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初めまして、クレイマン  作者: 青六
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No.4 一話 ~03~


 翌日。テンポのいい話は基本的に読んでいる側からすれば心地の良いものかもしれない。だがしかし、実際その身になってみたらたまったものではないのである。俺は急遽リヴァーファミリーのボス、『イド・リヴァー』を演じなければならなくなった。三日居なくなってたのだからもう二~三日くらいは現実からの逃避行をしている可能性もあると思う。だが非行少年の帰りを待っている時間はもう無いらしい。

 俺は例の『イド・リヴァー』の書斎で高そうな椅子に腰掛けている。建物は古い外見と違って中はモダンでシックな作りをしている。廊下に敷かれた落ち着いた色のカーペットや並べられた家具、自然な明かりを点す照明などなど。俺の住んでいるボロボロな屋根裏部屋とは大違いだ。

 履き慣れない靴と着慣れない服で着せ替え人形気分の俺は袖についたボタンを弄りながら顔を上げた。

「あのさ、結束式って近いうちって言ってなかったけ?」

「そうだ」

「近いうちって次の日って意味だったのか? 初めて知ったぞ。これから使い方に気をつけないといけないな」

「うだうだ言ってないでさっさとそれを読み進めろ!」

昨日突然押しかけてきた女ことイキシアは俺の顔に包帯を巻きつけながら頭をはたく。俺の目の前にはイキシアが徹夜で仕上げたという『イド・リヴァー』の人柄、口癖、言い回し、身のこなし、態度、等々の詳細事項が延々と書き連ねられている資料が置かれていた。枚数にしたら十や二十は下らないだろう。これを一晩で仕上げたというのだから驚きだ。

 指先でそれをペラペラめくりながら俺はなんとなくイキシアが必死になって『イド・リヴァー』を探す理由が分かったような気がした。そう、つまり彼女は彼のことが好きなのだ。恋する乙女、死すら恐れずとはまさにこのことか。だが、もしかしたら俺が『イド・リヴァー』かもしれないと考えるととても申し訳ない気がしてくる。

「はい、出来た」

すっかりミイラ男へと化けてしまった俺は自分の姿を鏡に映して見た。想像以上にミイラ男だ。これでは折角のいい男も台無しだ。鏡越しに腕まくりをして満足そうに腰に手を当てるイキシアが見える。昨日寝ていないためか目の下にうっすら隈が出来ていた。

「で、俺は結束式で何をすればいいんだ?」

「血の掟を交わす。お互いナイフでつけた傷を合わせる。それだけだ。それと”俺”ではなく”私”だ」

俺は一度のどを鳴らして背筋を伸ばす。

「私・・・・・である。」

ちょっとふざけただけでイキシアの平手が頭を襲う。今回のは結構強烈で一瞬頭がくらっとした。

「ふざけるなよ?」

いつかのヤクザ声で彼女は俺の耳元に囁く。やはりボスに関することでふざけるのはよしたほうがいいらしい。俺は大人しく首を縦に振った。

「結束式まで後二時間ほどだ。それまでしっかりそれを読み込んでおけ」

イキシアは冷たく言い放ち、他に準備することがあるらしく忙しそうに部屋を後にする。

 一人残された俺は部屋の中を探ってみることにした。もしかすると記憶を取りもどす何かがあるかもしれないと思ったからだ。でも部屋には幾つかの家具が並んでいるだけであるものといえば数着の背広とカシミヤのコート、帽子に煙草が一箱だけ。それらしい物は何もない。『イド・リヴァー』という男はよほどの掃除好きだったか、物持ちが病的に悪かったかのどちらかに違いない。元々そんな男は居なかったのではと思うほどの物の少なさだった。

「何かしらあるだろ、普通」

手がかりの一つも見つからないまま俺は一着の背広を手に取った。ふとそこで俺は何かを思い出したかのような不思議な感覚に陥る。この背広の裏ポッケに何かしまったような気がした。それも数着ある背広のうち、この背広のポッケにだ。恐る恐るスーツの裏ポッケに手を入れると、やはり在った。

 我ながらこの感じはとても不気味だ。初めて見る場所、物、空間でふと浮かぶ確信的な直感と疑問。ありえない二つの感情が並ぶ感覚。嫌な汗を背中にかいていた。

 俺はゆっくりそれを指先でつまむ。破れないように慎重にポケットから抜き出してみると、それは一枚の写真だった。ずいぶん古い。角が丸くなり色落ちしているがそれでも大切にしてあったのだろう。破れてもいなければ目立った傷も無い。

 そこに映っているものは一人の男とまだ幼さの残るイキシア。彼女の頭にのっているのはきっとこの男の帽子だ。サイズが合っていない。となるとこの男が『イド・リヴァー』になるのか。意思のこもった細い目に彫りの深い顔つき。いかにもマフィアといった風貌だが、不思議とやさしい雰囲気があった。写真を傷つけないように裏を見るとそこには本人の書いたものであろう文字が並んでいる。


『最初にして最愛のファミリー』


それを見たとき、どうしてか俺は目頭が熱くなった。この写真はきっととても大切なものだったのだろう。だからいつも肌身離さず持ち歩いていたに違いない。『イド・リヴァー』という人物が少し分かったような気がした。



第四回。

イド・リヴァー。個人的に好きな登場人物です。実は彼視点で進む物語を書いてみたりしたことも。いつか彼の活躍を再び書けたら、と思います。ご意見ご感想、心待ちにしております。


青六。

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