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美少女荷物持ちの収納魔法【ナイナイ】が実は世界最凶だった件 ~魔王すら瞬殺だけど、カモミールを飲んでいたいの~  作者: 月城 友麻


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100/119

100.平社員を演じる社長

「そ、そ、そうよ。訓練だわ」


 黒髪の少女が慌てて剣を鞘に収めた。


「私たちは何も……見てない」


 銀髪の少女が髪をかき上げた。


「『渋谷にて実地訓練』って日報に書けば終わりね」


 赤毛の少女がにっこりと笑った。


「では、そういうことで……ふふっ」


 金髪の少女はにこりと笑い、くるりと身を翻して夕暮れの空に飛び立った。光の翼が夕焼けを受けて金色に輝いている。


 三人もそれに続いた。金、黒、銀、赤。四つの輝きが渋谷の空を横切り、夕焼けの彼方へと消えていく。


 後には、何も残らなかった。


 ビルの屋上に夕風が吹き、リーシェがそこにいた痕跡を攫っていく。渋谷の街は何事もなかったように夜へと向かい、スクランブル交差点には何事もなかったように人の波が戻っていた。


 ただ一つ。


 数ブロック先の路地裏で、ピンクの髪の少女が、両手いっぱいの金貨を握りしめたまま、立ち尽くしていた。


 リーシェを思い出し、空を見上げて。


 いつまでも――。



        ◇



「どう? 思い出した?」


 青髪の熾天使(セラフ)は、腕を組んだまま不敵な笑みを浮かべていた。碧い瞳が夕暮れの光を受けて、猫のように細められている。


 思い出した。


 全てを。


 桃色の空のレテS。演奏室のグランドピアノ。シアンの来訪。ライブハウスの熱狂。カルヴィンおじさまの渋い顔。コロニーの池。渋谷への墜落。サラとのカラオケ――。


 そして――天使の剣に魂を切り裂かれた、あの瞬間。


 リーシェとリリカは見つめ合った。


 二人の指が、自然に絡み合っていた。


 同じ魂から生まれた、二つの断片。一年以上も別々の身体で、別々の人生を歩んできた。リーシェは記憶と感情を失い、「タルい」と呟き続ける無気力な少女になった。リリカは異常な魔力を得て、首席賢者の座に就いた。


 同じ魂なのに、こんなにも違う道を歩いた。


 はるばる宇宙を渡ってきて、異世界に憧れ、友を作り、歌を歌い、そして切り裂かれ、また巡り合っていた。それも本気で戦い、仲間になっていた。その数奇な運命に、お互い何と言葉をかければいいのか分からない。ただ指を絡ませることしかできなかった。


 リーシェはゆっくりとシアンを見上げた。


 碧い瞳が、変わらず笑っている。一年前と同じ笑み。あの時レテSの邸宅に現れた時と同じ、全てを見透かしたような、底知れない笑み。


「帰して……帰してください。レテへ……」


 声が、掠れていた。


「はーはっはっは!」


 シアンが声を上げて笑った。六枚の翼がふわりと広がり、光の粒子が夕暮れの空に舞い散る。


「勝手にやってきた不法侵入者を、なぜ帰さねばならないのかしら?」


 意地悪く、冷酷に、突き放す。碧い瞳に同情の欠片もない。


「あなたが『来てごらん!』って挑発したんじゃないですか!」


 リーシェはバッと立ち上がった。リリカの手を振り解き、シアンに詰め寄る。黒い瞳が怒りで燃えている。


「挑発? そんなことしたかしら?」


 シアンは小首をかしげた。わざとらしく、芝居がかった仕草で。


「あなたにはすべて分かっていたはず。こうなることまで……そうでしょ?」


 リーシェは食い下がる。


「ふふふっ。もし――そうでも、『はいそうですか』なんて帰すわけないじゃない。ボクにも熾天使(セラフ)としての使命があるんだから」


 リーシェは眉をひそめる。


 熾天使(セラフ)としての使命。その言葉が、引っかかった。


「な、なんで……熾天使(セラフ)なんてやってるんですか?」


 リーシェは首をかしげた。


 シアンの正体は神宮書記官(メタトロン)だ。宇宙のアカシックレコードを管理する上位存在。全ての女神の上に立つ者。その神宮書記官(メタトロン)が、なぜ管理先の女神の部下――熾天使(セラフ)などという役職に就いているのか。社長が自分の会社の平社員を演じているようなものだ。意味が分からない。


「んー、それは話すと長くなるからねぇ……」


 シアンが言葉を濁した。碧い瞳がわずかに揺れたのを、リリカは見逃さなかった。


「いいわ。じゃあ女神のところにでも連れてってよ! 全部話してやるんだから」


 リリカが杖を握りしめたまま、一歩前に出た。緋色の瞳が挑戦的に輝いている。首席賢者の貫禄が、その小さな身体から滲み出ていた。


「あんたが神宮書記官(メタトロン)だってことも、私たちを挑発したことも、全部ぶちまけてやるわ」


「あんたねぇ……」


 シアンが眉をひそめた。


 ほんの一瞬。あの余裕の笑みに、かすかな翳りが差した。


 リーシェはその変化を見逃さなかった。心臓が高鳴る。突くとしたら、もうこの一点しか残っていない。


「私はあなたに言われて来たのよ?」


 リーシェは声に力を込めた。



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