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キズナの鬼  作者: 孔雀(弱)
第9章「騰蛇の位と無口な少女」
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「居候ぱじゃま」


 それから暫くわいわいやっていると、扉を開けて蛍さんが入ってきた。

「おや、皆揃っておるようじゃの丁度よい、少し話がある」

 そう言うと蛍さんがパンパンと手を叩いて。

「入ってこい」

 なんだなんだ、宴会でも始まるのか?

 と思っていると、蛍さんの後ろから例のパジャマの子が部屋に入ってきた。

「………………」

 人生に絶望したような顔をしてる。もともと無表情だけど、それ以上に死んだような顔をしてる。

「今朝目を覚ましてな、しばらく観察しておったのじゃが、とりあえずのところは襲ってはこないようじゃ」

 蛍さんがそう言うなら大丈夫なんだろう。

「それでじゃな、どうもこやつは相当強力な力に縛られておるようなのじゃ」

「縛られている?」


「うむ、こやつは元々わしらに対して敵対心はない……強制命令と刷り込みで従わされていたようじゃ」

 あぁ、それで昨日もデコイに使われてたのか。

「しかもどうやら言葉を失う命令もされておるようで、術の時に唱える文や祝詞以外の言葉は何も言えんのじゃ」

「へぇ、でも話せないのにどうして蛍さんはそんな事がわかったの?」

「いわゆるイエス・ノーで答えることができる質問ならば首を振って答えられるようじゃ」

 ほぅ……。

 よし、試しに事情聴取してみよう。


「君の名前は沙羅って言うんだね?」

 ――コクリ

「あいつらの命令がなかったら、別に僕達と戦おうとは思わない?」

 ――コクリ

「で、そのあいつらには見捨てられたと?」

 ――コクリ

「つまり戻る場所が無くなったと?」

 ――コク

「今結構絶望してたりする?」

 ――コク


「イチゴ牛乳よりコーヒー牛乳派?」

 ――フルフル

「こしあんよりつぶあん派?」

 ――コクリッ

「きのこよりたけのこ派?」

 ――コクリッ

「猫より犬派?」

 ――コクリッ

「昨日言ってた先生って誰?」

 ――シーンッ


「ふーむ」

「ほれ、言ったとおりじゃろ?」

「そうだね。でも色々とわかったよ」

「というか、おぬし後半は遊んでおっただけじゃろ」

 とりあえず僕はコーヒー牛乳派だから、その点さえなんとかクリアしてくれれば彼女とは仲良くなれると思うんだ。

「これは、相当強力な支配を受けておるようでの、そう簡単には解けそうにはない」

「思ったんだが筆談すればよいのではないか?」

「おぉ流石アルテ名案」

 喋れないなら書けばいいじゃん。全くもってその通りだよ。

「いやぁ、それは既にわしが試したんじゃが……」

 あ、試したんだ。

「どうもこやつ、自分の名前と星という漢字しか書けないようなのじゃ」

 なぜ星なんだ!?


