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キズナの鬼  作者: 孔雀(弱)
第1章「天后の位と近所一のバカ」
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「天奈」

 気を失ったテンちゃんをおぶる。

 まさかまたおんぶすることになるとは……予行練習しておいてよかった!

「あれ?」

 なんだろう、テンちゃんの体が少し熱いような。

 まぁ今はともかく家に帰ろう。



「もうすぐ着くころだね」

 ゴミの人が話しかけてくる。

「そうだね、もうすぐ……あと1~2分……」

 ていうかなんでもうすぐ着くなんてわかるんだよ……。

 実際に家はもう目と鼻の先にあるけどさ。急いだから、かなり早く家まで戻ってこれたはずだ。



「君、見かけよりも体力があるんだねぇ。女の子を担いで結構歩いたと思うんだけど」

そうだなぁ、言われてみれば全然辛くないや。比較的軽量とはいえ、そこまで軽いわけでもない。

そういえば……この人と話してて少し思ったんだけど……。

「なんだか君の声ってすごく安心するね」

変な喋り方だけどなんか落ち着くなぁ。ポリフェノールとか含まれてる可能性があるかも。

「ん? 僕かい?」

ゴミの人が首をのばしてこちらを見てくる。


「よくわからないけどありがとう。ま、僕の声にはまるでマイナスイオンのような効果があるからね、癒されても仕方ないかな」

 なんなんだこいつ……。

「ん……んぅ……」

 その時、背中のテンちゃんがモゾモゾと動いて



「あれ……孔弌?」

「テンちゃん、よかった目が覚めたんだね」

 ようやく家の前まで来たところでテンちゃんが目を覚ました。

「ここ……どこ?」

「ここは僕の家だよ。あの人がちょっと話を聞きたいらしいからとりあえず僕の家に行くことにしたんだ」

「…………」





「君、家族……はいないんだな」

 食堂(といってもほとんど使わない)まで行って、とりあえずイスに腰掛けてゴミの人がまずそう言った。

「うん……両親は二人とも僕が小さいときに事故で死んじゃったらしい」

「……ふむ。ちゃんと保護者はいるのかい?」

 こういう時って大抵"……悪かった"とかお約束なこと言われるけど、この人はそんなことおかまいなしなんだ。

「父さんの友達だった人が一応僕の保護者」



 僕が独り暮らしできるのは一重にそのおじさんのおかげだ。

 親戚がいない僕を引き取ってくれて、何かと生活の手配をしてくれる。

 会える事はほとんどないけど(今まで6回ほどしか会ったことない)親戚のいない僕にとっては肉親のようなものだ。


「さて、それじゃ本題に行こうか……」

 ゴミの人がシリアスな顔で話を切り出そうとする。

「ん……ちょっと待ってくれたまえ、いくらなんでもゴミの人はないんじゃないかな?」

「いや、でも名前知らないし……」

「そうだね、まずは話の前に自己紹介といこうか。僕の名前は謎の男リュウ………とでも言っておこうか」

「謎の男か…リュウって本名?」

「いや、本名は秘密だ……。そのほうがいざという時、展開的に燃えるだろう?」

 もうリュウでいいや。



「僕は阿保孔弌」

 シンプルに自分の名前を告げる、くぅっ、かっこいい僕!

「あぁ阿保孔弌君だね」

「それでこっちが……」

 隣に座っているテンちゃんの名前を教えようとすると



「十二神将の複製の一体、天后の位だな? 探したぞ」

 え、天后の何とかって本名だったのか!?

「天后っていうのは名前じゃない。この子の器の事だよ」

 僕の考えを読み取ったかのようにリュウが続けて説明する。

「器?」

「そうさ……つまり彼女にそもそもは名前なんてないのさ」



「…………」

「端的に言おう天后の位、おとなしく再封印または消滅してくれないだろうか?」

「え!?」

「…………」

 どういうこと? 封印? 消滅?

