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美少女荷物持ちの収納魔法【ナイナイ】が実は世界最凶だった件 ~魔王すら瞬殺だけど、カモミールを飲んでいたいの~  作者: 月城 友麻


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57. 特別顧問就任式

「嫌なら契約してくださいよ。私もそんなことしたくないので」


 リーシェは肩をすくめた。


「王国にとってもメリットは大きい契約ですよ? ワイバーンを倒した魔法使いが魔導院の顧問になる。対外的にはかなりの戦力アップをアピールできるわけで、安全保障上もプラスです。肩書き一つ私に付けるだけで国の威信が上がる。悪い話じゃないでしょう?」


 正論だった。


 感情を排した、純粋な正論。


 国王も宰相も、それはわかっている。だが、リーシェへの命令権限があるとないとでは大違いなのだ。


 命令できればそれこそ大陸統一ですら現実味を帯びてくるが、命令権が無いのであれば、ただの威嚇にしか使えない。いざという時に使えない張り子のトラは諸刃の剣でもあるのだ。


 それに、交渉ではなく脅迫で結ばされることに抵抗があった。国家の最高権力者が十八歳の少女に膝を折らされようとしている。王宮の地下室で。逃げ場もなく。それはとてつもなく屈辱的なことだった。


「うむむむ……」「くぅぅぅ……」


 国王は宰相と顔を見合わせた。


 だが、宰相は目を閉じ、ゆっくりと首を振る。打つ手がないと告げるように。


 国王の肩が、落ちた。


 国王の白髪交じりの頭が、うなだれるように沈んでいく。王としての威厳が、蝋燭の灯りの中で静かに萎んでいった。


「……分かった」


 国王は呟いた。


「契約を……結ぼう」


 その声には、もう怒りも矜持もなかった。ただ、疲弊した一人の男の、諦めの声だけがあった。


 リーシェは無表情のまま、小さく頷いた。


 静かに暮らすための契約。それがこんな形でしか手に入らないことに、リーシェはウンザリしていた。


 しかし、これで念願の静かな暮らしが手に入る。国公認で、お金の心配もなく、誰に邪魔されることもなく心休まる暮らし――。


 蝋燭の灯りが揺れている。


 地下の緊急執務室に、長い影が伸びていた。



     ◇



 契約の魔法陣が、緊急執務室の床に淡い光を描いた。


 リーシェと国王の血判。宰相の署名。三者の魔力が契約の術式に注ぎ込まれ、羊皮紙の文面が金色に輝く。


 七つの条項が一つずつ確定していき、最後の一文字が光を帯びた瞬間、契約は成立した。


 破れば、国庫から自動的に膨大な違約金がリーシェの口座に送金される。口座は大陸をまたにかける商会の管理下なので、王国と言えど奪取できない。


 こうしてリーシェは、静かに暮らすための(いかり)をようやく王国におろすことができたのだった。



         ◇



 中庭を見下ろす王宮のテラスに、リーシェは立っていた。


 午後の陽射しが白い石壁に反射し、テラスの手すりに温もりを落としている。眼下には広大な中庭。整えられた芝生と、噴水と、植え込みの薔薇。それらが午後の光の中で穏やかに輝いていた。


 リーシェは中庭に向けて、右手を伸ばす――。


「出ろ」


 小さな声だった。けれどその一言で、中庭の景色が一変した。


 虚空から、人が現れた。


 十人、二十人、次々と。テラスの下の芝生の上に、黒装束の男たちが。銀の鎧を纏った騎士たちが。魔導院のローブを着た魔法使いたちが。時を止められていた者たちが、一斉に解放されていく。


 立ったまま凍りついていた者は、そのまま足元がよろめいて芝生に膝をついた。剣を構えていた者は、構えた姿勢のまま虚空を斬った。走っていた者は、慣性のまま数歩よろめいて転んだ。


「え?」


「あれ?」


「なにこれ……」


 一様に、何が起こったのかわからない様子だった。


 ついさっきまで戦場にいたはずだ。廊下で槍を構えていた。城壁の上で魔法陣を展開していた。会議室の壁の裏で突入の合図を待っていた。なのに気がつけば、王宮の中庭の芝生の上にいる。空は午後の色をしていて、噴水がさらさらと音を立てていて、薔薇の甘い香りが漂っている。


 まるで、悪い夢から覚めたかのように。


 ガルドとその手下たちだけは、既に別枠で鉄格子の檻の中に出してある。ガルドは檻の中で白と青の腕章を握りしめたまま、目を白黒させていた。あの男の処遇は、王国の司法に委ねる。契約の第三条。厳罰である。ざまぁ。


 全員が解放されると、続いてぞろぞろと王宮の職員たちが建物から出てくる。みんな一様にこの摩訶不思議な事態に怪訝そうな表情をして、ざわめいていた。


「はい! これより特別顧問就任式を執り行う。静粛に!」


 リーシェの横に立った宰相グレンヴァルが、声を張り上げた。老齢とは思えない通る声が、中庭に響き渡る。


 ざわめきが収まり、数百人の目が一斉にテラスを見上げた。


「今日より、こちらのリーシェ殿が、魔導院の特別顧問に就任された」


 宰相の声は平坦だった。感情を徹底的に排した、公式発表の声。だがそのほほの筋肉がピクピクっと引き攣ったのを、リーシェは見逃さなかった。忸怩(じくじ)たる思いがあるのだろう。とはいえ、リーシェも引くわけにはいかないのだから、そこは飲んでもらうしかない。


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