「一応、捕虜として暫く置いておきたいのじゃが」

「ん、わかった。自由にしてていいよ。あ、氷凍。そういうわけでご飯もう一人分お願い」

 僕のその言葉に蛍さんが驚いた様子で口を開く。

「よいのか? 例えこやつに戦う意思がなくとも、危険な事には変わりないのじゃぞ」

「ぶっちゃけ、この子が一対一で戦って勝てる相手ってこの家だと僕ぐらいしかいないから別に平気なんじゃない」

 リュウは論外。

「じゃから、おぬしが危ないかもしれんのじゃが……。それに逃走する可能性も否めぬからそう易々自由を与えるのは」

「逃走はしないんじゃないかなぁ、この子もう帰ってくるなって言われたんでしょ?」

「うむ、そうじゃが」


「蛍君、君はどうせ孔弌君ならこう言うだろうとは思っていたくせに」

「む……むぅ。まぁ、のぉ」

 うわ、図星だったんだ。

「そんなに僕の思考回路って読みやすいのかな……」

「いや、ある意味予測不能なんじゃがな」

 どっちなんだよ。

「確かに執拗に縛り付けるというのはわしの性にも合わぬのじゃが、立場上厳しくいかせてもらうぞ。……ということでいくらなんでも単独での外出は禁止じゃな」

「それは仕方ないと思うけど、君は構わない?」

 ――コク

 無害そうだし、多分大丈夫だろう。首切られそうになったことあるけど。

「ただ、縛りがある以上、連中がこやつにもう一度でも命令すれば再び敵として立ち塞がるやもしれぬ。それだけは覚えておくのじゃ」

 そういうことなら余計に家の外には出すわけにはいかないなぁ。少なくともあの妖怪達を倒すまでは。


「拳より刀派か?」

 ――コクリッ

「ほらな、秋月、拳で殴りあうなんて技と芸がねぇんだよ」

「何をぅ……。戦いは腕力より頭脳だな?」

 ――コクリッ

「ほらみてみろ」

「別におめーもそこまで賢い戦い方してるわけじゃねーだろうがっ!」

 ダメだこの二人。


「ま、とりあえず朝食にしよっか」

 時間もないし、全員分の目玉焼きを用意するぐらいでいっか。

「氷凍、手伝って」

「あ、はい」

 現状で一番家事スキルが高い氷凍は家では貴重な戦力だ。……というより、唯一家事を行えるのが氷凍なだけなんだけどね。

 他のみんなはそのうち覚えてくればいいや。

 ……覚えてくれるかなぁ?





「でだ、恒例の朝食会議なんだけど」

 別に朝食だけじゃなくてご飯時は大抵会議になるけどね。

「ひとつ、今までの事を考えてみてわかったことがある」

 リュウの推理はあてにならないから聞き流す程度でいいだろう。

「まず、あの夕方頃に湧く妖怪達だけど、狙いは間違いなく十二式神だ」

 湧くって……モンスターとか虫みたいだな。


「それについてはわしも同じ意見じゃ」

「蛍さんが同意するのなら信憑性は高いかな……」

「ちょっと待って、どうして僕の推理はそんなに信用ないの!?」

 リュウのやつめ、何をわかりきったことを。

「バカだからさ」

「君にだけは言われたくないよ!?」

「僕だってリュウにだけは言われたくないよ!?」

「醜い争いじゃな……」


「やはりそうか。奴らが群がっている所に式神がいるということにもなる。つまり逆に利用しようという事だな」

 アルテもリュウや蛍さんと同意見みたいだ。ま、僕ももうちょっと時間があれば気付いたけどね? 当然だよね?

「わらわのところにもあの忌々しい獣どもが群がってきておったからな」

「そういうことになるだろうね。しかも数が多い分あっちのほうが捜索能力も上だろう」

 確かに、あれってなんか猟犬軍団って感じだもんね。

 ……犬っぽくないのも混じってたけど。

「じゃが、今夜は恐らく奴らは現れんだろうのぅ」

「え? どうしてそんな事がわかるの?」

 雨が降るとか?

