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せっかく作り上げた魔物は、直ぐにやられてしまった。前回までの自分の力を考えると、今の自分は、生身の分弱くなっている。改めて分かった事実に、少年は端正な顔を歪めた。
「お疲れさま。フェリオくん」
「アリス」
その上、頑張りを無駄にした男は女と仲良さそうに話している。舌を鳴らすと、姿を消して、少年は木の上に飛んでいった。
遠くから何度か観察しているが、このフェリオという男は、勘が鋭くって厄介だ。姿を消していても気配で察知出来るのか、時折こちらを振り向いてひやひやする。
もし捕まってしまったら、この体では直ぐに負けるだろう。息を殺すと、少年は二人の会話に聞き耳を立てた。
「ごめんね。せっかくフィズちゃんとデートだったのに」
「まあ、機会くらいまた作るからいいよ。あいつは森にいるんだろ? 問題が解決するまでは仕方ない」
ちっとも良さそうに見えない顔で、それでもフェリオは笑みを零した。
兄妹揃ってお優しいことだ。似ている兄妹を、少年は鼻で笑い飛ばす。
そういう優しさは身を滅ぼすのだ。そう教えてやりたくなった。
「それで、なんか分かったか?」
「うん。まあ、たぶん……」
「なんだよ、歯切れ悪いな」
アリスと呼ばれた女は、大して良くもない顔を歪めると、フェリオを上目遣いに見上げる。
女は嫌いだ。その中でも、この女は、とびきり好きじゃなかった。魔物をきらきらした目で見て、その癖遠くからしか観察することがない。自分は安全なところにいて甘い汁を啜っているところがあの女と同じようでイライラした。
「ここまで出てきた魔物をざっと調べてみたの。動物や虫、そういう、現実に似た形の魔物が基本よね」
指折り数えると、アリスは順に話し始めた。
今まで森に出た種類は、リスや鹿、大型だと、熊に似た魔物が出ていたと。
森に関しては、結界が張ってあって、少年は入れないので知らなかったが、そこにいる動物を使ったらそうなるのだろう。
「対して、市街地に出た魔物は、犬や猫。それから、ハエとかそういう虫が多い」
「場所によって出てくる魔物が違うのか」
「そう。その場所にいるものが出てきてるの。今まで私達は、魔物が増えてきて森で抑えきれなくなると市街地にも出てくるって思ってたけど、それは間違っているんじゃないかしら」
「その場で魔物が出来てるってことか?」
「そうそう。市街地にしかいない生き物の魔物がいるってことは、そういうことだと思うのよね」
気付かれた。内心で舌打ちして、アリスを睨みつける。頭がいいところもあの女に似ていてますます腹が立つ。
アリスが気付いた通り、魔物は、魔物の元になるものが必要だった。
まず、動植物に、その生き物が持てる以上の魔力をありったけ流す。
そうすると抑えきれない魔力が瘴気となって体を蝕むようで、堪えきれなくって暴れ出す。たったこれだけだ。
人間を魔物にするのは、まだ少年が今の体に慣れていなくて無理だが、これは人体にも有効だ。
勇者が魔石と呼んでいるのは、ただの魔力の塊だ。小さな体にありったけの魔力を流すので、固まってしまっているだけで。
魔力の流れは、よほどの人間でないと視認できないから、魔石は勇者にしか見えないはずだが、時折何となく感じ取れるやつがいる。
フェリオは、どちらだろうか。
話しぶりから察するに、彼が勇者か、その感じ取れるような人間が、傍にもう一人いるようだ。
アリスの話は続く。
「どうやって魔物が出来ているのか。それは自然なことなのか、それとも人為的なことなのか……そういう話になってくるわ。自然に出来ているならいいけれど、人為的になってくると、状況が複雑になってくる」
(……あの二人、邪魔だなあ。メディアのせいかなんか知らないけど、森にも入れないし)
ほとんど正解を言うアリスに、少年は嘆息を吐いた。
前々回だったか、資料や魔法使い達の住処は「魔女狩り」のせいで全て燃やされてしまった。だからまだたどり着いてはいないようだが、彼らが自分を見つけるのは、時間の問題だろう。
その前に、彼らが動けなくなるような作戦を立てなければならない。
お優しいようだから、人質が良いだろうか。そうなると、妹?
なんとなく思っていたことに結論を出して、少年は学園のことを考え、同時に黒髪の友達について思い出す。
(そういえば、リュウホ、弟妹と楽しんでるかな)
彼を見ていると、親友との楽しかった出来事を思い出す。小さいという弟妹も見たかった。親友の家族には、結局会えなかったから。
口角を緩めたが、直ぐに歯を食いしばる。
少年の親友は、この国のせいで亡くなった。なのに、それを忘れて栄え、楽しそうに笑っているやつらが許せない。
「──それで、レオーネのプレゼントは買えたの?」
ふと聞こえた声に意識を戻す。真面目な話はもう終わったようで、フェリオとアリスは、レオーネという人物について談笑している。
「ちゃんとまともな物にした?」
「そんなに気になるんなら、お前も来ればよかったのに。レオだって喜ぶと思うけど?」
「フィズちゃんに悪いでしょ?」
「……レオーネ……レオ……?」
どこかで聞いたことがある気がする名前に、記憶をさらってみるが、思い出せない。
だけど、そのレオーネは、二人の共通の知り合いなのだろう。それに、プレゼントを贈るような仲なのだ。そこそこ親しいだろう。
フィズに接触して、レオーネという人物も捜してみる。今後の予定を立てながら、少年──ルークは、ゆったりと口角を上げた。




