「ハッハーッ! 街に繰り出してトマト狩りだぜぇ!」
「…………なんというか。とりあえず孔弌、式神の確保ご苦労だった」
頭を押さえたくなる気持ちはわかるけど、現実を受け入れて。
「なぜか全裸でドクドク血を流しているソレは、気にしない方がいいのだな」
流石アルテ、上手く場の空気を読んだぞ。
「……う~、ボクもついていきたかった……」
テンちゃん、今回はむしろハズレくじを引いた事を幸運に思うべきだよ。
この変態と肩を並べて町を歩く羽目になっていたんだからね。
「僕の服を切り刻んだのは君なのに……」
「まったく。なぜわらわのおらぬ時にゆくのだ」
「お前が私に喧嘩を売ってきたからだろ」
「何、元はと言えばそなたが……」
この二人はホント……。
でもま、二人とも怪我とかはしてないみたいだし、本当にじゃれ合いなんだな。
「……おい、〝ほとんど"いるじゃないか」
「あぁ、上にまだ空き部屋があるから、お前も自分の部屋を決めて来い」
「どうしてお前が偉そうなのだ……まぁいいか」
「あ、庭にある俺お手製の訓練所は別に使うのに許可はいらないぜ。俺達仲間だからな」
「だから、どうしてお前が偉そうなのだ? ここの家主は孔弌なのだろ」
しかも正確にはセラと氷凍お手製のアスレチックだしね。
「孔弌さん、そろそろ昼食の準備をしますね」
「あー、もうそんな時間か」
いつの間にか十一時過ぎか……。
「じゃ、僕も手伝うよ」
「あ、はい」
「僕さっきたこ焼き食べたから、もう少し待ってから食事にしないか?」
「僕も僕も」
「人のお金を勝手に使うなんて最低だよ!」
まったく、少し目を離したすきにいなくなってるんだもんな……。
「わかった。次は君の分も忘れずに買っておく」
「その前に、金貸してとかおごってぐらい言ってよ!」
盗人猛々しい……とはちょっと違うのかな。
さて、腹ごしらえもすんだし……。
「僕、ちょっと出かけてくるから」
「何か用事があるのかい?」
「うん、ちょっとね。トマトさんに会いたいなぁと思って」
本当は昨日にでも行きたかったんだけど、怪我で外出禁止にされてたからなぁ。
それに今朝もなんだかんだで色々あったし。
「そのトマトさんは、どこにいるかわかるのかい?」
「いや、わかんないけどブラブラ歩いてたら高確率でエンカウントするから多分大丈夫だと思う。正直あのエンカウント率はバグだね、そのぐらいよく出会うよ」
「黄金の爪をとったあとにやたら出てくる雑魚mobみたいなものかい?」
「随分と狙いを絞ったネタを出してくるな……」
「スザク君がプレイ中だからね。やはり防御しながらの攻撃は至高だよ」
とうとうRPGに踏み込んだかスザク……。でもいきなりバグ利用は関心しないな。
というわけでリュウを適当にあしらってすぐに家を出る。
グズグズしてたらなんだかんだで大所帯になりそうだからなぁ……。
とりあえずきちんとあの時のお礼を言って、それからあの時の事を気にしてないかそれとなく様子を見ておかないと。
僕のせいでトマトさんが傷ついてたら嫌だからなぁ。
まずはショッピングモールの方に行ってみようかな。
「って、流石にそう簡単には出会えないか……」
そりゃそうだ……。今じゃなんであの時自分が、多分大丈夫なんて根拠もない言葉を口から出したのかすらわからない。
「無目的に町をうろうろするのって想像以上に疲れるな……」
いや、むしろ中途半端なんだ。目的地はないけど目的があるってのが辛いのかなぁ……。
普段は何の気なしに歩いてるのはそんなにつらくないんだけどなぁ。
「……ん?」
なんかふと、あってはならないものが視界に入ったんだけど……。
誰も気にしてないけど、人混みに紛れるように影のように黒い何かが。
「あれは……」
多分、夕方頃から町に出てくる妖怪じゃないか。どうしてこんな時間に?
えぇい、とにかくそんなことを考えてる余裕はないぞ。
あれはすごく危険だ。
なんかアルテとかアロは軽々と蹴散らしてたけど、正直僕は一匹倒すのもかなり辛い。
そんな危ない生き物(妖怪が生き物にカテゴライズされるかは知らないけど)がうろうろしてるなんて……。
とにかく、誰か襲われてからじゃ遅いから速やかに排除しないと……。
そしてあわよくば、あれを僕のペットにしてみんなを驚かしてやろうじゃないか。
『――グルルゥゥ』
「ん?」
ずっと固まったままだった黒い獣が突然視線を変えた。
その視線の先には一人の女の子が。
さてはあの獣、あの子を襲うつもりだな!
急いであの子に駆け寄ろうとした途端、案の定獣も女の子の方に向かっていく。
これはあれだな……ビーチフラッグだ。どっちが先に女の子にたどり着くか。負けられないっ!