「昨日あれだけ倒したんじゃ、そうすぐに態勢を立て直せるとは思えん」

「でも、あれって集めるの簡単だって敵さんが言ってたよ」

「確かに集める事は簡単じゃろうが、それでも昨日倒した数をすぐに補充するのは無理じゃ。長くて一週間、短くて二日は安心だろう」

 七日と二日は結構な幅があると思うんだけど。


「じゃあ今夜は久々にゆっくりできるんだね!」

 いや、スザクは普段からものすごいゆっくりしてると思うんだけど……。

 むしろ遊んでる以外の姿を見たことないような。子供としては正解だけど、こいつの実年齢は700歳越えである。

「まぁ夕方になっても現われなかったら、襲撃はないだろうね」

 結局その時まではわからないってことか。

「ここのところ奴らが現れるおかげで町に出るその他の悪妖は数が減ってきて、わしは楽ができていたのじゃがの。なんとも微妙な気分じゃ」

 最初の頃は家にいない時間の方が多かったからね。

「そういうわけで時間が空いた分、手も空いた。何か手伝うことがあったら遠慮なく言ってくれ」

 手伝うこと……かぁ。


「そういえば、今日はみんなに色々とやってほしいことがあるんだけど。おつかいとか家事とか」

「おつかいというと例えば何をじゃ?」

「冷蔵庫、炊飯器、その他フライパンとかの調理器具、あと食糧」

「おつかいで冷蔵庫を買いに行かせるとは、お主とんでもない男じゃな」

「いやぁ、だって冷蔵庫とか一つだけだと絶対足りないし……」

「それもそうじゃな」

「ならば、冷蔵庫と炊飯器はわしが見てこよう。こう見えて家電には詳しいのじゃ。荷物持ちとしてせせらぎを借りていくぞ」

「何!? 今俺の出番が回ってきたような気がする」

「うん、回ってきたから頑張って。蛍さん、手綱はしっかり握っててね」

 じゃじゃ馬だから。

「うむ、任せるのじゃ。あとで予算だけ教えてくれ」

 しかし、蛍さんってギャップだらけな人だな。家電に詳しいって……。

 絶対ガラスの事とかギヤマンって呼んでそうな性格だと思ってたのに。


「じゃー、食糧は氷凍にお願いしようかな」

「あ、はい。わかりました」

 恐らくこのメンバーの中で一番まともな思考を持ってるからなぁ。

 テンちゃんやアルテもしっかりしてるけど、絶対余計なものまで買ってくるし。それも大量に。

 アロはそもそもレジを突破できないし、同じ理由により晩霞も削除。

「そうだなぁ。じゃ、荷物持ちでスザクも付いていって。ただし、お菓子は一個までだ」

「うん、わかったよ」

「というわけで、あと買いたかった調理器具は僕が一人で見てくるよ」

 フライパンとか鍋ぐらいなら、何とか一人で持てる……と思う。

 無理だったらバスを使おう。一人分の料金なんてたかが知れてるし。

 運が良ければいい時間で来るかもしれない。


「孔弌、俺は何をすればいいんだ」

「あー、秋月は自宅の警備でもしてて」

 しっかりものだけど、どっかうっかりしてるというかなんというか。とにかく買いものとかは得意そうじゃないからなぁ。

「あぁわかった。命をかけて任務を全うしよう」

 うわぁ、すごいやる気。ちょっと罪悪感が……。

「アロは、カルピスを飲んだ時に口の中に出現するあの変な物体について調べておいて」

 実はずっと前から気になってたんだよ。

「は、はい。わ、わかりましたっ……!」

「あ、いや、冗談だからね。普通にチコの面倒見ながら適度に廊下の掃除でもしてて」

「あ……はい」


「孔弌君、僕は」

「リュウは何もしないで。呼吸とかの生命活動も」

 妖怪に呼吸が必要なのかは知らないけど。

「君は僕に対してものすごく冷たいね」

「いや流石に冗談だけどさ」

「まぁいいけどね。どちらにしろ、今日は宅配便が届くから家に居なくちゃいけないから」

「完全に自分の家だと思ってるな……」

 送り先の住所をここに指定する辺り、なんというすごいふてぶてしさ。

 ていうか宅配便って何だ!? 何を注文したんだ!?

 と、リュウになんか構ってないで次の指示は……。


「麗姫は、居間の掃除でもしてて」

「めんどうだからいやじゃ。そもそもそなた、わらわに命令など……」

「じゃ、部屋でゆっくりしてて」

「うむ、しかと心得た」

 返事はえぇ……。

「テンちゃんとアルテは晩霞と一緒に晩霞の部屋を準備してて」

「うむ、了解した」

「……わかった」

 ふぅ、とりあえずはこんなもんでいいだろう。

「見事な采配だな、孔弌。皆の特徴を理解した上での巧妙な配役だ」

 ただ単に適材適所にあてはめただけなんだけど。

 しかもさりげなく部屋でゆっくりしてるだけの御方もいるわけで。



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