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美少女荷物持ちの収納魔法【ナイナイ】が実は世界最凶だった件 ~魔王すら瞬殺だけど、カモミールを飲んでいたいの~  作者: 月城 友麻


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55. プロトコル・チャーリー

「ナイナイ」


 レオルドが消えた。


 魔道具を握りしめたまま。蒼白の顔のまま。


 会議室に、静寂が降りた。


『キャハッ! ざっまぁ!』


 リリカは嬉しそうに笑っている。


 リーシェは奥にある扉に向かって声を張った。


「宰相様、出てきてください」


 沈黙。


 長い沈黙の後、奥の扉がゆっくりと開いた。


 宰相グレンヴァルが現れた。深い皺の刻まれた顔は、渋いどころか苦虫を百匹ほど噛み潰したような表情だった。


「なぜ……。なぜ分かった」


 宰相が低い声で訊いた。


「そんなの秘密です」


 リーシェは素っ気なく答えた。


「それより、契約をしてください。条件は既にお伝えした通りです」


 宰相がリーシェを睨んだ。その目には、怒りと屈辱と、そしてかすかな恐怖が混じっていた。


 飛んで火にいる夏の虫と、幾多の罠を張ったにもかかわらず、すべて失敗。ただの小娘と侮っていたらあっという間に土俵際まで押し込まれてしまった。


「……収納された者たちは、返してくれるんだろうな」


「契約してくれれば解放します」


 リーシェは淡々と答えた。


 宰相は口をキュッと引き結び、しばらくリーシェの瞳をにらむ――。


「……分かった。だが、契約は陛下のご裁可を経なければならん。この場では――」


 リーシェは首を振りため息をついた。


「じゃあ、陛下のところへ行ってきます」


「な……なんだと! やめろ!」


「ナイナイ」


 宰相が消えた。


『イェイッ! やったやった!』


 リリカは手を叩いて笑っている。彼女なりに何か積もるものがあったのだろう。


 奥の部屋で遠見鏡ごしに見ていた参謀総長カーティスは「プロトコル・チャーリー! プロトコル・チャーリー!」と、叫びながらさらに奥へと逃げ出していった。


 はぁぁぁ……。


 リーシェは大きくため息をつく。本当に心の底からの、疲れたため息だった。


 結局国王のところまで行ってサインさせないとならないのだ。


 なんと面倒くさい事か。


「タルいわ……」


 リーシェは宙を仰いだ。



     ◇



 リーシェは会議室を出て、廊下に足を踏み出した。


「キャァァァァ!!」


 廊下で様子を窺っていた侍女たちが、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。スカートの裾を掴んで走る者、靴を脱ぎ捨てて裸足で駆ける者。


 いまだに『低ランク冒険者』気分の抜けないリーシェにとって、ここまで恐れられることはどこか現実感を欠いて映る。ただの収納魔法が使えるだけなのに、どうしてここまで大ごとになるのか本人には全くピンとこないのだ。


「そんなに嫌わなくても……はぁぁぁ……」


 リーシェはため息を漏らしながら、真っ直ぐ廊下の奥へ歩いた。


 あちこち王宮全体が大騒動になっている。


『いいねいいね! 盛り上がって来たぁ!』


 他人事のようにはしゃいでいるリリカの声にちょっとイラっとしながら、リーシェは淡々と歩いていく。


 階段の上から、重い足音。金属の鳴る音。怒号。


「姐さん、マズいっす! なんか来ますよぉ!」


 真っ青な顔したトトがリーシェの腕にしがみつく。


「しっかりしなさい! あなたも収納しようか?」


 ジト目でトトをにらんだ。


「い、いや、た、盾になってでも姐さんを守るっす!」


 トトは泣きそうな顔で頑張って胸を張る。


『きたよ! 階段から兵士が八!』


 階段から王国兵の一隊が駆け降りてきた。完全武装。槍と盾。先頭の兵士がリーシェを視認した瞬間――。


「ナイナイ」


 リーシェは顔色一つ変えなかった。


 人の気配が消えた。足音が消えた。金属音が消えた。残ったのは、空の階段と、壁に掛けられた絵画と、窓から差し込む午後の光だけ。


『キャハッ! おんもしろーーい!』


 リリカが脳内で大笑いしている。


「笑ってないで。国王はどこよ」


『んー、地下ね。緊急執務室ってやつがあるわ。突き当たりの壁をくりぬいてごらん。そこに隠し階段があるから』


 リーシェは無言で廊下を進んだ。トトが背中にくっつくようにして続く。


『左! 来るよ!』


 左の扉がいきなり開いて騎士が飛び出し――。


「ナイナイ」


 消えた。


『右! 待ち伏せ!』


 右の通路から兵士が槍を突き出そうとする――。


「ナイナイ」


 消えた。


「止めろ! 絶対止めろ! 死んでも止めろ!!」


 どこかで参謀総長の喚く声が響いている。


 しかし、リーシェはどこ吹く風。淡々と廊下を進む。


 そんな姿にリリカは手を叩いて笑う。


『キャハッ! あんた最高だね!』


「姐さん! 後ろぉぉぉ!」


 背後から弓兵が矢を番えた。


「ナイナイ」


 消えた。


 リリカが偵察し、トトが死角をチェックし、リーシェが消す。たったそれだけの単純な連携が、王宮の防衛線を紙のように引き裂いていく。どれほどの兵を配置しても、どれほどの罠を仕掛けても、足止め一つできなかった。


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