No.10 一話 ~09~
何が起こったのか理解するまでには少し時間が必要だった。クレイマンが大きく体をそり返したかと思うと部屋の暖炉から何かが飛び出した。それでクレイマンは木の葉のように飛ばされて。そこからは良く覚えていない。なにしろ一瞬の出来事だったからだ。
私の目の前に横たわるクレイマンは折れた椅子の足が体を貫通して真っ赤な血を床に撒き散らしていた。必死に傷跡をハンカチで押さえるがとても止血など出来ない。私の介護など無視して黒い血が流れ出す。
「しっかりしろ! おいっ! おいっ!」
私の声にクレイマンは全く反応を示さない。包帯の隙間から見える目がうつろに虚空を見つめていた。どう考えても危ない状況だ。
騒ぎを聞きつけたルッソファミリーが次々と二階に上がってくる。誰もが手に拳銃やトンプソン機関銃を持ち、謎の襲来者へ迎撃をはじめていた。弾けるような銃声、床に落ちる空薬莢の音。部屋の中は完全に戦争状態になっていたが、私はそれどころではなかった。
「おい、クレイマン!」
クレイマンの意識を戻させるために何度も頬を叩く。そのたびに顔の包帯が血にまみれていく。
どうして私の周りにいる人は次々に死んでいってしまうのか。もう流すまいと何度も誓ってきた涙がまたこみ上げてくる。気づけば勢いよく流れ出していた血がおさまりかけている。心臓が止まったんだ。首の動脈に手を当てるとやっぱり鼓動が聞こえない。
「駄目だ・・・死ぬな! 死ぬな!」
ズルズルと倒れこむクレイマンの頭が血にまみれた床に叩きつけられる。もう人形のようにぐったりとしている。もうどうしたらいいのか分からない。助けたいのに助けられない。私は、私は・・・・。
こみ上げる嗚咽を堪えながら私は顔を上げて部屋を見た。こんなものがこの世にいていいのか、そんな感想が一番に出てくるおぞましい化け物がオースティン・グレイスを噛み千切り遠吠えをあげている。黒い狼、いや獅子かもしれないそれは体に黒い煙を纏いながら次々と人を殺めていく。
「もう嫌だ・・・こんなの、こんなの・・・」
目の前で起こる光景を両手で覆い隠し、私は堪えきれず啜り泣いた。
いつもそうだ。私は肝心なところで泣いてばかりいる。こんなのだから私は何時までたっても一人前になれないんだ。それでもやはり私は願わずにはいられない。この世で唯一信頼できるあの人に。
「・・・・助けてよ、イド」
第十回。
なんだかムネアツな展開。次回、いよいよ…⁉
お楽しみに。
青六。




