「エピローグ」
「……ち……ま……、……孔弌様」
ゆらゆらと優しく体が揺らされる、もう朝か……。
「んー……んぅ、おはよう、リエラ」
「おはようございます、孔弌様」
ベッドの傍に立ったリエラが微笑みかけてくる。
ここ最近の朝はこんな感じで実にすっきりと目覚められている。
「……孔弌ッ!」
勢いよく扉を開いてテンちゃんが入ってきた。
「……もう、大事な日なんだからもっと早く準備する」
「今起こしてもらったところなんだけど……」
「……むぅ」
「じゃ、そういうわけで支度したいから、二人とも部屋から出てくれる?」
「はい、失礼します」
「……ん」
そそくさと二人が部屋から出て行ったのを見届けて、寝巻きを脱ぐ。
あの、時雨との戦いから今日で三日が経つ。
僕はというと、あの戦いがまるで夢だったんじゃないかと思うくらいに平和な毎日を送っている。
そして式神達、リュウ、蛍さん、沙羅はというと……。
「ん、おはよう孔弌。丁度呼びに行こうと思っていたところだ」
「やっ、アルテ」
「ちょっと待て、ゴミがついているぞ」
そういってアルテが髪の毛をさっと撫でる。
「ありがと」
「あぁ。ほら、皆が待っているから早く行こうではないか」
「うん」
「おう、孔弌遅かったじゃねぇか」
「兄ちゃん、ほら早く席について!」
スザクに急かされるままに腰を下ろす。
大きなテーブルを見回すと、そこには確かに式神全員の姿。
そう、式神も皆相変わらずゆるゆるだらだらと生活してる。
「さっ、早く! 早く食べようじゃないか! 食べる、俺肉食べる! オレオマエマルカジリ!」
そして、この男。リュウもなぜか未だにここにいる。
確かに神社はまだ倒壊したままだから、別にい続けてもおかしなことはないんだけど、神社が直ったあともそのままい続けそうだ……。ていうかなんでラリってんの?
「もういっそのことここに神社再建しようかな」
ほらっ! 言ってる傍からあんなこと呟いてるよ!
「やれやれ、最後まで緩い空気じゃ」
蛍さんが楽しげに呆れた笑いを漏らす。
最後……そう、蛍さんは今日この後ここを出る。
元々、今回の事件が全て片付くまでの臨時の手伝いさんだったから帰るのは当然なんだけど、それでもやっぱり寂しい。
蛍さんには、沢山色んなことを教えてもらったし、力も貸してもらった。
「こら、孔弌。そのような顔をするでない。おぬしに暗い顔は似合わぬぞ」
「ん、ごめん。でも、これで暫く蛍さんに会えなくなると思うと寂しくて」
「心配するでない、現代科学の結晶である電話を使えばいつでも話をできるではないか」
「いや、君電話持ってないじゃないか」
「ん、静哉が対応中の事件が片付けば当分は本家のほうにいると思うから、そっちに電話すれば連絡できるじゃろ」
「りょーかい、そっちのほうも頑張ってね」
静哉……それが蛍さんの主の名前らしい。
なんでもその主が今大変な事件に巻き込まれたとかで、蛍さんも急遽お手伝いをすることになったらしい。
流石有能な蛍さん、きっと色々な人から頼りにされているんだろうな。
「で、沙羅は結局どうするの?」
食卓の隅っこでいそいそと口に食べ物を運ぶ沙羅に問いかける。
「沙羅よ、おぬしさえよければわしと一緒に来てもよいのじゃぞ? ……なんというか、おぬしのことは家族じゃとおもっとる。だから遠慮はいらぬぞ」
「ありがと、お姉ちゃん」
風鈴の音のように透き通る声で沙羅が答える。ちなみに沙羅はこの通り普通に喋れるようになった。
これが、あの戦いの途中で一度支配を打ち破ったおかげなのか、時雨を倒したおかげなのかはわからないけど。
「でも、私、捜して会いたい人がいるから」
「そうか、おぬしがそこまでの想いを抱いておるのなら自分の信じる道を行くがよい。じゃが、辛くなったらいつでも頼るのじゃぞ?」
「うん」
会いたい人……それが誰なのかは沙羅から聞き出したことはない。
でも、あらゆる事を諦め、生気すら感じられなかった沙羅が蛍さんに励まされて、ようやく見出した目標であり希望なんだ。きっととても大切な人なんだろう。
「では、世話になったな、孔弌。そして、その式神達よ」
「うん、こちらこそありがとう蛍さん」
「あれぇ、僕は?」
リュウ、ここに来てお前って奴は……。
「むしろ、おぬしの世話をするためにわしはやって来たようなものなのじゃが……」
まったくその通りだよっ!