「あの、それってテンちゃんがいなくなっちゃうってことなの?」

「その通りだよ」



「なんで、どうして?」

「……孔弌、いい」

 僕の言葉に割り込むようにテンちゃんが言う。

「何がいいの? よくわかんないけどテンちゃんを殺すってことなんでしょ?」

「……うん」

「だったら……よくないよ」

 意味が分かんない……かしこい僕でも何が何だかわからないぞ。



「……ボクがいると、孔弌達人間に迷惑がかかるから……。ボクは孔弌達に迷惑をかけたくない」

 どういうことなんだ……?

「落ちついてくれ孔弌君、とにかく順を追って説明しよう」

 最初から順を追って説明してよ……。まぁ賢い僕ならなんとかなるけど。

 いや、うん、別にさっきから自分が賢い事を強調したいわけじゃないからね?

「まず天后の位は人じゃない、妖怪と呼ばれる存在だ」

「…………」

 人じゃない? 妖怪……?



「君は式神というものを知っているかね?」

「敷紙? 床にしく紙のこと?」

「いや、式神というのは……そうだな、西洋魔術とかの使い魔とかわかるかい?」

「つかいま? パシリのこと?」

「……OK、OK」

 何がOKなんだ?



「使い魔というものは、呪術的な契約によって術者と主従関係になっている妖怪のことなんだ。式神っていうのもそれとほとんど同じ」

 …………説明が長い。

「まぁ式神っていうのは広義で考えるとそれだけじゃなくて五種類の意味に分類できるんだけどね。例えば紙や木の葉で疑似生命を創るのもまた式神というんだけどね」

 …………そして説明が堅苦しい。

「それでだね、かつての日本に、ある偉大な陰陽師がいて、その陰陽師が使役した式神がこれまた強大な力を持つものだったのだよ」

 …………。



「あれはもう疑似生命とか精霊とかそういうものを全て超越した、式神でありながら式神を超える存在だったわけなんだが……ちゃんと聞いてる? 寝てないよね?」

「……あ、うん」

 決して、話についていけないから沈黙してたわけじゃないよ?

「その後幾年かの月日を得て、その式神の術式と特性をモデルにある男が十二体の妖怪を創り出して、自分の式神にした……」

「なるほど、なるほど」

「だが、十二体の妖怪を使役していたその造物主の男は善人ではなかったんだよね、これが。実は妖怪を作った人間は、世に仇為すためにその妖怪達を作ったんだ。恐らく」



「ゆえにその男の式神になった妖怪達は、人に仇為すことを最大の目的として活動することとなったわけだ。とてつもなく強大な力を持った式神だったよ。いくつもの村が滅び、いくつもの町が消え、国中にその力を振るった」

「みんなでやっつけようとかしなかったの?」

 普通そんなのが暴れてたらみんなでやっつけようとか思うでしょ。



「もちろん、国中の人間と妖怪が対抗したさ。討伐隊を組んでのまさに国を挙げての戦いだった。けど、相手は本当に強力な力を持っていてそれが十二体もいた。みるみるうちに仲間達はやられていったよ」

 すごい。ひとつの国が持つ全戦力をたった十二体で追い詰めるなんて……。

「でも流石に討伐隊もそこまでやられっぱなしだったわけじゃない。強いが故に世間と距離を置いていた妖怪達の協力や予想外の味方もあり、何とかその式神を封印することに成功し式神達を作った男も倒すことができた」

「めでたしめでたし、ってことだね?」

 話の大筋はわかったぞ、うん。



「ところが……今朝その封印が解けたんだ」

「は?」

 いきなりですかっ!?

「それで、封印してあった式神十二体が全員逃げ出してしまったんだよ……」

 ばつが悪そうな顔でテンちゃんの方を見る。





「で、そのうちの一体がそこにいる天后てんこうくらいなわけ。あ、天后っていうのはモデルになった式神の名前で、彼女はその器を再現された者……ゆえに天后の位。あくまでも元になった天后の強化版フェイクってことだからね」

「……あの、要するにテンちゃんが人に迷惑かけるから、消しちゃおうってことでしょ?」

 賢い僕の頭で今までの話をまとめるとそういう事だろう。

「あぁ。悪いけど世界を滅ぼす可能性を持った悪質な妖怪を放置しておくことはできないんだ」



「でも、テンちゃんは、僕を守ってくれたし、人に悪さはしないんじゃ?」

 そうだ、テンちゃんが悪者のわけないよ。

 このゴミ野郎、ホラ吹いてんじゃねぇぞ!

