「麗姫、参戦!」
「はぁはぁ……」
「…………ふぅ」
何とか家の近くまで戻ってこれたけど……。
「つ、疲れたぁ……」
もう体を強化する力もないからなぁ、こうやって貴人さんを背負いながら歩くのはかなり疲れる。
対人恐怖症のアロに背負ってもらうわけにもいかないし……。
『……イチ……孔弌君!』
ん? リュウの声……。
『はいはい、リュウ?』
ようやく石が使えるようになったか……。
『あぁ、よかった。孔弌君、無事かい?』
無事……なのかなぁ……まぁ無傷ではないけど一応無事か……。
『一応無事だよ……』
『そうか、君たちの帰りが遅いから心配していたんだよ。なぜか念も届かないし』
ジャミングされてたからなぁ……。
『それで、ついさっき騰蛇の位が町を飛んでいたらしいんだけど、君たちに何か関係があるのかと思って今皆で家を出たところなんだが……』
『あぁ、うん……まぁもうすぐ着くから、詳しい事は帰ってから話すよ』
『まさか、二人でエスケープしてまぐわ……』
『してない、してない! とにかく家に戻ってて』
というわけで皆には家に戻ってもらった。
「ただいまぁ」
どうにかこうにか家まで戻ってこれた。
あとは今背負ってる貴人さんだけど……どうしよう……。
「……孔弌ぃ!」
「孔弌か?」
ホールのほうから大きな声が聞こえてくる。
「……孔弌ィ、おかえ…………!?」
居間から飛び出してきたテンちゃんが驚いたまま動きを止める。
「どうしたのテンちゃん?」
もしかして傍から見たらかなりボロボロな格好してるのかなぁ。
テンちゃんに続くように皆の声が聞こえてくる。
「あぁ、孔弌。心配したん、だ、ぞ……?」
続いて飛び出してきたアルテもどんどん声が小さくなっていく。
「貴人の位ではないか! そんなものどこで拾ってきたんだ?」
そんなゴミみたいに言わなくても。
「ま、それも含めて事情を説明するよ……。とにかくこの貴人さん、どこかに寝かせてきてからね」
というわけで貴人さんはとりあえず僕の部屋に寝かせて、そのまま居間に戻ってみんなに事情を話す。
ちなみにアロには貴人さんの看病をお願いしてある。
「ふむ……。貴人の位に、三人組に、騰蛇の位……か。なるほどな」
一通り話し終わったところでアルテが相槌を打つ。
「おぼろげだが、どうやら町にけしかけてきている妖怪達の狙いが見えてきそうだな」
「ま、そんなことより俺はとにかくお前が無事でよかったよ。うははは」
「あ~、いっ、痛い痛い」
もう、セラの力でそんなに首を絞められると……。
「でも本当に無事でよかったよ、孔弌君。普通の人間なら軽く十回くらいは命を落としたであろう出来事があったのに……」
えぇ!? そんなにやばい体験してきたの!?
「だが、孔弌の話で敵がどういう技が得意なのかはわかったな」
物質透過するハサミを使う髪切りに、小太刀を使うパジャマ姿の二口女、それから新陳代謝を低下させる針を使う変な男か。
「ふむ、確かにそれは大きいのぅ」
蛍さんはどんな相手でも瞬殺しそうだから、あんまり関係なさそうなんだけど。
「まぁお主は今日の所は部屋に戻って休むがよい。貴人の位の事もあるじゃろうし。この事についてはわしらで考えておく」
うん……正直、すごく疲れたから早くゆっくりしたいって気持ちはあるからね。
「それじゃお言葉に甘えて、先に部屋に戻っておくよ」
「うむ。あとでわしも様子を見に行こう」
「……あ」
部屋に入ると僕に気づいたアロがこっちに顔を向ける。
「やぁ、アロ。様子はどう?」
「……傷は塞ぎました。あとは目が覚めるのを……」
う~ん、はてさて、目が覚めたら覚めたでどうなるんだろうか……。
「……ぁ、あの、チコのエサを見てきてもいいですか?」
「あ、うん。アロはもうそのまま休んでもいいよ?」
「い、いえ……」
アロが部屋を出ていく。
まぁチコの事は蛍さんあたりが何とか見てそうだけど……。
「ぁ……んぅ……」
「ん……?」
「こ、ここは……どこだ」
そんな絶妙なタイミングで貴人さんが目を覚ました……。
「あ、えっと。おはよう。ここは僕の家の僕の部屋だよ」
なんかおかしい言い回しをしてしまったな……重複表現は醜い日本語の代表だからなぁ。
「……そなたは! ……ッ!」
「あ、痛いなら、まだ無理に動いちゃ駄目だよ」
それにしても貴人さんが昨日の僕と同じ状態になるとは……。
「そ、そうか。そういえばわらわは助けられたのだったな」
まぁあのオーロラとか蛇さんとかなかったら、正直無理だったから僕達だけで助けたってわけじゃないんだけどね。
「そなた、名は何と申したか」
「ん、孔弌だよ。阿保孔弌」
「……そうか」
「孔弌よ、そなた、わらわを自分の式神にしたいと申しておったな」
「あ、うん……」
まぁそれが一番の目的だからね、いつも戦いになるけど。
「ま、傷が治ったらさ……もう一度手合せしてよ。それで、もし僕の事を認めてくれるなら、式神になってほしいなぁ、なんて……」
「なってもよい」
「え?」
「だからっ……そなたを認めたから、そなたの式神になってもよいと申したのじゃっ!」
式神になってもいい? どうしてまた急に……。
いや、こっちとしては嬉しいんだけどね。
「その……なんだ、恩は返さねばいけないからな」
「あー、だからそんなに気にしないでよ」
「と、とにかくわらわは式神になることを決めたのだっ!」
まぁそういうことならもちろんなってもらうけど……。
「そなたにわらわを御すことができればの話だが……六合の位を従えて平然としておるということは……問題はないのだな?」
「まぁ多分大丈夫だとは思うけど……」
「そうか、ならばそなたをわらわの下僕にしてやろう」
あれ!? 何か話変わってない!?