「おぉぉぉおおお! よっしゃー、タッチダーウンッ!!」
全力疾走の僕は獣よりも早く女の子に飛びついた。
「え!? きゃ、きゃあぁぁあ!!」
ふぅ、この勝負僕の勝ちだ。
"見てみろよジャック、あの獣の屈辱に満ちた顔を! AHAHAHA!" "すごいじゃないか、流石ジョンだ!"
……僕は一人で何脳内一人二役会話をしているんだ。頭の病院捜そうかしら。
と、そんな自分につっこみを入れていると。
「……一体どういうおつもりですか?」
「……え?」
声のしたほう……つまり僕がいま押さえつけている女の子を見る。
「わかりました、死にたいのですね」
ニコリと笑った顔とは裏腹に、ゴゴゴゴゴゴという文字が女の子の背後に見える。
一瞬自分が再起不能になっている未来が頭を過ぎる。
よし、落ち着け僕、ここで選択肢を間違えると大変だ。
この作品は決して死にゲーじゃない……と思う。ただのノベル、そう、大丈夫だ。
突然理不尽な選択肢が出てきていきなり死んだりはしない……はず。
ここは落ち着いて紳士的に対応するんだ、僕! よし!
――スッ
とまずは何事もなかったかのように立ち上がる。
「いや、このような乱暴を働いて申し訳ないマドモアゼル。ですがこれには少し理由がありまして、私なりにあなたを守ろうとした結果です」
「……私を守ろうとした?」
「ウィ、掻い摘んで話しますがよく聞いてください」
「突然で驚きでしょうが、あなたは悪い存在に狙われていました。本当に危険でした。ですが、そこを間一髪、コンマの差で私が奴の野望を阻止したのです。ご理解いただけたでしょうか、マドモアゼル」
「……その悪い存在とは何でしょうか?」
「えぇ、あそこにいる黒い影です」
僕はさっきまであいつがいた所を指さす。
「……なにもいませんけど」
「あ、ホントだ」
いつの間にか獣がいなくなってる。
「……ごほん、奴ら主な活動帯は夜ですから退散したのでしょう。ま、とにかくあなたが無事でよかった」
「では、本当に私がそんな得体の知れない何かに狙われていたと仰るのですね?」
「ウィ」
よかった、僕の言い分を信じてくれたのか。やはり紳士的な態度は素晴らしい。
「そんなわけないでしょうが、このド変態っ!」
「ぐぼあっ」
み、[ruby text="みぞ"]鳩[ruby text="おち"]尾に……重い一撃が……。素晴らしいニーだ……。
気を取り直して顔を前に向けると、そこには既に第二撃が迫っていた。
「ギャアアッ!」
激しい掌底を顎にもらい僅かに体が浮き上がる。そしてそのまま華麗にコンボが決まっていく。
ていうか、僕の体が空中にフワフワ浮いてるんですけど。
すごいっ、まるで天使の技をしているみたい。
争いのない世界は素晴らしいよ、アハハ。
そして空中でもさんざ攻撃されて……。
「タァァッ!」
女の人ががっしりと僕を掴む。空中でっ!
「く、空中投げまで……!?」
だめだ、この人、完全にエリアルコンボをマスターしてる。
視点が反転して何かに引っ張られたかと思うと鈍い音が響く。
どうも地面に強く叩きつけられたらしい。
僕をボロクズのように痛めつけた女性は、余裕の態度でパンパンッと手を払って
「これに懲りたら、もう破廉恥な行動をしないことですね」
「い、いや、だから、僕は本当にね、」
「……成敗ですっ! 覚悟っ!」
それは最後の、トドメの一撃だった。
垂直に降ろされた拳は僕の内臓にとんでもないダメージを与えた。
あぁ、吐血するほど内臓に攻撃を喰らったのは初めてだよ……。
――ガクッ……。
「はぁ……」
結局あのあと、女の人はふんっとか言って去って行った。まったく、ツンデレさんめ。
残された僕はダメージが回復するまで道端で[ruby text="うずくま"]蹲っていたというわけで。
……とにかく今は命ある事に感謝しよう。
しかしながら、あの獣……ゆ゛る゛さ゛ん。
どの獣か知らないけど、今夜は問答無用で叩き伏せてやる。
とにかくまずは家に帰ろうか。
なんか今日はトマトさんには会えないような気がするし、余計なダメージも蓄積してしまったし休まないと。
明日も捜そう。うん、明日もあるじゃないか。
しばらくはここらにいるって言ってたし、ここもそう広い町じゃないからね。
明日はきっと大丈夫。そう、何事も前向きに……が一番だ。
「おや孔弌君、随分と早い帰りじゃないかい。探し人には会えたのかい?」
「いや、会えなかったよ。かわりに酷い目にあった」
「うん、それはボロボロになった君の体を見れば察しはつく。平気だったかい?」
あれ、なんか珍しくリュウがすごくいいやつに見える。
「うん、大丈夫だよ。何とか命は守ったから」
「しかし、昼間から出るとはね……」
「昼間……? 何が」
