表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/66

第35話 ひさしぶりのヴァルディスさん

 ――魔人ヴァルディス。


 ベイルに敗北してから、彼は魔王軍から姿を消した。その後、誰にも報せず、誰にも知られず、辺境のキルマウンテンの中腹に小屋を建て、仙人の如き暮らしをしていたのだが――。


 この日、彼のもとに招かれざる客が現れることになる。



「アレから、二ヶ月か……」


 小屋の外。切り株の椅子に腰掛け、焚き火に薪をくべながらポツリとつぶやいた。


 ヴァルディスは、未だ敗北の味を忘れられないでいた。圧倒的な実力差というものは、かくも心を虚無に陥れるものなのか。


 努力してどうにかなるレベルであれば、むしろ力への渇望も増すというもの。埋められぬ実力は、あまりにも残酷。


 魔王軍で、雑魚を相手に訓練していても、意味はないと思った。だから、こうして自分を見つめ直すため、ひとりになったのだが――。


 ――未だ道はわからず。


 瞑想を続けるヴァルディス。

 隠居するには早い。


 思いふけっていると、ふと、地鳴りのような声が聞こえた。


「――ヴァルディスよ……このようなところで、なにをやっている……」


「この声は……」


 声が咆哮へと変わる。


「グルアァァアァァァァァァッ!」


 周囲の岩肌を砕くようにして、地面より竜の顔が出現する。威嚇するかのように口を開いた。巨漢のヴァルディスでさえ、ひと飲みできてしまいそうなほど巨大だった。


 顔面が、ぐわりと持ち上がり、大地から這い出るようにして全身を明らかにする。


 サイクロプスすらも貧弱に思わせる、強烈な筋肉の肉体があった。全身から、凄まじいトゲが剥き出しになっている。背中にはドラゴンの翼。


 魔物を超越した存在――。


「魔王……様……?」


 巨大な主君を、見上げるように眺めるヴァルディス。


「ヴァルディスよ! 貴様の使命は勇者を始末することだろう。こんな辺境でくつろいでいる場合ではないハズだ!」


 魔王の来訪――なのにも関わらず、ヴァルディスは落ち着きを払って答えた。


「俺は……ベイルに手も足も出なかった。いまのままでは奴に勝てん」


「ならば、知略を巡らすなど、方法はあるだろうッ!」


 ガルァァァァと吠える魔王。

 だが、ヴァルディスは動じなかった。


「――茶番はやめろ。トーレス」


「ぬぅッ?」


 名前を呼ぶと、魔王だった存在が黒い液体へと変貌し、大地へ溶けていく。あとに残ったのは黒髪の少年だった。


 特徴のない顔と体型。

 村人の如きシンプルな服装を纏っている。


「さすがヴァルディスさん。気づいてました?」


 魔王に扮していたのは、魔王軍五大魔将のひとり、変幻のトーレス。姿を変えることができる特殊能力を持っている。


「魔王様が、わざわざ足を運ぶわけがないだろう」


「あはは、たしかに」


 まあ、トーレスもバレるのをわかって変化したのだろう。


「探したよ、ヴァルディスさん。まさか、こんな辺境で暮らしてるなんて思わなかったからさ」


「……なんの用だ?」


「魔王様が怒ってますよ。あなたが、軍を見限ったと思ってる」


「見限ったわけではない。ひとりになりたかっただけだ」


「そういうわがままが、誤解を招くんですよ。それに、プリメーラさんがやられたんでご機嫌もナナメなんです」


「ほう、プリメーラが?」


「ええ、勇者ベイルに」


 さすがはベイルだ。我が宿敵ならば、他の五大魔将如きに負けてもらっては困る。


「嬉しそうですね」


「そんなことはない」


「そうかなぁ? ……まあいいや。そろそろ、仕事を再開してくれませんか? 悔しいけど、純粋な戦闘力なら五大魔将の中でもトップクラス……あなたの代わりはいません」


「俺は、しばらく戻らん」


「いま、ウルフィさんが勇者討伐に向かってます。あの人のやり方は陰湿で悪質だ。さすがのベイルも、今回ばかりは厳しいでしょ」


「ベイルを倒したいのなら、好都合だろう」


「そしたら、ダークエルフが魔王軍の中枢に据えられちゃいますよ。あの人なら、魔王軍そのものを乗っ取りかねない。それぐらいの内政力はあります。ぼくたちの居場所がなくなっちゃいます」


「俺には関係ない」


「関係なくはないでしょ。このままじゃ、ヴァルディスさんの立場もなくなっちゃうじゃないですか」


 トーレスは呆れたように肩をすくめた。


「関係ないと言っているだろう。それともなにか――?」


 ヴァルディスは筋肉を隆起させ、魔力をわずかに放出させる。


「おまえは、魔王様の命令で、俺を始末しにきたのか?」


 並の魔物なら一目散に逃げ出すようなヴァルディスの闘気。トーレスは数歩さがって、両掌をわたわたと振る。


「そそそ、そんなんじゃないよ! ぼくなんかヴァルディスさんに勝てるわけないじゃないですか!」


 謙遜しているが、トーレスとて五大魔将のひとりなのだ。容易くは勝てないことを、ヴァルディスも知っている。


「魔王様に伝えておけ。俺は、しばらく戻らん。五大魔将から外すというのであれば、それも構わんとな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