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第51話 無限の温泉

 俺は、バージャムから魔王軍の現状を聞いた。


 魔王ゲルギオラスを倒したのは、魔人ヴァルディス。かつて、俺とメシを食ったサウナー仲間。 奴が、より強力なサウナ魔人となった。


「ヴァルディスはどこにいる?」


「わからぬ。魔王様を殺したあとは、さらなるととのいを求めて旅に出たとか」


 ――それが、コトの顛末だった。


「どうします? フランシェ様」


 メリアが尋ねた。現状、目的は果たした。というか、やるべきことがなくなった。魔王を倒すという目的は、俺以外のサウナーが終わらせてしまったのだから。


「理解しがたいですが、魔王がいなくなったことが事実なら、ここに長居する必要もありません。本国に戻り、このことを世界に報せましょう」


 まあ、これで世界は平和になったのだ。これからは魔王軍の残党狩りなどで、忙しくなるだろう。拍子抜けはしたが、世界を平和にするのは、俺じゃなくてもいい。


「――で、あんたはどうするの?」


 アスティナは、杖を向けてバージャムに問う。そういえば、こいつ熱波師の前に大魔道士だったんだ。杖を持っている姿は、意外と新鮮だ。


「おまえらは、魔王軍を滅ぼすのだろう。ならば、この俺の命も奪うのではないか?」


 切実な疑問に、フランシェが答える。


「抵抗の意思を見せないのであれば……せめて牢獄での暮らしぐらいは保証いたしましょう」


「くくっ……そうなるか。やはりそうなるか……」


 バージャムは薄い笑みを浮かべた。


「誰か、彼の拘束を」


 フランシェが指示すると、部下の者たちが縄を持ってやってくる。それを巻き付けようとしたその時、バージャムは腰の剣を抜いて、斬りつける。


「ぐわッ!」


 斬り飛ばされる兵士たち。俺たちは、すぐさま武器を持って構えた。


「抵抗する気ですかッ?」


 メリアが問うと、バージャムは落ち着きを払って言い返す。


「俺は最後の最後まで、五大魔将としての使命を果たす。勇者を抹殺する。裏切り者のヴァルディスも殺す。我が忠義、最後まで貫く!」


「あんた正気なの? この人数相手に勝てると思ってんの?」


「わかっていないようだな……おまえたちは、罠にかかったのだ」


 現在、この城に数万の魔王軍の残党が向かっているとのこと。あらかじめ、城を空にしておいて、近くに待機させていたらしい。俺たちが入城するのを見計らって、一気に包囲を始めたようだ。


「フランシェ様! 大変ですッ! 魔王軍が、この城を包囲しようとしています!」


 兵士が入ってきて、いましがたバージャムの説明した通りの報告をする。


「ッ! すぐに守りを固めてください!」


「はっ!」


 ヤバい。凄くヤバい。なにがヤバいかって、この城は守りに向いていないことだ。ついさっき、俺は城壁をぶち抜きまくってしまった。たぶんそこから魔物がなだれ込んでくる。そして――。


「ハハハハ! 勇者ベイルよ、もうととのってはいないのだろう?」


 ――そう。時間切れだ。


 バージャムの長い長い説明を聞いているうちに、すでにととのいから1時間以上が経過してしまっている。


「籠城は無駄だぞ。この城の食料はすでに持ち出してある。井戸にも毒を流してある。簡易サウナをつくることもできまい!」


 チープだが効果絶大。


 サウナがなければ、勇者の力は発動できない。


 ――そんなふうに考えていた時期が、俺にもありました。


「残念だが、浅はかにもほどがあるぜ。――メリア」


「はい!」


 メリアが剣を床へと突き立てる。


 そして、ブツブツと詠唱を始めた。いったいなにが起こるのかとバージャムは狼狽していた。


 言の葉を語り終えるメリア。


 ――すると、次の瞬間。


 謁見の間が、みるみるうちに『銭湯』へと変わっていくのだ。


「これは、空間転移ッ?」


 バージャムは、きょろきょろと周囲を見回した。ありえない状況に驚いているようだ。


「違えよ。こいつは結界だ」


 壁も床も、総タイル張り。洗い場に風呂に、サウナまで構築されていく。まさに風呂。和を用いたスタイルの大浴場だ。


「ディメンジョン・サウナ……これが、私の魔法です」


 メリアは誇らしげに笑みを浮かべるのだった。


     ☆


 ――ようやく、ベイルくんの役に立てる時がきた。


 結界師メリア。

 偉大なる母シノン・グラタニアほどの才能はないとされてきた落ちこぼれだった。だが、それは活躍できる場がないからだ。


 ある一定の状況において、彼女は非常に有益な結界を張り巡らせることができる。固有の才能。固有の結界。それは、無限の温泉を創造するに至る。


 温泉地であるラングリードでは、結界内に仮想サウナをつくる能力は意味を成さない。ベイルのように防衛に重きを置いている戦闘スタイルにも必要がない。


 しかし、此度は違った。遠征という特殊環境では、メリアの結界ほど心強いものはなかった。勇者のパートナーに相応しき能力だった。


 ――自分たちに有利な空間を構成し、そこに対象を閉じ込める。その一点において、メリアの右に出る人間はいない。


「ベイル殿、ととのいますか?」


 ベイルが試すように水風呂へと腕を突っ込んでみる。


「ああ、いい温度だ。ととのわせてもらうぜ」


 時は一刻を争う。ベイルは、さっそくとばかりに脱衣を始めた。


「おれのッ! なにが結界だぁぁぁッ!」


 狼狽したバージャムが激高し、サウナを破壊しようとする。しかし、壁から大量の剣が生えてくる。ウニのように出現したそれは、矢のように解き放たれ、バージャムを貫いていく。


「ぐぎゃぁぁぁぁぁッ!」


 怯んだところを、フランシェとアスティナが袋叩きにする。


「無駄ですよ。この空間は、私の思うままの現象を引き起こすことができます」


 メリアが指を跳ね上げる。


 すると、タイルから槍が出現し、バージャムを貫いていった。さらに、お湯が風呂から飛び出した。それは龍の如くうねり、バージャムへと激突する。


「ぐぼはッ!」


 床のタイルが剥がれ、手裏剣のように襲いかかる。壁に描かれていた獅子の絵から、それが具現化するように飛び出し、バージャムを襲う。


 それはまさに阿鼻叫喚の有様だった。


「よし、じゃあととのってくる」


 そして、ベイルはサウナへと入っていくのであった。



 その後。

 バージャムは一瞬のうちに敗北。


 城を包囲していた魔物の軍勢は、フランシェ率いる騎士団が時間を稼いでくれた。


 こちらには元魔王軍最高の頭脳プリメーラがいるので、防衛はお手の物だった。城のことを知り尽くしているので、罠などを起動して侵入を防いでくれた。


 ベイルがととのってからの顛末は、もはや語るまでもないだろう。


 そこから先は、一方的な蹂躙だ。

 魔王軍の残党を一気に撃破。

 世界に平和が訪れるのだった。


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