「最近、右耳にこれでもかってぐらいピアスを付けまくった変な男がここら辺に出るんだってね……。しかし、大切な孔弌君まで襲うとは……」
「何その恐ろしい変質者!? 僕は別にそんなヤバイのに襲われたわけじゃないからね!」
うぅ、身の毛もよだつ話だ。そんなのがここらをウロウロしてるなんて。
「はぁ、とにかく僕は疲れた……というより、体の節々が痛いからちょっと部屋で休んでるね」
「あぁ、わかったよ。夕飯の時に呼びに行くから」
「夕飯、僕が作らなくて大丈夫なの?」
「ん、氷凍君にでも作らせればいいだろ」
氷凍、リュウよりも下になったのか……。
これが身分社会の恐ろしい掟。
しかし、我が家にカースト制を導入した覚えはないんだけどなぁ。
冤罪で受けた体の痛みが癒える頃には、すっかり夕飯時になっていた。
「おい孔弌気をつけろ! その料理には致死量があるんだ。あまり食べ過ぎるな」
「えぇ!? 氷凍、そうなの?」
致死性があるとか、そんな危ないもの夕飯に出すなよ。
「大丈夫です孔弌さん、別に危ないものは出してませんから」
もう、秋月の冗談か。驚かせないでよ。
「何だと……。氷凍、醤油の致死量は168~1500mlなんだぞ!」
「摂取しないからね!? そんなにも醤油摂取しないから」
「孔弌、お茶切れてるみたいだからジュース飲んでいいか?」
冷蔵庫からコーラを持ってくるセラ。
ていうかコーラでお米を食べるのは……。
「コーラは200本で致死量に到達するぞ」
「な、何!? お、俺は何てとんでもないものを飲んでいたんだ!?」
いや、普通に暮らしてたらまずそんなに飲むことないから。
しかもあんたら妖怪だろ……。
「お茶がないなら一応冷蔵庫の上の段に紙パックの紅茶あるから、どうせならそっちを飲みなよ」
流石に甘い物でご飯を食べてる姿は見てる方としても嫌だ。
「孔弌、紅茶はカップ125杯で致死量に」
「うわぁ、何も飲めねぇぇぇ!」
「落ち着いてセラ、そもそも125杯分もないから!」
夕飯が終わってもリビングでうだうだと過ごすいつもの面子(僕を含む)
「さてと……録画録画」
リュウが慣れた手つきでテレビのリモコンを操る。
このテレビはHDD内臓だからテレビだけで録画とかできるらしい。僕は買ったばかりで、まだよくわかんないんだけどね。
「あ、僕も僕も」
「そういえばスザク君、君が録った番組が溜まってるんだが」
「あ、ごめん。その上の二つはもう見たから消していいよ」
「全く、容量にも際限があるんだから」
リュウだけじゃなくて、スザクも相当使いこなしてるみたいだな……。
しかも今消したその番組、『ご主人さまとの上手な付き合い方』ってなんだ!?
「あ、その横の私が昨日録った番組は消さないでくれよ」
「へぇ、アルテもテレビ録画なんてしてたんだ」
「うむ、昨日丁度面白い番組を見つけてな、天奈と一緒に見ていたのだ。それで、あまりにも面白かったからみんなにも見てもらいたいので、消されるのは困る」
アルテがそこまで推す番組ってなんだろ、ちょっと気になるな。
「でも、なんでそんな頻繁に録画してるの?」
容量がいっぱいになるまで使ってるなんて。
「いや、ほら、ここのところ毎日小競り合いで忙しいからね」
あー、そっか。確かに家を留守にする時間多いからな。
しかも六時半~八時。
「なんでよりにもよってゴールデンタイムにやってくるんだよ……まったく」
それ以外の時間なら構わないのかな……。
しかもなんだかんだ言って、深夜アニメも録画してるよこいつ。
「私としては、出撃に合わせるために夕餉が早くなるのがな」
確かにアルテの意見には同意せざるを得ない。
五時に夕食というのは今までの僕の生活リズムと比べると早すぎるからなぁ。
「こんなめんどくさい相手はさっさと片付けて、面白おかしい毎日を送ろうではないか」
今も十分奇天烈な毎日だと思ってるのは、僕だけなのか……。
「僕にしたら、君たちの封印が解けた事が既にめんどくさい事件なんだけどねぇ」
「さて、そろそろ時間のようじゃのぅ」
よっこらしょっと言って立ち上がる蛍さん。
う~ん、見た目がそれなのにどうしてこんなにジジ臭いんだろ。
「……ん? 気配が遠ざかっていったようじゃが……」
気配って、ということは敵が近くまで来てたってことだろうか。
「気配なんて、全く感じなかったや……」
「それは、お主の経験不足じゃ」
ごもっともです。
「あー、みんな聞いてくれ」
こほん、と咳ばらいをひとつして。
「どうも騰蛇の位が出たらしい。場所は近くの小学校だ」
騰蛇……昨日のすさまじいあの光景が僕の脳裏に蘇る。
今日はカメラ忘れないようにしないと。
「町に出てた獣もほとんどがそこに向かってるらしい」
「ご町内三つ巴の総力戦じゃのぅ」
そんな気楽に言われるとなぁ……ボーナス時期の電気屋の特売競争じゃないんだから。




