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第42話 引き抜かれるのは大魔道士

 俺は、アスティナに案内されて町の東門へと向かった。すると、そこには大勢の観光客がひしめき合っていた。


「はーい。A班のみなさんはこちらでーす」


 かわいらしいダークエルフがピシッとしたスーツを着て、旗を持って観光客を誘導していた。お客のほとんどが富裕層。それらは、ウルフィの店へと次々に吸い込まれていく。


「こ、これは……?」


 俺が狼狽していると、アスティナが説明してくれる。


「アレは他国の貴族や王族よ。ラングリードの噂を聞きつけて、温泉に入りにきてるの」


 富裕層。

 それらの落としていくお金は、一般市民の比ではない。彼らひとりひとりが、庶民向け温泉の1件分の売り上げに匹敵する無駄遣いをしてくれる。


 アホみたいに高いブランド牛やワインなどを、じゃんじゃん開けた上にチップまでくれるという、店にとっては神様のようにありがたいお客様なのだ。


 それらが巨大馬車に乗って、次々と到着している。そして、ダークエルフの誘導によって、ウルフィの経営する店へと吸い込まれていくのだ。


「うふふ、どうかなされましたか?」


 困惑していると、ウルフィが勝ち誇りながら登場する。俺たちは、彼女を睨みつけながら尋ねた。


「これは、どういうことだ?」


「地元のお客様がきてくださらないので、各地から集めただけですよ」


 世界の大都市の富裕層を相手に『ラングリード温泉ツアー』を企画したらしい。大勢の傭兵を雇って、観光馬車を守らせ、安心安全にラングリードを往復できるというパッケージを組んだ。


 ウルフィの大浴場も、それに合わせて高級化した。あるいは、宿泊施設として改装した。結果、この通り、各地の富裕層が集まって、お金を使ってくれる。


「上品なお客様は、タダでは入れるような貧乏くさい温泉には興味ないみたいですので、わたくしどもの施設でお世話させていただくことにしました」


 ――くそっ。高級志向のサウナ。気になる! 入りてぇ!


「なにが貧乏くさい温泉よ! それもサウナの味でしょ! この町には風情あるお風呂がいっぱいあるんだから!」


「あらあら、アスティナさん。鼻息が荒いですわね。就職活動は捗っていますか?」


「アンタのおかげで、あがったりよ!」


 一応、アスティナも働けてはいるのだが、サウナ無料化のせいでちゃんとした給料がもらえていない。怒りを感じるのも無理はない。


「そうですか……。それなら、うちのグループに入りませんコト?」


 突如として、ウルフィがアスティナを勧誘しようとする。


「はあ?  紋章のある奴は、サウナには入れないんじゃなかったの?」


「少し事情が変わりまして……お客様の中に、伝説の熱波師であるアスティナさんの、ロウリュウを受けたいというお客様がいらっしゃるのです。なので、プライベートサウナという限られた場所ではございますが、そういったサービスをと、考えているのですが?」


 プライベートサウナだと!? なんという贅沢! 俺も入ってみたい!


「ふん、誰があんたの手先になんか――」


「もし、専属契約してくださるのなら、報酬は弾みますわ」


 ウルフィがパチンと指を鳴らす。ダークエルフの青年がバッグを持ってきて、パカッと開いた。そこには、はち切れんばかりの金貨が詰まっていた。


「1億ゴールドあります。これで、いかがでしょうか」


「い、いちおく……?」


 見たこともない金額に、アスティナが目眩を覚えている。


「……ちょっと待て、アスティナ。まさか寝返るんじゃねえだろうな?」


 俺がジト目でアスティナを見やると、彼女はハッと我に返る。


「ま、まさか! この私が、この程度の金に靡くとでも――」


 全力否定するアスティナだが、ウルフィは少し思案顔を浮かべたかと思うと、さらなる提案を仕掛けてきた。


「それもそうですわねぇ。たしかに、伝説の熱波師と呼ばれたアスティナ・アースゲイルに1億は安すぎましたね。じゃあ――」


 ウルフィが合図をする。すると、側近がさらにバッグを2つ用意した。中には当然のようにぎっしり金貨が詰まっていた。


「さ、さんおく……」


 いまにも寝返りそうなアスティナを制して、俺が前に出る。


「アスティナがそんなものに釣られるかよ。そうやって必死になってるってことは、追い詰められている証拠だ。どうやら、決着も近いようだな――」


「5億……5億なら考える」


 俺の背後から、なにやら寝言が聞こえてきた。


 アスティナは俺を押しのけ、ふらりとウルフィに歩み寄る。


「5億……ですか。まあ、アスティナさんがきてくださるというのであればいいでしょう。うちのブランドも上がりますし。それでは、さっそく契約の方を――」


「ええ、私の気が変わらないうちに――」


「おい、アスティナ! 目を覚ませ! アスティナァァァァッ!」


 俺の呼びかけも空しく、伝説の熱波師はウルフィと共に町へと消えていくのだった。

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