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第25話 デス・サウナシステム

 ――この町も発展したものだ。


 プリメーラの襲撃から二週間。


 町は豊かになり、平和を取り戻しつつある。もちろんこれは仮初めの平和だ。未だ、魔王軍の脅威は消えておらず、いつ攻めてくるかもわからない。だが、この期間に、ラングリードも十分な準備をすることができた。


 当然、俺も研鑽を怠らない。今日もまた、サウナに入ることで自らの能力を高める。


 本日のサウナは『サウナスパ・遊活クラブ』だ。


 遊活クラブは、元々ブックカフェだったのだが、サウナ人気にあやかり、サウナを導入するに至っている。


 ブックカフェ利用者は、サウナに入り放題。入浴後は、個室ブースで読書を楽しめる。しかもドリンク飲み放題。アイスクリームだって食べ放題という神のような施設。サ飯とセットになったプランも存在していて抜かりない。


 俺は受付を済ませると、個室に荷物を置いて、さっそくとばかりにサウナへと向かった。



「ふぅ……仕事終わりのサウナは、やっぱり最高だな」


 健康な身体に、ほどよい疲労。これこそ、サウナを満喫できる状態だ。この状態で、ととのったら、確実にとろけるだろう。いまから頬が緩んでしまう。


 サウナには、俺以外に客が7人。広々としているので、ちょうどいい混み具合だった。


「失礼いたしまーす。ロウリュウのお時間でーす」


 若い女性従業員が入ってきた。みかん色のシャツの端を結んで、へそを出している、いかにも爽やかで涼しげ。短パンからは白い足がスラリと伸びていた。長い髪を後頭部でお団子のようにまとめている。眼鏡がキラリと光る知的な女性だ。


 女の人は知らないかもしれないが、銭湯やサウナというのは、女性従業員が男湯に出入りして管理することもある。


 ハレンチ極まりないとは思うのだが、そういうものなのだろうと思って、男衆はあまり気にしていない。もっとも、若い女性というのは非常に希少で、主におばちゃんぐらいの年齢の人が多い。


 しかし、まさかロウリュウのサービスがあるとは、この店のサウナへ懸ける意気込みがビンビンに伝わってくる。


 女性スタッフがサウナストーンに水を垂らしていく。そして、順番に熱波を客に浴びせていった。俺の順番がやってくると、彼女はこう言った。


「勇者ベイルさん……ですよね?」


 突然の名指し。有名人のツラいところだ。彼女も、熱波師として、俺にロウリュウするのを誇りに思いたいのだろう。


「ああ」


 返事をすると、彼女はニコリと笑って、こう言った。


「ああ、よかった。会いたかった――」


 嬉しいお言葉だ。うん、ルックスは悪くない。というか、凄い美人だ。インテリで硬そうな表情から垣間見える微笑みは、まるで天使。健康的な熱波師のラフな衣装は、身体のラインを際立たせている。


 だが、次の瞬間――。


 彼女は桶の中へちゃぷりと右腕を突っ込んだかとおもうと、毒々しいナイフを取りだしてきた。


「え――?」


 ――え?


『え?』が、バグったように繰り返された。


 そして、俺の混乱を強引に抑え込むかの如く、彼女は告げる。天使のような微笑みが、邪悪な笑みへと変貌を遂げた。


「ククク。迂闊だったな。我が名は魔王軍幹部、暗略のプリメーラ――」


「あ、暗略のプリメーラッ?」


 え? なに? マジ? この人が本当にプリメーラなの? プリメーラが、なんでここにいるの?


「――おまえの命をもらい受けにきた」


 この殺気。嘘ではないらしい。っていうか、ヴァルディスと同じパターンじゃねえか! くそッ! しくじった! なんで五大魔将の連中は、全裸の時に攻めてくるんだよ!


「へ、へぇ……。なかなか趣向を凝らした訪問じゃねえか」


 心の中が慌ただしくなる。


 だが、ここで狼狽した姿を見せてはいけない。妙な動きをしたら、問答無用で殺されるかもしれない。慎重に会話を進めよう。さすがに丸腰中の丸腰の状態で勝てるかどうか怪しい。というか、たぶん勝てない。


