「回収」
「よし、これでも、喰らえぇ!」
頭に辿り着いたところで、後頭部? に少しだけ刃をたてる。
これから仲間になってくれるかもしれない人を流石に本気で切裂くことはできない。
それから目を突くって言うのはもっと無理……僕には度胸がないや。
これぐらいじゃくたばらないと思うけど完全に倒すのが目的じゃない、まずは頭を冷やしてもらう。
――キシャアァァッ!
まるでドラゴンのように、炎でできた羽を大きく広げて、そのまますごい炎が発せられる。
今までの牽制とかとは、違う、本当に騰蛇の口から炎の海が出てくるような……。
うわ、これ、みんなは平気だよね。あとグラウンド大丈夫かなぁ……。
「この熱風……これが最後のチャンスだ」
「えぇ、この攻撃に紛れて撤退しましょう」
「そう簡単に逃げられると思ってもらっては困るのぅ」
「…………描禰古末神ッ!」
「お主らには今回の件の重要参考人としておとなしく捕まってもらおうかのぅ」
「沙羅、お前はもういらない。ここで命をかけて私達を逃がせ。ただで逃げ帰ってきたら命はないと思え!」
「な、お主ら正気か? 仲間を見捨てるというのか!」
「仲間? 笑わせる!」
「……くぅ、おぬしも! おぬし仲間に捨てられておるのじゃぞ?」
「………………」
「あなたみたいな化け物から無事逃げきるためにこの程度の犠牲で済むのは幸運ですね、頼みましたよ沙羅さん」
やっと火炎の波が収まった。しかもどうやらその火炎で、あの雑魚妖怪達はほとんど消えてるみたいだ。
うーん、意思のない邪念の塊だとか言ってもあれが一瞬で消え去る光景はあまり気持ちがいいものではないかも……。
「……孔弌ッ!」
「え?」
気づいたときにはもう遅かった。鈍い痛みが体を襲う。
「…………いっつぅ」
フワッと体が浮いたかと思ったら地面に叩きつけられた。
尻尾ではたき落とされたのかな……。
そして蛇はそのまま僕に向かって紅蓮で満たされた口を開く。
――キシャアアッ
大火傷を覚悟した瞬間、目の前まで迫っていた炎が消え去る。
「はー、暑苦しくてかなわぬ……」
「大丈夫か、孔弌」
「アルテ、麗姫、大丈夫だった?」
「あぁ、奴らにはさっきの火炎攻撃に乗じて逃げられてしまった」
「忌々しい奴らだのう」
「……孔弌、大丈夫?」
上空からテンちゃん達も降りてくる。
「よかった、テンちゃん達も無事なんだ」
空の方は被害少なそうだったからね。
「こっちも片付いたぜ」
「というよりも先ほどの攻撃で敵が壊滅した」
「わしのほうも、色々とあったが一応は一段落ついた」
セラと秋月、それに蛍さんもきた。
これで残ったのは僕達と騰蛇だけになったってことか。
「よし、それなら、今からみんなで総攻撃。騰蛇を止めよう!」
「具体的にはどうするのだ。何か綿密な作戦があるのか」
「全力一斉攻撃」
大体ゲームのボスってのは、フィニッシュは全力一斉攻撃で決まってるもんだし。
「ふふっ、まぁ私達はお前の指示に従う」
「まず遠距離で最大放射、それから一気に接近して叩く」
「流石孔弌だぜ、攻めの美学を心得てやがる」
いや、それはよくわかんないけどね。
でも、もうあれを倒すには力技しかないんじゃないかなぁ……。
「よし、それじゃまずは最高の一撃をたたき込もう! でもお願いだから騰蛇さんへの手加減は忘れないで」
僕がそう言うと、みんなが蛇の方を向く。
「うはは、このメンバーで全力攻撃なんて、町が消し飛ぶぞ」
「そうならないように、最低限の加減も怠るな」
「わかってるぜ! 限りなく全開に近い、最高の手加減攻撃だな。急所は外してやるよ!」
「それじゃ、いくよ、せーの!」
僕の号令に合わせてみんなからそれぞれ光が飛び出していく。
攻撃は騰蛇さんに集中して当たって、そのまま爆発……。
まぁ生きてるよね……一応急所は外すとか言ってたし。
蛇の急所なんてどこか知らないけど。
おおきな蛇がそのまま地面に墜落する。
「どうやら追い討ちをかける必要はなさそうだな」
「昔はとても手に負えなんだ騰蛇を、この少ない人員で落とすとはな……ふふふっ」
それは単にメンバーの質がよかっただけなんじゃ……。
「まぁ、とにかく様子を見に行こうよ」
校庭の隅に落ちた巨大な蛇の元に向かう。
一瞬、まともに目を開けていられないぐらいの光が僕の目に入ってきた。
「アルテ、あれは?」
突然騰蛇さんの体が光り出した。
「ふむ、人型をとるみたいだな」
ま、とにかくあの光の元に急がないとね。
そして、光が収まったところを見ると……。
「う……うぅ……」
見慣れた人がそこに転がっていた。
「トマトさん……!?」
なんでトマトさんがここに倒れてるの?
