「目覚め」
…………………。
「ふふっ」
誰かの、声……?
んー、まだ眠っていたいんだけどなぁ……。
寝ぼけた目を少し開くとぼんやりと人影が目に入る。やっぱり誰かがいる……。
「んー……誰……?」
「あ、起きた?」
ごしごしと目をこすって改めて視線を定める。
「……おはよう、孔弌」
「あ、トマトさん」
トマトさんが僕を覗きこんでる。……なんでこの人がここにいるんだっけ?
えっと、えっと、あっ! そうだそうだ!
「トマトさん、もう体はいいの?」
「え? うん、もう平気だよ」
とにかく僕も身を起こす。よっこらせっと。
「孔弌、それ何?」
「……ん?」
トマトさんが、僕のお腹を指さす。そういえば何か違和感が。
はて、僕は何かを抱きしめているみたいだな。
抱き枕を購入した覚えはないんだけどなぁ。どうでもいいけどあれ意外と高いんだよ。
「辞典と…………えっと、いやらしい本……?」
「え? えぇ!?」
なんで僕は漢和辞典とエロ本(二冊)を抱いて寝てるんだ!?
「いや、先に言っておくけど別に僕は辞典やエロ本を抱き枕にして寝るなんて趣味は持ち合わせてないからね?」
辞典も十分やばいけど、エロ本ももちろん危ない。
抱いて寝るなんて、下手をすれば枕の下にエロ本を入れておくとか、そういうのより危ない奴だ。
しかもこの三冊を文字通り抱き合わせて寝ていたなんて。
「ふーん。孔弌、そういうのが好きなんだ。濡れてるのが……」
はぁ、とにかくこれじゃ昨夜のテンちゃん&アルテとのやりとりの続きだよ。
「でも、趣味は人それぞれだから。大丈夫、私は気にしないよ」
うわっ、しかもエロ本の趣味をフォローされた。
やっぱり変わってるのか? 確かに内容はマニアックだけど……これを嫌いな男はいないはずだ。
いや、そもそもがテーマや統一性のある本自体がすでにマニアックなのか?
くそっ、そりゃ僕だって買うときは人生最大の勇気を発揮したさ。
でも、そんなにダメなのか? ウェット趣味はダメなのかっ!?
……ふぅ、落ち着こうじゃないか。冷静になれ、僕。話し合いでは冷静さが最も大切だ。
「あのさ、話変わるけどいい?」
いつまでもこんなバカな事を考えてても仕方ない。
今はそんな事より聞かなければいけないことがたくさんあるはずだ。
「何?」
「カニの甲羅についてる黒いつぶの正体って何かわかる?」
「あ、え? ごめん。わからない……かな」
ってうわぁ、僕は何て意味のわからない質問をしているんだ。
そうじゃない、そうじゃないだろ僕。
「あのさ……トマトさんは十二式神の騰蛇の位なんだよね?」
昨日の激しい戦い。そしてそれが終った後の驚き。そう、騰蛇の位こそがトマトさんの正体だった。
「……うん」
僕の問いかけに申し訳なさそうに頷くトマトさん。
「騙してたみたいでごめん孔弌……」
「あー、別にそんなこと気にしてないから大丈夫だよ」
普通自分を狙ってるかもしれない男にそう簡単には正体教えないよなぁ。
「あのさ、一つだけ聞いていい? 念のため確認しておこうと思うんだけど」
「……何?」
とりあえず今はひとつだけ確認しておかないといけないことがある……と思う!