「……孔弌、そうじゃない……ボクの一番の存在理由と欲求は人に絶望を与えること。ずっと我慢してる」

 とテンちゃん。

「……それホントなのテンちゃん?」



「うん……嫌だけど……自分では、どうにもできないない。今も苦しい、全身が熱い……。だからボク、あの時も……力を十分に使えなくて……孔弌も守れなかった」

 あの時……さっき襲われた時のことか。

「主からの命令を遂行する時に本当の力を発揮するからね、その全く逆の人を守るなんて……。まぁ普通は主がいなくなった場合契約も切れるものなのだが……君たちの場合は特殊なようだな」

 リュウが僕にもわかるように解説を加えてくれる。



「しかし、君が人の味方になっているとは。あの凶悪な十二式神の一体である君が」

「……人の味方じゃない、友だちの味方」

「そうか……」

 テンちゃん……。

「……リュウ、ボクを封印して」

「テンちゃん!?」

 テンちゃんの言葉に反射的に名前を呼んでしまう。

「致し方あるまいな……願わくは君の仲間全員がそういう気持ちになってくれるとありがたいんだが」



「待って、待ってよリュウ」

 突然だ、何もかも突然すぎる……そんなの悲しいだけじゃないか。

 友達がいなくなるのは嫌だ……。

「孔弌君、辛いけど世の中には仕方のないこともあるんだよ」

「でも! どんな事でも前向きに考えていけば、きっとなんとかなる方法が見つかるよ! 絶対に!」

「ふむ」



「そうだな。確かに君の言うとおりだ。悪かった」

 よかった、リュウは思いとどまってくれたみたいだ。

「……孔弌。嬉しいけど、ボクもう苦しいから……」

 テンちゃん……。

 それはとても優しい笑顔だ。だけど、辛そうで……。

「……消えたほうがいいと思う。お願い」

 テンちゃんにこんな思いをさせ続けるのは……。



 でも消えてしまうなら、消えるならせめて僕はテンちゃんに……。

「テンちゃん、名前がないんだよね?」

「うん……そう、だよ」

 それなら……

「それなら、今僕が名前をつけてあげる」

「孔弌……ありがとう」

 名前を送ろう……せめて僕が一生忘れないためにも。

 いつかまた会えた時に、ちゃんとした名前で呼べるように。



「君の名前は今日から……天奈てんな! 君は今日から天奈だ!」

僕がそう叫んだ瞬間



「な、何これ……」

 突然テンちゃんの体が水色に輝き始め、テンちゃんを中心にわずかに風が発生しだした。

「これは……まさか……」

 隣でリュウがうろたえている。

 そしてそのまま

「あれ……」

 テンちゃんの輝きは既に直視できないほどになっていて、何がどうなっているのかわからない。

 そしてその光はそのまま僕の左手に吸い込まれていき……。



 左手も眩い光を放ち、そこの中心からも激しい空気の流れが生じる。

 そしてあまりの眩しさの僕はとうとう目を閉じる。

「っ……ぐっ……」

 風がおさまってから、手を見てみると



「なんだ、これ……?」

 左手に水色の円のようなものが浮かび上がっていた……。

「その印は……まさか神装具かい!? しかも……調伏したというのか!?」

「一体何がおこって……」

 テンちゃんは一体どこにいったんだ?

 まさかもう封印という奴をしたのか?

「……孔弌!」

「え?」

 背中に何かが抱きついてくる感触。



「テンちゃん、よかった無事だったんだ……」

 もう消滅したのかと思ったよ。

「うん、これでボクは孔弌の式神になれたんだよ」

「え?」

 どういうことっすかそれ? 今の一瞬で何が?

 簡潔にわかりやすく説明してください……30字以内で!

