まってしまった会話は終着するまで紡がれる。


「私達、立花君とは高校の時同じA組だったんですよ。その同窓会です」


 カノジョは首を傾げた。


「すいません。わたしも飛鳥と同じA組だったはずなのですけれど?」


 その言葉に千原と松野は眼をパチクリとさせ決定的な言葉を言った。


「「飛鳥ってだれでしょうか?」」


 私は眼を閉じた。


 カノジョの時間が静止する。


 カノジョは今松野言った言葉の意味を理解できていないはずだ。


 瞳を開いて私はカノジョを見た。


 その顔は困惑に包まれている。


「……飛鳥は飛鳥ですよ。立花飛鳥」


 カノジョはそう私を指差すが、千原と松野は互いに眼を見合わせて、頭上に疑問符を浮べた。


 千原が彼の疑問を口にした。


「あの、間違っていたら本当に申し訳ないのですが、―――――――-」


 その言葉に


「…………………………………………え?」


 長い沈黙の後、カノジョは短く声を出した。



 ここでしばし過去話といこう。何故今こんな事に成ってしまっているのか。説明する義務が私にはあるはずだ。

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