「トマトンって呼んでいい?」
「え? えっとぉ、孔弌がそうしたいなら」
「ふむ……って、何がふむなんだ、僕よ!?」
「?」
ふぅ危ない。ノリツッコミしなかったら死ぬ所だった。
「孔弌、あの、落ち着いて」
「うん。大丈夫だよ、恐らく」
「な、ならいいけど……本当に大丈夫?」
よし、じゃ、改めて質問を。
「あのね、その、トマトさんは僕達の敵なの?」
「……敵? わからないけど、私はできることなら孔弌の敵にはなりたくない。孔弌は、どうしてそんな事を聞くの?」
「どうしてって……昨日普通に僕達の事消し炭にしようとしたじゃないか」
実際リュウは消し炭になってたし。そういえばスザクの時といい、リュウは火で酷い目にあう確率が高いな。
それから少し忘れかけてたけど、そのリュウを助けだした氷凍は結局無事だったんだろうか。
と、いけない。今はそんな事よりトマトさんの事に集中しないと。
「ぁ……えっと、それは……あのね」
「うん」
「私、戦いになると自分がよくわからなくなるみたいで……。それで周りが見えなくなって、力を抑えられなくなるんだ……。ごめん……」
アルテの言っていたとおりだな……戦いになると高揚して忘我するって。
「あ、別に謝らなくてもいいよ。正気じゃなかったんでしょ? それに僕だってトマトさんを傷つけちゃったし」
調子に乗って、皮膚に刀刺して疾走してたからなぁ、なんてひどいやつなんだ僕は。
「孔弌にキズものにされた」
「その表現は誤解を招くから二度と使わないでね?」
みんなに聞かれるとまずい。それこそ本当に色々と。下手をすると僕の命まで関わってくるから困る。
「で、正気を失う直前までは何してたの?」
「夜たまたま町外れを歩いてたら、孔弌とアロが橋で妖怪に襲われてて、助けようと思って……」
あぁ一昨日の橋での戦闘の時か。
それであのピンチのナイスタイミングで大蛇が現れたわけか。
「でも、そこからのことあんまり覚えてない。うっすらと、闘ってたのは覚えてるけど……」
「で、気づいたらここで寝てたんだね」
「……うん」
とにかく、トマトさんの性格は本人に聞くよりあとで改めてアルテや麗姫に聞いた方がいいかもしれないな。
「まぁ何にしろ暴走体質ってことはわかった」
巨大人型兵器みたいなもんでしょ?
「何考えてるかわからないけど、違うと思う……」
「まぁそっちの事情は大体わかった。それでさ、今度はちょっと僕の頼み聞いてくれる?」
「……頼み?」
「うん。あのさ、君さえよければ僕の式神になってほしいんだけど」
「式神……? 孔弌の……? で、でもそんなの無理だよ……私達は普通の人には大き過ぎるし。それに、私達は悪事を働くように強い命令を根底に抱えてるから、その迷惑もかかるし、特に私は……」
想定通りの反応だ。開口一番は、普通の人には無理だよ。この一言に尽きるね!
「そういう細かい事は置いておいて、とにかく僕の式神になってもいいのか嫌なのかだけ聞かせてよ」
「えっと……私孔弌の事は気に入ってる。孔弌の使い魔にならなってもいいと思ってるよ」
「よしっ、それなら決定だ!」
「決定?」
「今から君に名前をつける。トメイトゥと晩霞、どっちのほうがいい?」
「えと…………晩霞」
「よし、君の名前は今日から晩霞だ!」
ブワンという音と共に風が巻き起こり、真っ赤な光が部屋を満たしていく。
この部屋外から見ると、やっぱりものすごく光って見えるのかな。
そのうち光が収まってようやく落ち着く。
「孔弌……今のって?」
「ん、これで君は僕の式神だよ。これからよろしくね晩霞」
「え? え?」
「僕の式神になれば別に悪い事しなくても苦しくなったりしないから、これで晩霞もあんな奇行(トマトジュース&コップ破壊)をしないですむよ!」
「あれ、本当だ……すごい、こんなにも体が澄んでる……」
さっきまでは淀んでたのっ!?
「それは、まぁいいや。じゃ次は自己紹介にいこう!」
「え? 自己紹介って、孔弌は私の事知ってるでしょ?」
「違うよ、みんなにだよ。だって晩霞は、みんなとは話し合ったことないんでしょ?」
「みんな?」
戸惑う晩霞の手を引いて、部屋を飛び出す。
目指すは食卓……そろそろ朝食の時間だ。
そう、餓えた狼どもが食事処に集まってくる時間さね!
