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下唇を突き出して不満を表すと、リュウホは仕方ないなぁとでもいうように笑って、それからチェルシーに向き合う。
「好きな人出来たって、それどんな人なノ? 森の人じゃないよネ?」
ロイの交友関係は狭い。最近は市街地にもよく魔物が出てくるので、色んな人を助けるようになったみたいだが、交流は少ないみたいだ。だからどういう経緯でその人と知り合ったのか、フィズも気になった。
「森で魔物や勇者の研究を始めた、凄い魔法使いだよ」
チェルシーは再び沈んでしまった。がっくり肩を落とすと、地面に円を描き始める。
外部から人を連れてきたのか。チェルシーの住んでいる場所は閉鎖的な空間だから、なんか不思議な気分だ。その疑問が伝わったのか、チェルシーが説明をしてくれる。
「フェリオさんが推薦して連れて来たんだ。フェリオさん、外部の人だけど信頼されてるし、魔法使いのお姉さんも大人しい人だから、特に住民トラブルもないよ」
まさか友人の恋バナに、自分の兄が関わっていているとは思わなかった。驚いてソーセージを喉に詰まらせてしまった。げほげほと咳き込むと、チェルシーは慌てて水を差し出してくる。
それを受け取って飲み干すと、おそらく同じことを考えているリュウホが苦い顔を向けてきた。フィズは痛む頭を押さえた。
フェリオが推薦して連れてきた、魔法使いのお姉さん。前回兄に会った時のことを思い出すと、心当たりのある人が一人いる。
「……その人の名前って、コニーだったりする?」
まさかこんな形で彼女の名前を口に出すとは思わなかった。肯定が返ってきて、フィズは思わずため息を吐く。
いったいあの兄は何をやってくれているんだ。
(まあ、でも、コニーって、魔物大好きだもんな……)
友達ならそういう辺りの事情も分かっているだろう。それに、増えてきた魔物に対処する為だ。背に腹は代えられないか。そう纏めて、でも抑えきれないものを天に向かって吐き出す。
「コニーさんのこと知ってるの?」
「ほら。例のレオくんの元カノの」
一ヶ月程前、コニーはフィズの留守中にレオーネを尋ねてきて、悪意を持って魔法を使った。その前にも、フィズのことを調べたり、そもそもレオーネを束縛して監禁したとか言っていたし、正直あまり聞きたくない名前だ。
「え、あの人が?」
フィズの情報に目を瞠ると、チェルシーは考え込んだ。
「なんか……普通にいい人だと思うんだけど」
「……まあ確かにね」
信じられない様子のチェルシーに、なんとも言えず、フィズはとりあえず同意した。
「あたし、二回も助けてもらったし……」
彼女の境遇に同情は出来るし、助けてくれたのも本当のことだ。話すのも楽しかった。
「エー」
フィズの気持ちを代弁するように、リュウホは声をあげた。
「助けたのって、結局利用するためだったんだよネ? その認識でいいノ?」
「……まあ、ショックではあったけど、助けられたのは変わらないしなあって思って」
本当はちょっと強がっているが。
「それにね、なんか、レオくんが横で死にそうな顔するから、どうでも良くなっちゃった」
これは本当だ。彼の悲痛な表情を思い出し、頬を緩める。されたことに関しては、理由もハッキリしたし、もう気にしていない。
しかし、また関わり合いに──それも友達が──なる思うと警戒してしまうのも事実だった。まあ、フェリオがいるから心配する必要はないかもしれないが、チェルシーは被害を被っているわけだし……そういえばあの人、恋愛関連のトラブルが多いな。唐突に気づいて、フィズの表情は苦笑いに変わっていった。
「フーン……あのお姉さん、ボクはあんまし好きじゃないカナ。二人と違って良いところを見てないからネ。なんか可哀想ダナとは思うケド」
相変わらずバッサリいく人だ。でも、これだけはっきり言われると、わだかまりは小さくなった。
「それは人それぞれだし仕方ないよ。あたしも、別に好きだってわけじゃないかな」
「そうなんだ……」
しかし、おそらく好感を抱いていたのであろうチェルシーは、コニーの評判に眉を下げる。
「うーん、なんかショックだな……大人の女って感じに思ってたし……そうか、恋に生きる人だったのか……」
「まあ、もう過ぎたことだし……」
慌ててフォローを入れる。これで見る目の変わったチェルシーが態度が変わりでもしたら、傷ついたコニーがどういう行動に出るか、予測がつかない。
フィズの言葉にチェルシーは苦笑した。
「大丈夫だよ。さすがに、露骨に態度変えたりしないから」
「うん、よかった」
大人な発言に、フィズは笑いながら、内心驚いた。彼女は友達思いで、他人のことでも自分のことのように泣いたり怒ったりする。今回も、コニーに対して怒るかなと思ったのだ。
「……チェルシーちゃんって、相手の女の人に嫉妬しないよネ」
同じようなことを思ったのか、リュウホがチェルシーの顔を覗き込んだ。
そういえば、そうである。ロイがフィズに嫉妬したり、コニーがレオーネを束縛しようとしたり。恋愛というものは、思い人と異性が親しくしているのは、妬ましいものなんじゃないのか?
「え、だって申し訳ないし……そりゃ、ちょっと羨ましいなとは思うけど」
なるほど、表に出さないように我慢しているらしい。彼女の場合、押さえた感情が若干ロイに向きすぎな気はするが、偉い。フィズは心の中でチェルシーに拍手を送った。
「それに、ロイって相手にされてないことが多いんだよね……積極的なわけでもないし」
「アア……なんか話聞く限りだと無理めな層を好きになってるネ」
リュウホが肯いて、フィズに衝撃が走った。無理めな層というのはつまり、振り向いてもらえない人の層ってことだろうか……?
「そう。いつも脈なしなんだよね」
脈が……ない……!?
フィズの頭に救急搬送されるロイが浮かんだが、いやいやと首を振る。この単語は知っている。ドラマの会話を思い出しながら、フィズは自分の考えを追い出した。
「……そういうのよく分かるね」
恋バナに花を咲かせる二人についていけず、感想を零す。リュウホはけたけたと笑った。
「フィズちゃんは鈍いもんネ」
誠に遺憾である。むくれるフィズを尻目に、チェルシーは笑顔でリュウホに同意する。
「ねー」
「チェルシーちゃんもダヨ」
「あれぇ!? 今仲間の流れじゃなかった!?」
突然の裏切りにチェルシーが叫んだのとほぼ同時、突然スマホの着信音が流れ始めた。フィズは教室に置いてきたので、二人のどちらかだ。
「マァ」
着信に反応したリュウホが、話をしながらスマホを取り出す。画面をチラリと見て、それから切ってしまった。
「他人のことだからって言うのはネ」
驚いたフィズとチェルシーは動きを止めたが、再度かかってくる。リュウホは、今度は画面を見ずに通話終了ボタンを連打した。
「あるかもネ」
電話はめげずにかかってくる。リュウホは目尻を上げて笑うと、とうとう電源ボタンを長押しして、切ってしまった。




