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美少女荷物持ちの収納魔法【ナイナイ】が実は世界最凶だった件 ~魔王すら瞬殺だけど、カモミールを飲んでいたいの~  作者: 月城 友麻


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86. Locked!

 QATに「ニホン」と入力した時、「該当なし」と返されて途方に暮れた。代替候補として「ニッポン」と「ジャパン」が提示された。だから仕方なく「ニッポンの親宇宙」に来たのだ。


 それなのに。この世界のデータベースには、ちゃんと「ニホン」が存在している。


『日本はニッポンでもあります』


 コンシェルジュが補足してきた。


「ん? どっちなのよ?」


『「ニッポン」は語感が強く、勢いや熱量が出やすいです。公式にはニッポンが用いられることが多いです』


「何よそれ……」


 リーシェは渋い顔をした。


 日本はニッポンであり、ニホンでもある。同じ国の同じ文字に二つの読み方があり、どちらも正しい。そんな国がこの宇宙に存在するのか。一体どうやって使い分けているのだろうか?


 リーシェは頭を抱えて宙を仰いだ。


 憧れの国日本(ニホン)は、その呼び名からして謎が多かった。


 まぁいいわ、とリーシェは首を振った。シアンもニホンと言っていた。ニホンと呼んでおけば間違いないだろう。


 リーシェは気を取り直し、コンシェルジュへの質問を再開した。


『この宇宙の構造を教えてください』


『孫宇宙3723への行き方を教えてください』


『日本とはどのような場所ですか』


『このコロニーから他の孫宇宙に移動する手段はありますか』


 質問を重ねるたびに、この世界の輪郭が少しずつ鮮明になっていく。コンシェルジュは淡々と、だが過不足なく情報を提供してくれた。AIの性質は宇宙が違っても似たようなものらしい。


 リーシェは裏庭の物陰でタブレット端末の光に照らされながら、日本へ行く算段を組み立てていった。


 孫宇宙ナンバー3723。日本。ニホン。


 シアンが見せた熱狂の国。あの重低音と絶叫が生まれた場所。レテの五千年の音楽が辿り着けなかった場所。


 もうすぐだ。


 リーシェはタブレット端末の画面を見つめた。そこには、あの楽曲のサムネイルが表示されている。ステージに立つ人間たちの姿。光と音に酔いしれる、数万人の影。


 あの世界が、もうすぐ手の届くところにある。


 リーシェは端末をぎゅっと握りしめ、その小さな画面の向こうに広がる未知の国を思い描いた。


 その時だった――。


 タブレット端末の画面が、一瞬だけ暗転した。


 ――え?


 次の瞬間、赤い文字が画面いっぱいに踊り出す。


 『Locked!』


 画面全体が赤く染まり、その上に白い文字で警告メッセージが次々と表示されていく。生体チップの翻訳が追いつくより先に、リーシェは直感で悟った。


 タブレットが、ロックされた。


 タップしても反応しない。スワイプしても無反応。画面はただ真っ赤に「Locked!」を繰り返すばかりで、一切の操作を受け付けなくなっていた。


「ヤバい……バレたんだわ……!」


 遠隔からの強制ロック。この端末の持ち主――あの女の子か、その親かが、端末の紛失に気づいて追跡をかけたのだ。この世界の技術なら、端末の位置情報も丸見えだろう。


 リーシェの全身に冷たい汗が走った瞬間だった。



 ウゥゥゥゥゥ――――。



 サイレンが、鳴った。


 低く、重く、コロニー全体を震わせるように響き渡る警報音。円筒形の空間の中を音が反響し、原生林の奥からも、居住区からも、はるか頭上の反対側の大地からも、同じサイレンの音がこだましている。


 リーシェは顔から血の気が引くのを感じた。


 たかが端末一つの盗難で、コロニー全体に警報?


 ――違う。


 ここは普通の集落ではないのだ。この宇宙の女神の膝元。神殿のある最も聖なる地。そこで盗難が発生したということは、この世界にとっては一大事なのだ。侵入者がいるかもしれない。テロリストかもしれない。そう判断されてもおかしくない。


 実際、その判断は正しい。リーシェは紛れもなく外部からの侵入者なのだから。


「ただ、音楽を聴きに来ただけなのにぃぃぃ」


 リーシェは口を尖らせ、ロックされたタブレットを茂みに突っ込む。


「早く日本へ飛ばなきゃ……!」


 さっき画面に表示されていた地図の記憶を頼りに、上を見上げる。湾曲したコロニーの内壁が、森と建物を載せて緩やかに上空へとつながっていく。その景色の中に――あった。


 左上、奥の方。


 不思議な純白の卵型の施設が見えた。つるんとした曲面が周囲の角張った建築群の中で異彩を放っている。コンシェルジュの説明にあった、転送施設。あそこから孫宇宙への転送が可能だという。


 あそこしかない。あそこから日本へ飛ぶ以外に道はない。


 リーシェはすぐさま駆け出した。



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