「というわけで、命名『晩霞』」
蛍さん以外の皆が揃った食卓で名前を発表する。
それにしてもこの光景、まるで赤ちゃんに名前を付けるときみたいだな……。
「え、えっと……その、これって」
一方の晩霞はまだ現状を理解できていないのか、戸惑っている。
「孔弌の式神って十二式神の事だったの?」
「そうだよ」
「驚いた。道理で大きな力を持った式神だと思った……天奈もアロも私と同じ式神だったんだね」
そういえばテンちゃんやアロとは会ってたな。
「元同僚だというのに、お互いに出会っていて気付かないとは。嘆かわしい事だ」
まとめ役のアルテがやれやれと首を振ると、テンちゃん・アロが気まずそうにそれぞれ明後日の方向へと視線を向ける。
「じゃ、孔弌は私達十二式神を自分の式神にしていってるの?」
気付かれなかった事は全く気にせず、晩霞が質問を重ねてくる。
「まぁ、そうなるね」
「どうして?」
どうして……か。
昨日も同じようなこと言った気がするけど。
最初はテンちゃんが封印されるのが嫌で、自分の式神にして……。
それから、リュウの頼みで町を守るために式神捜しを手伝っていくうちに、むしろみんなを自分の式神にするのが目的みたいになっちゃってたからなぁ。
「危ない妖怪だって言ってみんなが封印されちゃうのが嫌だし、それに僕がみんなと暮らしたいからかな」
他人を思いやっているようで、酷くエゴに聞こえるセリフになってしまった。
まぁあながち間違ってないのかもしれないのか。
「なし崩し的に命を奪い合う戦いに巻き込まれているんだがなぁ、自覚しているのか?」
「確かにそうかもしれないけど、なんかなぁ……」
戦いに緊張感がないせいで、いまいちそんなすごいものに思えないというか。いや、命が危ないのはわかるよ?
「お人よしなのか、バカなのか」
「「後半だな」」
みんなの声が美しく揃った。
ふんっ、この阿保孔弌、もはやそのぐらいのことで傷つくやわなハートは持ち合わせておらぬっ。
「まー、いいんじゃねぇか? 俺はこうしてここにいるのが結構気に入ってる」
なんて威勢よく笑うセラに、横にいたスザクも同調する。
「そうだね、僕も前よりは絶対今の方が楽しい」
「……スザクは遊ぶものが沢山あるからだと思う」
「そんなことないよ、兄ちゃんの事も好きだよ」
参ったな、ショタから告白されちまったぜ。
「俺も悪い気はしないな」
男性陣から熱い言葉はどう捕らえればいいのか……。
「ははっ、モテモテじゃないか孔弌。当然私もお前の事を気に入っているぞ」
「わらわはただ命を救われた恩をだな」
「わ、わたしは……」
おーおー、みんなさんざんな事を言ってくれるね。
「言うタイミングを逃しました……僕は結局どこにいてもこういう役ですね」
ボソボソと声がしたほうをみると氷凍がいる。
「あ、氷凍、昨日は大丈夫だった?」
リュウを助けに行ってどうなったのか結構気になってたんだけど。
「はい、危ない所でしたが何とか。でも、誰も僕の事を気にしなかったんですね、ふふふ、ふふふふふ」
うわっ、すごいダウナ―オーラが……。
こいつは、これ以上つつかないほうがいいな。
「それにしても騰蛇の位まで手懐けるとはね……」
なんか猛獣みたいな扱いだね。いや、大蛇だし猛獣みたいなものか。
「これだけの戦力が集まれば日本沈没ぐらいできるね……ふふふ」
これが神の発言だよ? あと日本沈没ができるってことも流石に冗談だと思いたい。
「とんだ隠し兵器を手に入れたよ。残り三体、頑張ってくれよ孔弌君」
「なんかリュウのために頑張るみたいで嫌だなぁ……」
そりゃ元々は神の手伝いってことだから、つまりリュウのためにやってるみたいなもんだけど、それでもなぁ。