「では行くか沙羅。せめて途中までは送らせておくれ」
「うん」
蛍さんと沙羅が手を繋いで歩いていく様子は仲のいい姉妹……には見えないなぁ……。
「では、またな孔弌よ」
「うん、ばいばい蛍さん!」
式神達もそれぞれが蛍さんへ別れの言葉を送る。
「行っちゃったね……」
「今生の別れじゃないさ、呼べばすぐ会えるし、こっちから会いに行くこともできるさ」
落ち着いたリュウの声は、不思議と僕の中にしっとり染み込んでいく。
「ん、そうだね」
「では、戻るか孔弌。私たちの家に」
「そうだね。戻ろうか、僕たちの家に」
「よっしゃー! 俺が一番だ!」
セラがまるで競争でもしているかのような勢いで疾走していく。
「待て、セセラギ。朝から住宅街で絶叫は迷惑だぞ」
その後を追うように秋月が走っていく。実は注意しているようで、同じようにはしゃいでいるだけという。
「うわ、出遅れたっ!」
スザクがはっとしたように二人の後に続く。
だから、競争でも何でもないってさ……。
「まったく、あの三人は相変わらず忙しないな」
あきれた様子のアルテからため息が漏れる。
「待て、俺を忘れるなっ! イヤッホゥ!」
すかさず涼夜がシュンシュンという擬音が似合いそうな忍者のような跳躍で3人の後を追う。
「すまない、どうやら落ち着きのないバカは四人いたらしい」
「涼夜が未だによくわからないよ……」
「ささ、孔弌様参りましょう」
リエラがひょいと僕の手を掴むとそのまま歩いていく。僕もいきなりそんなことされたもんだから、引かれるままになってるわけで。
「おい、こら待て、独占禁止法を発令するっ!」
キャッキャッと言った様子で走るリエラと引かれるままの僕を追うようにアルテが走ってくる。
「……ボクも!」
「行きましょう、天奈さんっ!」
「……んっ!」
おいおい……この流れはそこはかとなく嫌な予感だよ。
「逃がさぬぞ、孔弌よ!」
麗姫の放った攻撃(!)でリエラが僕から離れる。
「みんな、待ってよ!」
もうこうなったら……。
「待ってよ、セラ秋月スザク涼夜、僕を置いていかないでっ!」
『まてー!!』
後ろから聞こえる制止の声を振り切るように一心不乱に走っていく。
「はは、はははは!」
何故だかわからないけど、笑い声が漏れてくる。
「全く、何のかんの言って結局バカしかいないじゃないか。そう思わないかい、碧鮮君」
「嫌なのかい?」
「……まさかっ!」
「少し慌しい気もするけど、僕も気に入ってるよ。それじゃ行こうか」
「あぁ、僕らの孔弌君を助けるぞ!」
「あぁ」
「孔弌くーん、今助けに行くぞっ!」
非常に頼もしくない応援が後ろから駆けつけようとしている。
まったく、神様までこの調子じゃ仕方ないな。
でも、これが、僕の日常、僕の家族、僕のこれから。
きっとずっと楽しい日々が続いていく。
そんな未来を思い描いて……今はあの六人から逃げよう!
これにて完結です。
ありがとうございました。
おまけエピソードがあと少しだけありますので、もうちょっとだけお付き合い頂けると幸いです。
少しペースダウンして投稿しますので、多分隔週です。
本編は本編で完結させて、おまけは別作品扱いで掲載する予定です。