「どうしたのだ? 早く使い魔の契約を」
「いや、今すごく不吉な言葉が聞こえたんだけど……」
下僕とか……。
「そのようなこと気にするでない。さ、早くするのだ」
「ん、わかったよ」
さて、となると……一体どういう名前にするか……。
「あのさ、なんか付けてほしい名前とかある?」
「名前……? なぜだ?」
「あ、えっと、僕は名前を付けるだけで式神にできるらしいから。何か希望があるなら……」
我ながら的を得ない喋り方だ……う~ん、見事。
「そうか、それならばわらわは麗しき名がよい」
麗しいって……そんなてきとうな形容詞でリクエストされても。
「そうだなぁ、それじゃ麗姫……君の名前は今日から麗姫だ」
安直だけど、なんか姫って感じするしなぁ。
「む、これは……」
僕の左手と貴人さんが光り出す。
それにしても、ま、眩しい……。
黄色の光って、すごい眩しいな……そういえばどうでもいいけど、黄色には危険や食欲を連想させる効果があるらしい。
「ふぅ……」
ようやく光が収まったところで左手を見る。
「うん、黄色か」
これで七色……。随分と目に毒な模様になってきたなぁこれ……。
しばらく見てたら酔いそうだ。
「これでよいのか?」
「うん」
「そうか、こ、これで……わらわとそなたの間には……」
――ガチャッ
「……あ、あのぅ……」
「あ、アロお帰り」
「む…………」
貴人さんとアロの目が合う。
「ぁ……」
気まずそうに眼を逸らすアロ。
「あぁ、アロ。見ての通り起きたみたいだし、今日はもう休んでいいよ」
「……あ、はい」
アロが部屋から出ていく。
「あやつもそなたの式神になったのだったな」
「あ、うん」
「ふむ…………まぁよいか」
……? 何がいいんだ?
と、その時
――ガチャッ
「おう、孔弌、大丈夫か?」
「孔弌さん、様子を見に来ました」
今度はセラと氷凍が部屋に入ってきた。
「な、大裳の位に玄武の位……」
「お、なんだ、貴人の位も元気そうじゃねぇか」
「あぁ、貴人さんはついさっき麗姫って名前になったから」
「……ん? あぁ、わかった」
セラはすぐに状況を理解したのかそれだけを返した。
まったく、頭は悪いのに察しはいいのか……。
「え?」
こっちは今だによくわかっていない氷凍。
「…………(キッ)」
そんな氷凍を一睨みする麗姫。
「……ひぃ。あ、あの、それじゃ僕、先に失礼しますね」
なんだろう、この二人の間には既に絶対に越えられない何かがあるんだろうなぁ……。
「あやつらもおぬしの式神になっておったのか……」
セラと氷凍が出ていってすぐに麗姫が口を開く。
「え、あぁ、うん」
「………………そなた、もしや」
麗姫が何か言おうとした途端トントンと部屋がノックされる。
「孔弌君? いいかい」
リュウの声がした。
「ん? どうしたの?」
――ガチャッ
扉を開けて入ってきたのは、リュウとスザクと蛍さんだ。
何というか微妙に珍しい組み合わせだな。
「やぁ、気分はどうだい貴人の位」
「そなたらは……いつぞやの鱗虫。それにあの時の猫又も……」
「僕もいるよー!」
「朱雀の位……!」
「孔弌、名前は決まったのか?」
「う、うん」
蛍さんは、何でもお見通しなのかな?
「麗姫って名前になったから。よろしくしてあげてね」
「う、うむ……」
「麗しい……か、いいねぇ。僕は麗しいものは好きだよ」
麗しいとリュウはかけ離れた存在だと思うんだけどなぁ……。
「ま、それじゃ僕たちはこの辺で失礼するよ。詳しい話はまた明日落ち着いた時にでも」
「………………」
麗姫がドアの方を見て唖然としている……。
「あ、あの、何か気になる事が?」
「…………そなた……もしや、まだ」
と、麗姫が何かを言いかけたその時
――ガチャッ
扉が開いて……って今日はこの部屋出入りが激しいな。
「……孔弌ぃ」
「わっ、テンちゃん」
「ようやく式神になったそうだな、貴人の位。いや麗姫」
今度はテンちゃんとアルテが入ってきた。
「天后の位、それに勾陣の位……!」
「お前がこうもすんなりと式神になるとはなぁ。まぁ大体の見当はついている。言っておくが、競争率は高いからな」
「………………」
「……あ、ボクの名前天奈」
「あぁ、ちなみに私はアルテだ」
「………………」
「それじゃ、詳しい話はまたあとでな。空部屋を掃除しておくから、落ち着いたら来い。行くぞ天奈」
「……うん」
「………………」
テンちゃん達が去った後、さっき以上にぼーっとする麗姫。
「…………孔弌」
「ん?」
「…………何人目だ?」
「何が?」
目的語とかを用意してくれないと意味わからないよ……。
「そなたの式神はわらわで何人目だ!」
ひぃ、そんな風に強い語調で言われるとつい怯えてしまう。
「え、えっと……七人目かな」
念のため、左手を確認するけどやっぱり七色だ。
「…………そうか」
「今日はもう疲れたゆえ、わらわはこのまま眠る」
「あ、はい」
つい敬語で応えてしまった。
はぁ、とりあえず僕も眠いしもう寝るか……。
布団を床に敷く。
「じゃ電気消すね。おやすみ」
「うむ」




