第63話 アスティナの後日談・イエンサードがやばい
イエンサード国。この日、国王ラターシュは、謁見の間にてアスティナを迎えることになる。
偉大な英雄の帰還と世界の平和に、国民は盛大に称えていたが、ラターシュとしては懸念もあった。
――ラングリードが巨大になりすぎている。
魔王がいなくなった現状、各国は内政と領土拡大に力を入れるだろう。いかに友好国といえど、パワーバランスが崩れるのは避けたい。相手の出方次第では、関係の見直しも必要となってくる。
とりあえずは、アスティナの報告を聞いてからだと思った。
若き国王ラターシュは、玉座から尊大な言葉を贈る。
「イエンサードの偉大なる英雄アスティナよ。大儀であった。面を上げよ」
「はっ」
「大魔道士リオンの娘に相応しい活躍であったな。よくぞ、魔王ゲルギオラスを倒してくれた。これで世界は平和になるであろう」
「いえ、魔王を倒したのは魔人ヴァルディスです」
「……そうであったな。しかし、その魔人ヴァルディスを倒したのは、アスティナたち勇者パーティの功績であろう」
「はい。……ただ、そのヴァルディスというのは、その後ラングリードに住み着き、悠々自適な生活を送っております」
――ん? どういうこと?
魔王ゲルギオラスを倒したのがヴァルディスだよね? ヴァルディスは魔人で魔王以上の脅威だよね? で、ヴァルディスを倒したのが勇者ベイル御一行だよね? そのヴァルディスがラングリードで暮らしているの?
「……どうなっているのだ?」
「魔人ヴァルディスとは和解し、恩赦によってラングリードの市民となりました」
「……そうなの?」
よくもまあ、人間を滅ぼそうとした魔人と一緒に暮らせるものだ。っていうか、イエンサードを散々追い詰めた暗略のプリメーラも雇っているという。さらには天計のウルフィとかいう奴もいるし、変幻のトーレスまでもが受け入れられているという。
――謎だ。
元魔王軍の連中と仲良くなるなど、やはりラングリードは侮れぬ存在だと、ラターシュは思った。
というか、この時点で魔王軍以上の戦力を誇っているような気がする。
というか、ラングリードって魔王軍と繋がっていたのではないかと不安になるほどだ。
「魔王がいなくなったとは言いえ、我々には国民の平和を長きに守るという使命が残っている。ゆえに、未来についても考えていかねばならぬ。聞かせてくれ、アスティナ。ラングリードの思惑を。そして、我らが進むべき未来を――」
「はい、それではまずコレを」
アスティナが合図をすると、扉の方から召使いが大勢現れる。それらは、滑車を使い、次々に物資を運び込んでくる。それらはやがて玉座の間を埋め尽くした。
「……これはなんだ、アスティナ」
「お土産でございます」
「お土産……だと?」
ラターシュは、ひとつを取り上げる。綺麗に包まれた包装紙をビリビリと破り、中身を確認してみると、まんじゅうが現れた。
「ラングリード名物の温泉まんじゅうでございます。ラングリードの女王陛下が、国王陛下のみならず、民の分まで用意してくださいました」
「た、民の分まで……? いったいどれほどの量を――」
「400万箱です」
「よ、よんひゃくまんッ!?」
赤ちゃんからお年寄りまで、1箱ずつ配ったとしても余る。
戦後復興期間であるこの時期に、これほどの物量をポンと持たせるなど、なんという財力だ。
――否。この土産には意味がある。
箱の中には、ラングリードとホーリーヘッド温泉街のパンフレットが入っている。これを見た民は、絶対に行ってみたくなるだろう。このお土産は、一種のプロモーション。宣伝を兼ねているのである。
ラターシュは、試しにひとつ食べてみる。
「……甘い。しかし美味い」
「砂糖を多く使っているそうです」
砂糖を多めにすることで、旅の途中に食べたりして、栄養補給をすることができる。また、賞味期限も長いので、お土産にも最適。
――それだけではない。
戦争の際には保存食として兵士に持たせることもできる。ラングリード王家の焼き印も入っているので、コレを見て士気を維持することも可能。故郷を思い出すこともできる。
