表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/58

21話

「レイさん、戻って!」


 (アイ)に背中を叩かれる。

 僕は幽体離脱から身体に引き戻されたかのように、正気に戻る。

 そして、僕は再び、発狂した。


「無理だ無理だムリだムリだむりだむりだ」


 (アイ)が落ち着いて、としきりに僕の背中を撫でる。


「そんなこと言ったって!」


 なぜ、(アイ)が冷静をたもてるかが理解できなかった。


「この汚い音が聞こえないのか!」


 目の前のネクタイを外しただけのただの少女。

 その黒いセミロングの、彼女の胸の中で、おぞましい轟音が鳴っていた。


「八枚」


 人間の形をたもったままの彼女もまた、変わり者。

 心臓のような、激しい機械音のような音が、身体の中で八つ、沸騰している。


「ワタシの心音が不潔だなんて。アナタ、ひどいことを言うのね」


 目の前の変わり者の女が退屈そうに、髪の毛先をいじる。


「ねぇ、あなたのこと、ワタシ、ずっとずっと見てたのよ」


 やめてくれ。

 僕は心の中で懇願した。

 この災厄が何もかも、なかったかのように、僕らと出会ったことも、何も見なかったかのように引き返してくれることを、僕は切に願った。


「ねぇねぇ、わたし、すごい気になったことがあるの」


 もう何も、彼女の声も、おそろしく迫る変わり者の轟音も、恐怖も、聞きたくなかった。


(アイ)、逃げ――」


 僕が言葉を発しようとしたとき、黒髪の彼女が、ザッと、視界から消える。

 地面にしゃがみ込み、両腕で自分の身体を抱きしめる。

 そして、僕らを舐めるように、見上げた。


「いじめないで。避けないで」


 黒い前髪の下から雫がこぼれる。


「ワタシを仲間はずれにしないで。一人にしないで」


 両眼を見開いたまま、泣いている。


「神様、お願いだから」


 彼女の目の奥は暗く、光なく、まるで、冥界に繋がっているようだった。


「《ノックノックノック――――》 私を助けて、妖精さんたち」


 そう言って、彼女は地面を叩いた。


『ザッザッザッザザザザザザザザ』


 黒い点が地中から途端に沸き上がる。


『ジジジジジジジジジジジジジジ』


 それは、虫と微生物の集団。

 無数のウジャウジャとした小さな生き物がせり上がり、ひとりでに、人の形を成していく。


『ズズズズズズズズズズズズズズ』


 僕らの前に、黒い影が立ち並ぶ。

 ゾンビだった。


『ゼゼゼゼゼゼゼゼ』


 (おぼろ)な人影の集団が、僕と(アイ)を見ている。


「くっ」


 空気が重かった。


「ねえ、質問。あなたの力って、思考が一切存在しない、ただのモノにも有効なの?」


 彼女が無気力に小石を投げる。

 それが合図だった。

 大量の、黒い蠢く怪人たちが、僕をめがけて走り出す。


「――――っ」


 ただの悪夢なら、どれほどよかったか。

 真っ暗な人混みが、僕らの視界を黒くする。


『ゾゾゾゾゾゾゾゾゾォォ』


 トラウマ。

 そんな言葉では語りつくせないような、悲惨な状況に、僕は、両足をべたりと地面に付けて、奥歯をすり潰す他になかった。


「………キモすぎ」


 (アイ)がその光景に苦言を漏らすのだった。


ここまで読んでいただきありがとうございました!

ブックマーク、評価、Twitterのフォローよろしくお願いします!!


感想やレビューもどしどし送ってくださると嬉しいです!!


次話は2022年5月20日に公開します!


更新情報はTwitterをチェック!!(活動報告を使うこともありますが、どちらにせよTwitterで告知します)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