「トマトさん? こいつがお前の言っていたトマトなのか?」
「うん。そうだよ」
「孔弌、こいつこそさっきまでここらを火の海にしていた十二式神最強の妖怪騰蛇の位だ」
「な、え、トマトさんが騰蛇の……位?」
「あぁ」
ん~
…………えぇい!
「そんなことはともかく、この人連れて帰ろっか」
大分体力も消耗してるし(まぁ消耗させたのは主に僕たちなんだけど)休ませないといけない。
それに起きない事には詳しい話も聞けないしね。
「孔弌」
「ん? どうしたの蛍さん」
「実はな、わしのほうでもちと……」
と、そこでようやく蛍さんが何かを背負ってる事に気付いた。
「捕まえたんじゃが、処遇をどうしようかと思っての。一応お主の意見も聞いておきたい」
「あ、この子……」
蛍さんの背中のボロボロなこれは……。
あの三人組の一人の二口女の子だ。
「どうも命を捨てて自分たちを逃がすようにという命令を受けたようでの、あの火炎の中わしの足止めを」
「え、じゃその子おとり役だったの?」
「ん……というよりも最初からこやつは捨て駒に近いものだったらしい。
「まぁ命を擲たぬばわしを止めるなど無理じゃがな、ふふん♪」
おいおい、さりげなくナルシー入ってるよ……いや確かに事実だけどね。
「……か……んせぃ……、先、生」
「なんかうわ言を呟いてるんだけど」
「うむ、先ほどから先生先生とな」
わけわかんないな……。
楽しい夢でも見てるのかな……美人先生"達"(←重要)に迫られる夢とか。
とにかく、トマトさんの事とかこの子の事とかで今夜は考えることが多そうだ。
「はぁ、トマトさんは部屋に寝かせてきたよ」
昨夜に引き続きまたもや僕のベッドが占領された。
「そうか。まぁあの様子では朝までは目が覚めないだろうし……覚めたところで激しい運動もできないだろう」
「全力攻撃で徹底的に痛めつけちゃったからね……」
「んー、そう気落ちするな。私もあれは最高だったと思うし、むしろあの程度で済むとはあいつも大した頑丈さだ」
「あの人が、騰蛇の位……」
「あー、そういえばアロも前に会ったことあったね」
あとテンちゃんも。
「でもまぁ、確かにあの人が式神だったなら今までの奇行も色々と辻褄があってきたりするからね」
まず名前を名乗れなかったこと、それから妖怪に詳しい事。
喫茶店で血を吐いたこと……あれは、多分悪い事をしてないと苦しくなるから。だからグラスを割って人に迷惑をかけたら苦しみが緩和されたってところかな。
それに、この前の戦いの時にみせた強さも。
「でもどうして僕たちを襲ってきたんだろ……話してくれれば……」
別に式神も無理にしようとは思わないし。
「ふむ、それなんだがな……あいつは、その二重人格に近いような性格をしていてな……。戦闘になると我を忘れるというかなんというか……」
戦いになると夢中になってしまうってことか。
「おどおどした口調から一転、舌舐めずりをして敵を痛めつけることを楽しむ残虐な狩人になるのだ」
残虐な狩人って……。
「まぁこれは結構難しい問題だから、もう一度日を置いて話したほうがいいかもしれないな」
「でも確かに……」
戦いの時のトマトさんの様子は変だった。
「普通なら標的の前で余裕を見せるなど未熟者がすることだ」
そりゃそうだ。窮鼠猫を噛むなんて言葉もあるし。油断は駄目だ、油断は。
「だが、あいつは事実それほどの余裕があるからなぁ」
流石……最強と言われたまでのことは……ありますね!
「まぁ、あいつのことは正直後回しでいい。頭も冷えただろうし、体も動かないだろうからな。問題は……」
――ガチャッ
ノブの音と共に蛍さんが居間に入ってくる。
「こちらも、すぐには目を覚ましそうにはないのぅ」
あの二口女……あいつらが沙羅って呼んでた子は蛍さんが監視することになった。
生憎、一般家庭……ではないけど、それでも一般に近い我が家には、残念ながら捕虜を捕まえておく座敷牢なんかないからね。
「わしの部屋にはかなり強固な結界を張っておいた。仮に破ったとしてもすぐに追いつける」
「結局、どっちも詳しい事は明日になりそうだね」
本人達の目が覚めない事には、どうしようもないからなぁ。
「そうだな、まぁそういうことで今日は解散としよう」
「ならば、わしは引き続き監視に戻るとしよう」
「杞憂だと思うけど、寝首をかかれないようにね」
「安心せい、こう見えてもわしは結構硬い」
どういうことだ、刃物が通らないくらい皮膚がすごいってことなのか?