「天奈という名前をつけたことによって、この子は君の式神になったのさ。こんな一瞬で契約が終了するなんて俄に信じられないけど……」

 状況についていけない僕にリュウが教えてくれる。

「え、テンちゃんが?」

「うん……孔弌ィ……♪」



「君が主になったことで、恐らく天奈君の強制命令遂行のようなものはなくなったはずだ。君によって上書きされたからね」

「え……?」

「つまりその子は、君が悪事に走らない限り、封印する必要はないってことさ」

 ってことは……。

「やったぁぁあ!! よかったテンちゃん、テンちゃんっ!」

「うん、孔弌ありがとう」

「ま、僕は、君ならこうなりそうな気がしていたけどね……」




「ごほんっ、水を差すようだが、話をしてもいいかい?」

 咳ばらいしてリュウが話を始める

「まず、言い忘れてたが孔弌君、おそらく君もただの人間じゃない。あのゴミ捨て場で僕を助けた時のように君には力をコントロールする才能のようなものがあるらしい」

「力のコントロール?」

「力……まぁ霊力の事だけど、霊力を増幅させたり、分け与えたり、操作したり……」




「そして器の大きさは君の得意な力のコントロールに関係してくる」

 いや、得意も何もそんな才能あるって今まで全然知らなかったんだけどね僕。

「まぁそんな特異体質、僕も今日初めて見たよ……まさか自分の街にそんな子供がいたなんて……。君の存在は知っていたけど……僕はまたもや神失格だな……」

「でも……そのおかげでボクは孔弌の式神になれたんだよ?」

「え? そうなの?」



「あぁ、まず普通はこの子を式神にするのは無理だ。このクラスの式神を従えるには一人で一流の討魔師三十人分ぐらいの力がないとね、でも君には霊力コントロールの才能と生まれ持っての器の大きさという二つの要素によってそれを可能にしたみたいだ」

「僕の才能……」

「全く、こと式神、使い魔に関しては天才だよ……。才能だけで言えば今世界で君に及ぶ式神、使い魔の使役ができる人間は例外の一人を除けばまずいない」

 って、例外が一人いるんだ……。



「それから、君の手に現れたその天色の印、それは多分神装具だ。神装具というのは簡単に説明すると討魔師や妖怪が己の才能を具現化したシンボルの事だ」

 シンボル? この青い刺青が?

「恐らくそれは式神の使役に関する神装具だね。かなり珍しいと言えば珍しいタイプだ。どういう力かは僕もわからないけど……」

 何、つまりこれは固有能力! まさかこれから能力バトルな展開になったりとか?

「今君が考えているであろう事にはならないから安心するといい。こんなもの特技の延長線みたいなものだから」

 なぜ思考をトレースされたし……。

 一息置いて、改めて手の甲とテンちゃんを交互に眺める。



「とにかく、これでテンちゃんはもう無事なんだよね?」

「あぁ、もう天奈君はこの世に破滅をもたらす式神ではなくなった。君の……家族だ」

 そっか……家族か……。



「孔弌~」

 隣に立っているテンちゃんがフワフワした声で僕の名前を呼ぶ。

「どうしたのテンちゃん」

「これからよろしく」

 その言葉を聞いた途端、嬉しさが込み上げてきて。

 テンちゃんの手を無理やりに掴んで

「うん、僕もよろしくテンちゃん!」

 お互いに手を握り合う。



「恐らく霊力は一般人のラインで一時的に回復が止まるのかな……。君の場合は100まで入るとして、0.2ぐらいで回復が止まるってことだ」

 そんな僕らをよそにリュウはまだ説明を続ける。

 しかも、よくわからないけど、何か微妙だねそれ。



「とにかく、君には超一線級討魔師の才能があるってことだ」

 ところで今更だけどさっきから言ってる討魔師ってなんなんだろうか。

「今の君には、わからない事も多いだろうけど大丈夫これからドンドン教えていってあげるからね!」

 というわけでこれから……

 僕にとって今までと全く違う夏休みが始まるらしい。




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