「……なんという計算された特産品なのだ」
「あと、水も……ぜひ、陛下に飲んでいただきたいと」
今度は瓶詰めされた水が運び込まれてくる。
「ラングリードは水も売っているのか?」
「はい。ホーリーヘッドの雪解け水は、不純物がなくとても飲みやすい軟水となっております」
水を販売すると言うことは、思いのほか凄いことである。水というのは、ほぼ無限資源だ。それをブランド化して販売するだけでお金を稼げるとなると、ラングリードの経済は飛躍的に上昇する。
――予想以上に、ラングリードの国力が上がっている。これはマズい。
戦争の終わった今、経済力が物を言う世界。このまま放っておけば、ラングリードの覇権が見えてくる。勇者ベイルという最強戦力のみならず、資金面でも充実しているとは、恐るべしラングリード。
「経済力において、ラングリードに勝る国はないようだな。我々も負けてはおれぬ。わかるな、アスティナ?」
「張り合う必要はないかと」
「否、友好国とはいえ、文化も宗教も違う。わずかな利害関係が戦争を生むこともある。奴らが戦力をととのえる前に、こちらも早急に戦力を用意し、備えねばならぬ」
「しかし、ラングリードは、すでに戦力も充実しております」
「なん……だと……?」
「フランシェが『サウナ騎士団』を設立しました。これによって、町の治安と戦力が飛躍的に向上しております」
「……ナニソレ」
サウナ騎士団とは、ベイルほどではないが、ととのうと強くなる才能を持った連中だ。それらは無類のサウナ好き。どのタイミングで戦争を仕掛けても、必ず誰かがサウナに入っているので、すぐさま参戦できる状態にある。
「また、他国からの旅行者が、そのままラングリードに永住してしまうことも多く、人口も爆発的に増えています。すでに、ラングリードの噂を聞きつけた民が、旅行計画を立てています。ツアーも組まれているようです。私も、あと少しで永住してしまうところでした」
うん、かなりマズい状況だった。民の流出が止まらない。というか、英雄の流出だってありえるのかよ。
「……どうすればいいのだ?」
「策はあります」
「ほう」
さすがは英雄アスティナ。ただただ客将として赴いたわけではなかったか。
「聞かせてみよ」
「ラングリードとのパートナーシップを結ぶことです」
「パートナーシップ? 同盟ということか?」
サウナに絶対的な価値を見いだしているラングリードは、その質を高めるためならなんだってする。ゆえに、連中は『熱波師』が欲しいのだ。
「イエンサードには、この私がいます。優秀な熱波師を育成すれば、その人材を確保するためにラングリードは友好的な立場を築きたがります。連中のサウナ愛は、それぐらい異常です。現に、この私が移住するのなら、国が100億出すとのオファーがありました」
「ま、まさか、それを受けたのではあるまいなッ?」
「ご安心ください。保留としております」
なんというサウナ愛。というか、ヤバい。保留っていうことは、条件次第で向こう側につくって事じゃないか。うん、厳しい。いくらレジェンド級とはいえ、熱波師一人に100億を詰めるほど、この国は豊かではないのだ。
――うん、ラングリードに勝てなくね?
対立するのは愚策のような気がしてきた。
「……良くわかった。どうやら、我らがイエンサードの行く道は決まったようだな」
ラングリードを――勇者ベイルを敵に回してはいけない。奴らのサウナ経済は揺るぎないものになりつつある。ここは全力で仲良くなるのが最善だ。
「では――」
「頼むぞ、アスティナ。この国の命運はおまえにかかっている。全力を持って、イエンサードを、ラングリードのパートナーとして相応しい国にするのだ」
「はっ、おまかせください。……しかし、オファーの件はいかがしましょうか……」
「我が国は100億は出せぬ。だが、相応の地位を用意するゆえ、なにとぞこの地に留まるのだ。というか、留まってください。お願いします」