「兄ちゃんは自分の心配したら?」
自分の心配……?
「あぁそっか。僕は今日もベッド使えないから布団で寝ることになるのかな」
「そうなると寝首をかかれるかもしれないのは、兄ちゃんになるんだけどね……」
無防備に寝てたら殺されるって事?
「それは大丈夫なんじゃないかな」
トマトさんがそんな事するとは思えないし。
「え、でもあの騰蛇の位だよ?」
「平気だよ。それに結局は誰か側にいないといけないでしょ?」
「監視と添い寝は違うんだがな……」
「あのね、添い寝なんてしないから……」
どうしてすぐにそういう方向に話を持っていこうとするんだ?
昨日と同じように隣に布団を出して、そこで寝るだけなのに。
「ま、とにかくわしは一旦部屋に戻る。何かあれば知らせてくれ」
蛍さんが出て行ったあと、入れ替わりでリュウが入ってきた。
「た、ただいま……。みんな、置いて行くなんてひどいじゃないか」
あー、すっかり忘れてた……。
「まったく、服も髪も燃えるし、妖怪達に[ruby text="たらい"]盥[ruby text="まわ"]回しにされてボロボロにされるし……」
「いや、あの、ほんとごめん」
そういえば、戦いの間もずっと放置してたな……。
「まったく、氷凍君がいなかったら僕は今頃……」
……氷凍?
「そういえば、氷凍も見てないけど……どうしたの?」
「氷凍君は、君たちが戦っている間唯一僕の事を気にかけてくれていて、それで……いや、この話はよそうか」
「氷凍の身に何があったの!? 今氷凍がいないことに何か関係あることだったりする!?」
「優しさは時として己を滅ぼす。だけど、その優しさで救える人がいるのなら、僕は自分を犠牲にしてでも戦うよ」
なんなんだ、この意味深なセリフは……。
「とにかく、テレビに間に合ってよかった」
氷凍<録画予約してあるテレビ番組
もうちょっと氷凍の事気にしたほうがいいんじゃ……。
「孔弌君、時というものは不可逆とい法術の大原則があってだね、起こったことは、もうどうしようもない」
リュウにかっこつけて諭されると、不愉快だ……。
「ふむ。普段はあんまり気にならぬが、いないとそれはそれで困る」
流石リーダー麗姫。なんだかんだと心配してるんだ。
「使いの者がいないといちいち面倒事が増えるではないか」
パシリが一人減った程度にしか考えてない!?
「兄ちゃん、今のうちにお風呂に入ってこようよ」
「スザク、確かに僕は疲れた。早くあったかいお風呂に浸かって床に入りたい。でも、氷凍も今頃同じ事を思ってると思うんだ」
僕だけそんなに呑気にしてていいんだろうか。一応トマトさんの様子も看てないといけないし。
「そんなに心配すんなよ孔弌。お前はどうも心配性だ。お前が思ってるよりも俺達は頑丈だぜ」
「そー、そー」
確かに氷凍もあれでかなり強い妖怪らしいからね。どうしてだか信じられないけど。
「湯浴みか。ならば、俺も付き合おう」
「えー、みんながいくなら僕も行くよ?」
リュウ、君の中では
氷凍<テレビ<風呂
な、わけか。
「それならば……私も」
「……ボクも行きたい」
「いや……それは勘弁してください。性別的にちょっと」
「そうだそうだ。男だけの熱い付き合いを邪魔するんじゃねぇ」
いや、その言い方もどうかと思うけどなぁ。
「別に公共施設ではないのだから混浴でも問題ないだろう? そもそも江戸時代まではずっと混浴だったらしいではないか」
江戸時代すげぇ。タイムスリップしたい、タイムスリップしたい!
「孔弌君、時というものは不可逆なんだよ」
「というか、アルテやテンちゃんはどうしてそんな執拗に僕を風呂に誘おうとするの?」
まぁ、からかってるだけだろうけどね……。
「無論お前をその気にさせるためだ」
ほらね?
「む、やけに余裕だな。面白くない」
「まぁとにかく女の子は入ってきちゃだめだからね? あ、あと僕がいない間一応トマトさんの様子も見ておいて」
不承不承といった感じで頷く二人。




