「犬猿の二人」
「食卓も随分と賑やかになってきたねぇ」
しみじみとそんな事をいうリュウは、嬉しそうだ。
まぁなんだかんだ言って騒ぐのとか好きそうだし。
「……最初は、ボクと孔弌だけだった」
「ま、本当に最初の日だけね」
たまたまリュウがいなかっただけで、しかも次の日にはスザクと蛍さんも家に住み始めたし。
「ほぅ、天奈が最初に孔弌の式神となったのか」
麗姫も何とか溶け込んでくれたみたいでよかった。
「……ん」
「なるほど……して、そのあとはどのような順に式神になったのだ」
順番かぁ。
「確か、そのあとすぐにスザクで、アルテ、アロ、セラ、氷凍かなぁ」
「ふむ……」
「……今気付いたんだが、最初お前はよく一人で天奈を式神にできたな。天奈はこれでなかなか強い。それこそ並の妖怪が束になっても敵わない程にな。対するお前は今と違い自分だけで戦う力もなかっただろうに」
「う~ん、まぁ確かに。でも、テンちゃんとは普通に遊んでただけで、式神になったのはそのあとの成り行きで……」
まさか公園で寂しそうに佇んでた女の子が伝説の妖怪だったなんて……普通思わないよね。
「もし最初に出会ったのが俺だったら……」
セラがポクポクと考え始めた……絶対変なこと考えてるよ。
「今シュミレートしたら、孔弌がかなり屈強な大男になっていた。しかも何か見たことない武器を使ってたんだ……、なんなんだあれ……?」
「そのifの世界での僕の身に何があったの!?」
恐ろしくて深く聞くこともできないよ。
「ま、どのような手順があったにしろ、同じように皆集まっているのだろうな」
「そうだね、兄ちゃんといるのは面白いから!」
面白いって……。
「わはは、確かに面白いぜ。孔弌はな」
「いやいや、セラには負けるからね!?」
ここは死んでも譲るぞ。
「ここまで順調じゃと、わしが駆け付けなくとも案外なんとかなったのかもしれぬな。実際、大事な場面にはいつも出遅れておるしのう」
穏やかな笑顔で言う蛍さん。
「そんなことないよ、蛍さんが町を巡回してくれているおかげで僕たちの仕事もだいぶ楽になってるからね」
最近、昼間はあまり出ないみたいだけど、前は毎日すごく大変そうだったからなぁ。
大体、毎日三十度を超すような空の下を巡回するのって相当ハードだと思うし。
まぁ蛍さんが暑さを感じるかはわからないけど。
「もうなんか、このままぱーっと残りの式神も集まりそうだねっ!」
元々はリュウの管理責任なのに、他人事を見守るような超いい笑顔でそんなこと言われても……。
「というか当初の予定と違い、いつの間にか式神を集めるのが目的になっておるようじゃが」
「ん、まぁ正直僕も最初は興味本位だったけど、今は心から式神全員がこんな風に集まってくれたらなぁって思ってるし。もちろん相手にその気があればだけど……」
僕のちっぽけな偽善かもしれないけど、何もできない善よりはきっといいはずだ。
「ふふ、そういえばまだ青龍の位と騰蛇の位が残っておるな」
ニヤニヤしながら麗姫がどこか楽しそうに言う。
楽しそうって言っても何かこう、皮肉的な意味合いを含んでるんですけど、その話し方。
「あぁ、一筋縄ではいかない相手だなぁ」
確かに昨日のあのでっかい蛇はビックリしたけど……。
消火器とか用意しておいたほうがいいかなぁ。
「だが安心しろ孔弌、お前には私がついているではないか」
「あ、ありがと」
なんかアルテにはいつもこんな風に言われてばかりだな。もっと気を引き締めなきゃ。
……実際アルテに比べたら僕は圧倒的に弱いからなぁ。
「ふふふ、それに今となってはわらわもついておるからの。気が向いたら力を貸そうではないか」
き、気が向いたらなのか……。
「気が向いたらか。相変わらずのグータラっぷりだな」
「それでも、どこかの誰かよりは良い働きをすると思うのだがな」
「ほぅ、お前、それは私の事を言っているのか?」
あれ、なんか険悪なムードに……。
「さてな」
「知っているか? お前のようなものをこの時代の言葉では、ニート、と言うらしいぞ」
いや、それはニートの定義とは違うんじゃ……。
「お前は昔から何もしないからな。そういえば、お前はそれほど強力な妖怪としては伝えられていないらしいぞ? 何もしなかったからなぁ。世間では騰蛇の位が最強という事になっているのだぞ」
「なんだそのようなこと。わらわは他の者が決める評価などどうでもよい」
「お前はどうでもよくても、私は困るのだ」
こ、これは……やっぱり止めるのべきなのか……? でも周りを見渡してもみんな何故か止めようとしてないしなぁ。
「そもそも、なぜお前のような者が私達のリーダーになっているのか」