 そもそも知略タイプの将は、勝利を確信した時しか動かない。要するに、この状態になれば、俺を殺せると判断しているのである。


 俺以外の客は、プリメーラの手にしたナイフを見て、危険な状況と察したのだろう。一目散にサウナから逃げていった。


「五大魔将自ら殺しにくるとは、随分と暇なんだな。どういうことだ?」


「私だって、こんな格好をしたくなかった! しかし、おまえが魔物をたくさん殺したせいで、こうするしかなかったのだ!」


 大量の部下を失ったプリメーラは、このまま魔王城に戻ったら、責任を取らされて確実に殺される。ゆえに、手柄を挙げなければ、帰ることができない。


 知恵を絞りに絞った結果、ダイレクト暗殺という判断に至った。俺がもっとも無防備な時に、もっとも接近できる職業として選択したのが、熱波師だったわけである。


 数多の魔物を使役し、魔王軍の幹部として君臨していた彼女が、まさかここまでするなんて、なんか不憫に思えてきた。


「屈辱だったぞ……。完全な従業員に扮するため、私はありとあらゆるサウナの知識を得た。バイトもした。アスティナさんという伝説の熱波師からも技を教わった。しかし、その苦労も今日でおしまいだ」


 そこまで馴染んでるのなら、そのまま住んでしまえばいいのに。


 しかし、どうしたものか。ヴァルディスは話のわかる奴だったが、プリメーラは完全に殺しにきてるからな……。逃げていった客たちが、騎士団に通報してくれないかな。


「……ととのっていないとはいえ、俺に勝てると思っているのか?」


「ハッタリは無駄だ。本当に強いのなら、先の戦でととのわずに参戦していただろう。それはつまり、普段のおまえの脆弱性を物語っている」


 これだから知略系の敵は嫌だ。こっちの小細工を看破してくるんだもん。


「なるほど。自信たっぷりのようだな……」


 こうなったら仕方があるまい。俺も腹をくくることにした。


「――だが、俺だって奥の手のひとつやふたつ持っているんだぜ」


 おそらく、ここからは地獄だろう。

 命懸けの戦いとなる。


 その時だった。正面の娯楽用モニターに、我らが騎士団長フランシェの顔が映る。


「ベイル! なにがあったのですかッ!?」

 どうやら、マジで客の誰かが通報してくれたようだ。フランシェからの突然の問いかけ。


 ――タイミングは、いましかない。

 俺は、すかさず叫んだ。


「緊急事態だ! デス・サウナシステムを作動しろ!」


「あ、アレをッ? わ、わかりました!」


 のっぴきならないやりとりに、反応するプリメーラ。


「おい! 妙な真似をするな!」


「おっと、もう遅いぜ。俺を殺したら後悔することになる――」


「後悔……だと?」


 突如として、サウナ内にアナウンスが流れる。


『デス・サウナシステムを発動。出入り口を封鎖シマス』


 ガチャンと、凄まじい音によって、扉がロックされる。


「こ、これはいったい……なにが始まろうとしているのだ?」


 異常な事態に、プリメーラが慌てふためく。


 警報が鳴り響いた。壁と天井に、ガシャンガシャンと黒塗りのシャッターが張り巡らされていく。サウナは、一瞬にして漆黒の空間となった。


「なんだ、この壁はッ!」


 不審に思ったプリメーラが、壁を破壊せんと光線魔法を放った。だが、漆黒の壁は鈍色の焦げをつけるだけで、ビクともしない。


「これが、デス・サウナシステムだ。もう、生きて出られると思うなよ」


「デス……サウナシステム……?」


「――俺は、ヴァルディスとの一戦以来、ずっと考えていた」


 俺という特化戦力を、苦もなく葬り去れるタイミング。それがサウナ中だ。いつ再び、ヴァルディスのように潜入してくる奴が現れるとも限らない。だから、俺はその時のための対抗策を用意しておいた。


 この町のいくつかの銭湯に依頼して、このデス・サウナシステムを備え付けてもらっていたのだ。金はかかったが、町の平和が保たれるのなら安いものだ。


 床の木材の一部が、ウィーンとせり上がって、テーブルを構築する。中央がパカリと開かれ、腕時計のようなものがふたつ現れる。


「好きな方を取れ、プリメーラ」


「は? さっきから、おまえはなにを言っている! 生殺与奪はこっちにあるのだぞ! こんな茶番に付き合うつもりはない。勇者ベイルの命、もらい受ける!」


 ナイフを構えて襲いかかってくるプリメーラ。だが、俺の一言が、彼女の動きを止める。


「――俺を殺したら、このサウナから一生出られないぜ?」


「一生……出られない……?」


「デス・サウナシステムが発動したが最後、俺だろうが、止めることはできない。生きて出たかったら、ルールに従うしかないんだよ。さあ、好きな方を選べ、プリメーラ」


 このようなカタチでサウナを使うことになるのは避けたかった。聖域に血生臭さを染み付けるなど冒涜だ。けど、この境地を脱するには仕方がない。


 さあ、史上最悪のデスゲームの始まりだ。

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