「そなた、喧嘩を売っておるのか?」
「……それは、お前のほうだろ」
――ザッ。
無言で睨み合ったまま立ち上がる二人……。
「あ、あのさ……」
このままじゃ僕の命と家が危なくなりそうなんだけど。
ていうか最近ちょっとしたことで生命の危機に陥ることが多々あるせいで、僕の命がどんどん軽くなっていっているような。
「安心しろ孔弌。お前を巻き込まないよう、こいつとは表で決着をつけてくる。少しの間待っていろ」
「うむ、このような者を始末するのに大層な時間はかからぬ。すぐにさまたを引き裂いてくれよう」
「い、いや、そう言う問題じゃ……」
突然、敷地内の地形が変化したりとか、そういうのはまずいし……。
そもそも喧嘩はお互いに危ないし。
そのまま僕の話を聞かずに二人は出て行った。
だ、大丈夫かなぁ……見に行ったほうがいいかなぁ。
それはそれでかなり危ないような……。
あ、でもちょっとだけなら、一キロくらい離れて双眼鏡で観戦ぐらいならしてみたいなぁ正直。
ビデオ録画してホームビデオ大賞に送るのもいいかも。
「……大丈夫。孔弌が思ってるような大変な事には、きっとならないから」
「そ、そうかなぁ」
「……うん、あの二人は昔からあぁだから」
しょっちゅう衝突してたのか。昨日は割と普通そうだったのに。
「なんか庭の方からけたたましい騒音が聞こえてくるんだけど」
「気にするな、限りなく殺し合いに近いただのじゃれ合いだ」
それってかなりやばいんじゃない!? ただのじゃれ合いじゃないでしょ!?
「おいおい、どっちもすぐにくたばるようなタマかよ」
ま、まぁ確かに……。
「だろ。天奈の言うとおり昔からずっとあぁだから気にすんな」
確かにあたふたしてるのは僕だけで、アロですら全く気に介した様子もない。
「さて、それじゃ邪魔者達もいなくなったところで……」
邪魔者達!? リュウはあの二人の事を邪魔だと思っているのか!?
こいつ、自分の事を棚に置くことにかけては天才だ! 天才はここにおったんやッ!
「十二式神らしいのが出たっていう連絡がきたから、現場に向かおうと思うんだが」
「それなら、なぜアルテと麗姫抜きで話を始めるんだ!?」
この中では最も式神達に詳しそうな二人なのに……。
「あんなに飛びぬけて強いのがいると、僕の出番が減るからね!」
最低だ! こいつ最低だ!
あ、でもリュウは別に二人がいようといまいと戦闘に関しては空気だから、意味無いんじゃ。
「さぁ、というわけで用意してみました!」
と、言ってリュウが後ろから取り出したのは……。
「くじ引きだよ」
うん、確かにくじ引きだ。
中のわからない箱に割り箸が数本。
念のため様々な角度から見てみたけど、あれはやっぱりくじ引きだろう。
「君は何故そんなにも念入りに調べているんだ……」
ふむふむ、まぁ大方中に色付と色なしのが入ってるんだな。
「というわけでこれでアタリを引いた二人+僕+孔弌君で行こう」
「全員で行けばいいんじゃないの?」
「全員だと目立つし、面倒も増えるからね」
「確かにそれもそうだけど……」
全員連れて行って、全員が全員戦うわけでもないだろうし。
あと、たこ殴りにした後に式神になれって言うのもちょっとあれだ。
後味悪そうだし。
それでも結局は四対一でやるんだよな……あ、リュウは戦力外だから三対一か。
それぐらいは、いいのかなぁ……。
あ、でもよくよく考えたら、アロの時も四人で戦ってたからなぁ。
僕しか戦ってなかったような気がしないでもないけど。
一体どの程度の人数までなら許容できるんだろう。
「と、まぁ話はこのくらいにして、早速くじ引き大会を始めようじゃないか!」
「なんでそんなに楽しそうなの」
リュウは問答無用でついてくるくせに。
「楽しみだからさ」
「そうかぁ、楽しみだからかぁ」
他人の引くくじってそこまで面白いものじゃないと思うんだけどなぁ……。
「よし、僕が一番っ!」
「よっしゃー、楽しみだぜ」
スザクとセラがすごい速さで割り箸を掴む。この二人は、ちゃんと理解してるのか?
「……ボク、頑張る」
「孔弌さん僕、やるからには全力で行きます」
まともな二人が今は救いだ。
「あ、あの……私も引くんですか……。でも私も、戦うって決めたからには……」
おずおずと手を伸ばして、震えながらくじを掴むアロ。
全員がくじを掴んだところで
「よし、じゃ一気に引いて」
アタリを引いたのは……。
「よっしゃー! 当たったぜ!」
「やったー、当たったよ兄ちゃん!」
スザクとセラか……。
頼もしいのか、頼りないのか絶妙な所だ。
でも多分、くじを引いた五人の中で一番疲れる組み合わせだとは思うけど。
…………大丈夫かなぁ。




